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フェザーン油田 失う時

4話目です。

 ガミチス帝国の攻勢はベルフィスヘルム占領後、おとなしくなっていた。

 これは本国から追加兵力を待っていたのと、軍政上の問題で混乱が有ったからだった。


 それに対するディッツ帝国の対応は後手に回るどころでは無かった。

 ディッツ帝国陸軍は総兵力50万人で有る。ベルフィスヘルム守備隊には、実戦部隊の1割近くが投入されていた。それがいきなり壊滅したのだ。混乱は酷かった。


 それでも初期投入戦力がディッツ帝国の数倍にも及ぶガミチス帝国は、その戦力的余裕も有り立ち直りは早かった。

 そして東部戦線司令長官が、罷免されたゼークト中将からドメル中将に代わり司令部も一新されたガミチス陸軍は攻勢を始めた。


 訳の分からない国からの一方的な戦線開始である。準備も何も無かった。取り敢えず前線へ兵力を逐次投入という、やってはいけないが、それしか出来ないことをしていた。遅滞戦術で有る。2万人の避難民を含む人員を後方へ安全に送るためだ。ダンケルクのごとく身一つで後退している兵隊には前線に配備し直す余裕は無かった。一度後退して再編する必要があった。それでも一部が志願して前線に配備された。


「おい、そこの二等兵。弾だ。どこかで弾を見つけてこい」

 機関銃分隊の上等兵が二等兵を見つけて命令する。手元には弾帯があと2本有るだけだった。

「はい。弾ですか。どこに有りますか?」

「見つけてこい。後いくらもない。弾が尽きたら奴ら一斉に突撃してくるぞ。急げ」

「行きます」


 似たような光景はそこかしこで見られた。補給は潤沢で有り弾数は確保されていたが、指揮系統の乱れからどこに何が有るのか良くわからない状態が最前線にはよく有った。

 主力戦車R4は敵戦車に通用せず盾くらいにしか使えない。少し大きい戦車が出てくると負ける。せいぜい障害物代わりだ。対戦車砲の数は少ない。

 それでも敵を受け止め無ければ後退する2万人が犠牲になる。

 救いは空軍のシュニッツァー4が敵戦闘機と互角以上に戦っていることだった。

 更に海軍の虎の子、オスカー1を投入してきた。オスカー1は零戦である。日本海軍が、ディッツ海軍に空母と機体を融通した時、日本に有った旧式の零戦・九七艦攻・九九艦爆を総浚いして持ってきた。旧式機と言っても発動機が魔石添加剤対応になっているかどうかの違いだった。帳簿上は旧式機体を売却となっていた。

 瑞鳳級空母4隻に150機もあれば足りるのだが、予備機や練習機という名目でそれぞれ500機近い機体を売却した。スクラップ値に近い安値だったけれど。

 日本国内では航空機製造技術の維持と代替で必ず月間20機から50機が製造されていた。結果、機体が余るのである。工場や飛行場のスペースが埋まるという懸念から、この機体譲渡は喜ばれた。日本人からすれば、まだ使える機体をスクラップは如何にも勿体ないことだった。

 戦争が始まってからは、魔石添加剤対応機でも古い機体を発動機のみ魔石添加剤非対応に調整して送っていた。零戦200機程度は日本から運び込んだ。

 シュニッツァー4よりも高速で機動性も高く敵戦闘機には有利に戦えた。

 敵戦闘機の武装が貧弱で助かっている面もあった。

 この時敵戦闘機はOs109E3で8ミリ機銃MG8が4丁という弱武装だった。MG13を4丁装備のJu98は艦載機で消耗したため機動部隊ごと後退して戦力の回復に努めていた。


 2万人の人員が鉄道で次々と後方に避難していった。遅滞戦術は成功したのだった。そこで一度戦線を整理することになった。

 フェザーン油田手前100キロまで戦線を後退。そこに防御ラインを設定。持久を図る方針だった。

 この方針は早期に崩れ去った。ガミチス帝国の初期投入戦力が推定よりも大きすぎたのだった。

 ディッツ陸軍参謀本部では5万から10万の兵力を想定していいた。それでも多めに見積もったはずだった。それなら正面戦力は2万から7万程度であろうと。現状投入できる4万で防御が可能なはずだった。

 だがガミチス帝国の初期投入戦力はそれを大きく上回り、新任のドメル中将への援護も有って総計30万という大兵力が投入された。ゼークト中将の頃は総計13万で有った。 

 輸送船も多数配備され、海軍の護衛の元悠々と陸揚げを行った。

 これでは堪らなかった。陸上戦力で劣勢と言うこともあり、多少航空戦力が質的優勢でも数の暴力で押し切られた。

 12万という大戦力で、ディッツ陸軍の防衛線は押し切られてしまった。

 後はフェザーン油田まで壊走だった。

 ガミチス陸軍は部族連合とも連携しているようで境界線から度々侵入・破壊工作があり、その対応にも人手を取られ対ガミチスに集中できない事情があった。


 遂にディッツ帝国政府はフェザーン自治区からディッツ帝国人の退去を命令。またササデュール自治区も同様とした。ササデュール自治区には避難勧告が出されたが従うササデュール人は少なかった。

 

 必死に防衛するディッツ帝国軍で有ったが、遂にフェザーン油田失陥となった。


 この時投入された両軍の兵力は

ガミチス         ディッツ

歩兵 12万       歩兵 5万 後退後再編した部隊含む

戦車 600両      戦車 200両

航空機 1700機    航空機 900機

砲各種 1100門    砲各種 500門 


 この攻勢にディッツ帝国陸軍は1万を超える戦死・行方不明を出してしまった。戦車と砲は全喪失だった。

 残存部隊は航空機の援護下で油田まで引かれていた複々線の鉄道と徒歩・トラックで撤退した。




 シュニッツァー4は、曲線が多めに使われていた従来のディッツ帝国機とは違い直線の多い機体だった。全体の雰囲気はなんとなく瑞雲に似ている。明らかに影響を受けたのだろう。なんとなく優雅な雰囲気の従来機とは違いシャープな見た目だ。


 シュニッツァー4は後に帝国戦争と呼ばれるこの戦争の前半を支えた名機として讃えられることになる。


 シュニッツァー4Mk3 

全幅 10.5メートル

全長 9.1メートル

自重 2.3トン

攻撃過荷重 3.1トン

エンジン ガラハド空冷複列星形14気筒 G1404

緊急出力 1180馬力

公称出力 1060馬力/1500メートル

     880馬力/5500メートル

最大速度 530km/h 5600メートル

航続距離 950キロメートル+補助タンク500キロメートル

上昇力  5000メートルまで6分20秒


武装

AG142 14ミリ航空機関砲 4丁 各200発

爆弾 100キロ4発 胴体2発 左右翼1発


乗員1名


 シュニッツァー4はシュニッツァー社が手がけた戦闘機で引込脚を採用した全金属製低翼単葉機だった。前作シュニッツァー2の低翼単葉だが鋼管フレーム布張り固定脚で400キロも出なかった機体に比べると二世代くらい一気に進んだ印象を受ける。日本からの情報で防弾にも考慮しており敵主力だったOs109が8ミリ機銃4丁と言う弱武装のうちは損害が少なかった。

 Ju98とはほぼ互角である。  

 ガラハド空冷複列星形十四気筒エンジンG1400シリーズはガラハド社製の空冷エンジンで、星形7気筒のG706を複列にしたエンジン。量産性と安定性を狙った無難な設計だった。

 極めて生産性が高いのが特徴であった。

 G1404は日本から導入したトランジスタ点火装置と自社製一段二速過給器を装備した最新型だった。

 直径は1300ミリと火星に近い大きさだった。その大きさと1列7気筒というスカスカさにより冷却は苦労することがない。

 ガラハド社は日本との交流で得られた情報から、新たな空冷星形14気筒と18気筒エンジンの開発を進めており日本もうかうかしていられない。

 特徴としてエンジンの外部動力による始動から、スターターモーターを使った自力始動が可能になった事だった。ディッツ帝国機は今後全てスターターモーターでの自力始動になる。

「イナーシャ廻せ」や「始動車連結」の号令はもう無くなるだろう。



 ディッツ帝国政府と軍はシュニッツァー4の成績を見てさらなる増産を指示。同時に性能向上型の開発も迫った。

 性能向上にはエンジンの開発も欠かせない。ガラハド社にも性能向上を急ぐよう指示する。


 シュニッツァー4と同時に開発が進められていたフッカー6はその空力設計と構造設計のまずさから液冷倒立V型12気筒1300馬力という高性能エンジンにもかかわらず最大速度が500キロも出ない駄作であった。

 エンジン開発元のハイネセン・モーター・ワークス(HMW)社は、既にその高性能で必ず採用数は増えると期待してエンジン工場を大々的に拡張してしまってある。

 泣き付くHMW社と泣き付かれても機体設計に失敗したフッカー社は如何することも出来なかった。

 その事を聞きつけた政府と軍は日本に液冷機が無いか照会する。

 有ることは有るが、如何するのか。

 と言う返答に対して、

 いいエンジンが有るのだが機体開発に失敗して次の機体は時間が掛かる。その間使える機体があればライセンス生産の許可が欲しい。

 と答える。


 有るには有るのだ。飛燕と彗星が。しかし、既に初期設計から10年経つ機体を渡しても良いものかと考えるが、そう言えばディッツ帝国の方が遅れていたなと。発動機自体の大きさは余り変わらない。元はV型12気筒の設計だが倒立でも推力軸の調整が上手くいけば、いけるのでは無いか?それなら恩を売れるなら売っておこう。


 飛燕と彗星のライセンス生産の許可を与えた。この時期日本は政治的混乱から立ち直った蒼空政権が政治を担っていた。

 飛燕については戦闘機が至急欲しいという要請に応えて、川崎でも再び液冷仕様機の生産を開始した。ただし首なし機体で有る。主翼と胴体はAG142の仕様に合わせて小変更が行われた。

 彗星も同様だった。





10月30日は日本の様子を少し。

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