驕れるゼークト久しからず
3話目です。
短いです。
総統府では総統に3軍トップと数名の将官を交えた非公式な話し合いが行われていた。
「東大陸のディッツ帝国をどこまで押し込めるかだが、はかばかしくない」
陸軍参謀長が言う。
「ゼークト中将で大丈夫でありましょうか」
オスマイヤー中将が、不安を表す。
「君は気になるのか」
陸軍長官が聞く。
「彼の人物はどうも良い繋がりが無いようです」
「ん?始めて聞くな。陸軍参謀長、聞いているか?」
「申し訳ありません。個人の対人関係をそこまでは掌握しておりません。性格に少々問題が有りますが作戦遂行能力には関係ないと判断しました」
「うむ、それは仕方が無いか。表面上の経歴は申し分ないものだし、何回か合同で作戦行動したことが有るが指揮能力に問題は無かったと思う」
「失礼ながら、社交上の関係にてございます」
「軍務とは違うところでか」
「はい。彼の妻の実家がウィルヘルム5世派の中堅処と仲が悪かったようでした。彼自体もウィルヘルム5世派とは距離を置いていました」
「そうだな。そう言った人間は排除したのだから」
「それで彼の妻の実家が問題でして、言いにくいのですが、一族そろって自己の能力を過大評価する傾向にあります。[ウィルヘルム5世の乱]で上手く立ち回ったことから余計に増長していると聞きます」
「良く知っているな」
「以前迷惑を被ったことが有りまして。気に掛けてはいます」
そこまで黙っていたデストラー総統が言った。
「そうか。分かった。ゼークト中将の周辺と、東部戦線司令部の人間関係まで含めて、今回の作戦をもう一度評価し直す」
「差し出がましいようですが、その方がよろしいかと」
「オスマイヤー中将、ありがとう。良く言ってくれた」
「ありがとうございます。では、これにて。ハット、デストラー」
「「ハット」」
オスマイヤー中将は退室した。
「では分かっているな。ベルフィスヘルム攻略戦の洗い直しだ」
「「「ハット、デストラー」」」
陸海空の三軍長官と参謀長は指示を実行すべく退室した。
その後の調査でマズい実態が判明した。
東部戦線司令部にはゼークト中将が要請した分の援軍が派遣されていたのだが、それをベルフィスヘルム攻略戦には使わずに部族連合内部を通過してディッツ帝国中部要衝への攻勢を行おうと実行中であった。
それは歩兵三個師団と戦車二個連隊、補給部隊多数であった。
直ちに作戦中止とベルフィスヘルムへの移動命令を出したのは言うまでも無い。
また、空母二隻を基幹とする機動部隊は追加されて攻略戦に間に合うように航行したものの、東大陸北部からディッツ帝国海軍が襲撃してくることを警戒するためにベルフィスヘルムからかなり北へ移動。ベルフィスヘルム攻略戦には全く寄与しなかった。
これをやったのはゼークト中将の判断では無く、ロボス参謀長とフォーク作戦参謀他取り巻き数名が行ったもので、フォーク作戦参謀の自己満足による独りよがりの、作戦とも言えない作文によって実行された。
ロボス参謀長とフォーク作戦参謀は叔父・甥の関係であり、ロボス参謀長の妻はゼークト中将の妻の妹であった。
ゼークト中将は、ロボス参謀長が差し出す書類にろくに目を通さずサインして認めていたという。
ロボス参謀長とフォーク作戦参謀は、帝国参謀本部に提出する作戦記録を自分達に都合良く改竄。ゼークト中将も確認せずに認めていた。
ロボス参謀長とフォーク作戦参謀は、銃殺刑となった。島流しはと言う問いには「燃料の無駄」と答えが帰ってきた。
ゼークト中将は罷免され、階級剥奪後、軍刑務所に10年入る事になった。
独断を知りながら加担した者も、似たような処分を受けた。
海軍機動部隊は、北部海面での哨戒活動自体は間違ったことでは無いし、命令書に従っていたため不問とされた。
現在、東部戦線司令部はドメル中将が代理としてバラン島司令と兼任している。いずれ東部戦線司令長官に任ぜられる予定だ。




