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未踏地偵察

新しい存在です。

 以前から、シベリア大陸西3000kmにシベリア大陸以上と推測される巨大大陸が在るのは分かっていた。

 ただ、人手不足、機材不足で探査はされていなかった。

 それが探査されるようになった切っ掛けは、ディッツ帝国やギルガメス王国連邦との接触だった。特に、ギルガメス王国連邦で聞いた「東の大陸の東にも転移してきた国が現れたそうだ」という情報。それは只の噂ではなく、統一ギルドや王国連邦でも確認している情報だった。渾沌獣対策やエンキドダンジョンの件でかなり信頼度の増した日本には、それまで公開されてこなかった様々な情報が公開されるようになった。

「東の大陸の東にも転移してきた国が現れたそうだ」も、その一つだ。しかも転移していた国だという。これは接触してみなければ。場所を聞いた。王国連邦からはるか東、王国連邦の領域外で詳しいことは分かっていないと。ギルガメス王国連邦の在る大陸の東に諸島が在り、さらにその向こうだとしか分かっていない。


 ギルガメス王国連邦からでは東には直接行けない。途中に推定4000メート前後の山脈が連なっており、上級冒険者が少数で侵入するくらいだという。とても軍隊では無理だと言われた。侵入する理由は、ダンジョンや混沌領域。平地には少ない素材がかなり入手可能だという。高価で取引されるので、困難な場所といえども行くのだそうだ。場所は公開されている。混沌領域とダンジョンの秘匿は重罪であり、隠す者はほぼ居ないそうだ。


 では、どうやって知ったのかというと、ガンディス帝国で活動していたギルガメス王国連邦統一ギルド所属の冒険者が接触した時に居たからだ。日本からすれば、幸運。神様に感謝だ。

 ガンディス帝国と聞いた日本は、ダメだと思った。最近、要求が強引すぎるので交渉におもむくこともなくなっている。まず北ルートは無くなった。

 では南はと言うと「行けないことも無いが、ラプレオス公国ですよ」と言われる。ガンディス帝国は、いくら少ないとは言え交渉の余地はありそうだが、ラプレオス公国は全く交渉の余地はなかった。「全て献上せよ」等と言われれば、交渉する気も無くなるだろう。南ルートも無くなった。

 

 地上ルートはダメだ。海を行くしか無い。しかし、只でさえ遠いギルガメス王国連邦から更に南下するのは遠すぎるとして、ボツになった。

 距離的には西の方が近くないか?と言う声に、そう言えば未踏差領域が在ったな。あの向こうなら、こちらの方が近いかも知れない。となり、軽巡洋艦を旗艦とする探査隊が組まれた。


 未踏地探査隊は総旗艦を新田丸とし、軽巡1隻と駆逐艦8隻の1個水雷戦隊に雲龍級空母白龍と1個駆逐隊が付いた。補給部隊として艦隊型補給艦4隻の第三補給戦隊と艦隊型タンカー4隻の第四油槽戦隊。測量艦伊良湖も付く。駆逐艦は全て松級だ。雲龍級空母は移住者護衛艦隊に全て引き取って貰うはずだったが、ちょっと調子に乗って建造しすぎた。もういらないと言われたのだ。3隻を日本海軍が運用することになった。白龍は3隻の内の1隻だ。

 新田丸には、いざという時に備えて外交官と海軍陸戦隊1個小隊が乗船している。陸戦隊は、東鳥島で鍛えられている。当然、防疫隊と医師も乗船した。

 ずいぶん軽量な探査隊だが、これまでの傾向からして戦艦や大型空母の必要性は薄いと見られた。針路上の海洋性混沌領域を避ければ、通常の船舶でも航行に不安は無いのは分かっている。たまに出てくるはぐれに当たったら、運が悪いとされている。それを早期発見するための空母だった。搭載機は戦闘機を減らし、天山を増やしている。

 また、まだディッツ帝国を信用していないので、強力な戦力を長期出しておけないという理由もあった。


 探査隊はシベリア大陸南端の泊地で休養を取り、未探査領域へと向かう。この泊地は、日本からシベリア大陸西岸に進出することを考えた泊地だった。民間に委託した給油所として古びたタンカーが1隻と、艦隊型補給艦が1隻居る。陸上には、とてもではないが似合わない立派な送受信設備と、簡易な宿泊施設に司令部と言うにはお粗末な掘っ立て小屋が有るだけだった。ここを拠点として軽巡1隻と駆逐艦4隻が常駐して、周辺警備をしている。ここの駆逐艦も松級だ。

 シベリア大陸側は沖合300海里まで、さらっとでは有るが調査している。海洋性混沌領域は無い。その向こうは未知の海域だ。

 泊地警備隊の巡回でも脅威は観測されていない。

 探査隊の探査経路は泊地で最終確認が行われ、シベリア大陸側に沿って2000海里北上。その後進路を西に取り方位270度で未探査大陸にぶつかるまで直進。

 その後は成り行き次第とされた。何がどうなっているのか分からない。成り行き次第になるのは仕方が無い。

 探査隊は陸を右に見ながら北上する。簡易だが探査済みであり、問題無かった。そして2000海里北上した。当初、問題が有るかと緊張したが、何時もの海だった。「シベリア大陸西岸に異常なし」と記録した。

 探査隊はいよいよ針路を270度に取り西進を開始する。ここからは未知の海だった。艦隊速力を巡航18ノットから14ノットに落とし警戒を強めた。途中、針路右手に海洋性混沌領域を発見。針路を若干、南に取る。ボラールが見えたが規模は大きくなく、東鳥島南東に有る海洋性混沌領域と同程度と推測された。

 シベリア大陸西岸から800海里進んだときに


「ワレ陸地ヲ視認セリ」


 先行する天山からの報告だった。この海は北側が狭いのかも知れない。シベリア大陸南端から3000キロだが、今は1500キロ程度だ。ひょっとしたら北側が北極海に繋がらず閉じている可能性もある。それは後の探査隊に任せればいい。今は、未探査領域東岸の探査だ。

 探査隊は、天山と彗星を目にして未探査領域東岸の探査に移る。天山が針路前方の海域を、彗星が陸地を捜索する。時折島があるが、安全を取って東側を航行する。陸地には混沌領域が確認された。この大陸がランエール固有の大陸であると分かった。小出しされる神様情報によると、混沌領域があるのはランエール固有の地域だけ。となっている。

 そして、1000海里南下した。


「ワレ海峡ラシキ物ヲ視認セリ」


 ざわついた。海峡なら西へ抜けることが出来るかも知れない。本土の指示を仰ぐべきか。


「本土との通信なら、シベリア大陸南端の中継局を経由すれば可能です」


 乗せられた外交官の達川光一が、指示を仰ぐべきと主張する。

 だが、総指揮官である大野豊隆陸軍少将は、


「通信はしない。ここで大出力の電波を発信すれば、他者に電波を傍受される可能性が無い訳ではない」

「では、どうするのですか」


 達川は不安なのだろう。上意下達前例主義の役人はずいぶん減ったと思うのだが、彼は指示が無いと上手くやれないタイプか。普段は無駄におしゃべりするのにな。大野は思う。

 

「海軍さんの空母は良くやってくれる。ここでも苦労して貰いたい」

「分かりました。海峡ならどうしますか。中に侵入しますか」


 海軍の衣笠中佐が質問する。


「そうだな。出来れば侵入したい」

「了解しました。その方針で計画を立てましょう」

「頼む」


 天山を出して空中撮影を行った。護衛は付ける。高速の彗星には零戦を伴い真西へ500海里進出させた。

 結果


挿絵(By みてみん)


 ここはどういう海峡なのだろうか。彗星の偵察結果は、向こう側は再び海洋で見通し範囲に陸は視認出来ないと。

 ここで再び、方針の確認になった。


「ここは西へ抜けるのみと考えます」


 護衛の水雷戦隊司令、山田久司少将が発言する。海軍士官の中で最上級で最先任な山田少将は、海軍側指揮官だった。ここは新田丸。主だった要員を集めての会議だ。


「西へですか」


 達川がいやそうだ。


「この探査行は、ギルガメス王国連邦の東遙かに転移してきたらしい国が「西回りで行けるのではないか」と、始められた探査行です」

 

 山田少将が言う。内心は、山下中将の二の舞はいやだ。だが、任務である。恐らく達川も同じような気持ちかな。しかし、任務を優先せねば。


「確かにその通りですな。西へ行かねばならないでしょう」


 総指揮官の一言ひとことで決まった。


 そして探査隊は西へ向かう。

 上空を舞う護衛の下では、測量船伊良湖が慎重に進んでいる。外洋は透明度が高かったが、内海部分は栄養豊富なのか透明度がいまいちだ。だが汚い海では無い。深いところまで見えないと言うだけだ。

 伊良湖が海峡を抜けた。簡易な計測だが、中心部は深いところで1200メートル、浅いところでも800メートルで、よほど岸に近寄らない限り座礁の心配は無いという結果だ。

 内海に侵入した探査隊だが、測量を待っている間に泊地探しも行っていた。結果、北側半島部付け根の湾を利用しようと言うこととなった。伊良湖は忙しい。探査隊は、伊良湖がこの内海をおおよそ計測し終わるまで泊地で休養とした。ここなら、何か不測の事態で逃げるときにも海峡に近いので有利だろうと。

 今は伊良湖だけ忙しい。伊良湖の護衛は交代制で務める。白龍はしばらく飛行作業はしないようだ。軽巡の水偵を使う事になった。今まで外洋は白龍に任せてきたので内海では担当することとなった。


 今日も日替わりで離水する水偵。湾の中は静水面と言っていいくらい穏やかで、カタパルトを使わなくても発進が出来た。

 今日の番は大ベテランの零式三座水偵だ。もう制式後何年になるか。いまだ替わる機体が無いために、改良を重ねながら使われている。後継である瑞雲が攻撃能力は高いものの復座であり、単純な見るという行為と電探専任に人を回せるので、偵察能力なら3人乗りの三座水偵の方が高い。


 その改良何代目だろう五四型は、西へ向かっている。本日は何時もの500海里では無く、600海里進出を命じられている。五四型は発動機を1400馬力を発揮する金星の性能向上型を積んでいる。水上機向け特化とも言える出力特性で使いやすい。また、ボラールの漁獲量が上がったため、彩雲と司令部偵察機以外に、少数機だがボラールのウロコを使うことが許された。零式三座水偵も許された機体だ。防弾に使っている。各種装備が増える等重くなったので、フロートが少し大型化された。胴体中央下面に増槽を装備出来るようになり航続距離が伸ばされた。自動操縦装置の性能も上がっているが巡航速度が遅いので、600海里行くのに3時間半掛かる。単発機で往復7時間は拷問に等しい。



 ピーピーピーピーピーピーピーピーピー

(五月蠅いな。もう少し寝か・・・!)


「新庄一飛曹!おい!起きろ!」

「はっ。申し訳ありません。逆探に反応。え~と、発振元は前方」

「はっきり報告しろ!」

「申し訳ありません」


「申し訳ありま・・」

 レシーバーから新庄の声が聞こえる。さすがに伝声管ではない。

 電探や逆探に反応が有れば、操縦員、偵察員、機銃手、それぞれに音と警報ランプで知らせるようになっている。俺も、余りの気持ちよさに少しな。気が付いたら、音と警報ランプだった。新庄よりも先に起きたので体裁は保てた。長岡中尉は、威厳が保たれたことにホッとする。


(長岡中尉も寝てたのか)

 機銃手の斉藤一飛曹は起きていた。音を聞いて前方を見ると二人ともこっくりと。自動操縦装置の性能が良いから墜落しなかったようなものだ。


「斉藤一飛曹。新庄が忙しい。貴様が電文を起草しろ。取り敢えず「逆探に反応あり」だ。まだ打つなよ」

「了解しました「逆探に反応あり」自動発信準備します」


 電探と逆探が装備され偵察員の負担が増えたことから、通信は機銃手も担当することになった。自動発信装置が付いているので、原文を作れば打鍵ミス無しで発信してくれる。


「電探に反応。前方60海里。発振元に同じ」

「速度200ノット以上で接近中」

「斉藤、打電だ」

「了解」

「次いで「電探に反応あり 200ノット以上で接近中 我接触を試みる」だ」

「復唱「電探に反応あり 200ノット以上で接近中 我接触を試みる」打電します」

「頼む」


 長岡中尉は新庄の誘導で未確認機に近づいていく。相手もこちらを認識しているようで、接近してくる。逆探に反応あり、と言うことは、周波数の近い電探を使っていると言うことだ。

 どう見ても向こうの方が速いし、近寄ってくると言うことは何らかの意思が有ると言うことだ。敵対するにせよ。

 近づいてくるが、まだ見えない。伝説の昼間でも星の見える人なら発見するかもしれんな。


「後10海里。1時の方向」

「電波発信しています」

「斉藤一飛曹。機銃用意」

「撃ちますか」

「命令有るまで絶対撃つな」

「了解」


「後1万、2時の方向」


 そろそろ視認出来るはずだ。


「見えるか」

「5000です」

「いました。2時方向。接近中」


 2時か。ん~。見えた。近づいてくるな。水上機じゃない。低翼単葉だ。太いな。


「斉藤一飛曹は機銃か。新庄、打電だ。俺の指示がなくても相手の様子を打電していい。「未確認機体 低翼単葉 水上機ではない」まずこれを打電しろ」

「復唱「未確認機体 低翼単葉 水上機ではない」打電します」


 すぐそこまで来たな。三座か。艦攻みたいだ。

 後席では新庄がしきりに打電している。

 横に並んだか。敵意は取り敢えず無いと見ていいのか?

 ん?何だ、白いのをピラピラさせているが。白いのを?


「長岡中尉、ひょっとして白旗なのでは」


 斉藤一飛曹が言う。そうかもしれんな。


「おい、斉藤一飛曹。俺は操縦桿から手が離せん。お前、マフラーを振れ」

「了解」


 その間も、新庄は電信を発している。相手も相当量の電信を打っているようだ。





 探査隊では臨時泊地に在って大騒ぎだ。未確認機との接触。一大事である。全艦に出港用意が発令された。最低限に落とされたボイラーから出港可能まで蒸気を上げるのは大変だ。

 少し前


「緊急!偵察に出ている四万十搭載機より入電です。」

「読め」

「はっ『逆探ニ反応アリ』以上」


 新田丸の会議室はざわついた。今後何処まで西へ出るか協議中だった。


「偵察機より続報」

「読め」

「読みます『電探ニ反応アリ 200ノット以上デ接近中 ワレ接触ヲ試ミル』」


「接触だと」

「こちらの確認無しにか」

「いや、ある程度の裁量は持たせてある。問題無い」

「四万十艦長」

「今出ているのは三座水偵なので、逃げ切れないと踏んだのかも知れません」

「攻撃を受けると?」

「相手の正体が分かりません」

「そうだな。確かにその通りだ」


 総指揮官の大野少将は海軍に聞く。


「これは出るべきか?」

「そうですな。我々も向かった方が良いかと」

「では向かいましょう」


 そして出港用意となった。


「戦隊各艦出港用意完了」

「まだ新田丸の蒸気が上がっていないそうです」

「輸送船とタンカーは出港可能です」

「水雷戦隊は前路警戒に出る。錨上げ、抜錨。出港する」


 山田少将が出港を発動した。

 水雷戦隊が泊地を出終わる頃、白龍と新田丸の蒸気も上がり錨を上げた。

 針路、西。




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