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ガミチス 前進の日々

 ガミチスは来たるべき世界征服戦争への前段階として、前進基地の造営に励んでいた。

 北の国も東の国も遙かに遠い。いくつかの中継点を作り備蓄しておかねば、前線はあっという間に干上がるだろう。幾多の戦いを経験しているガミチスは、良くも悪くも様々な経験をしている。


 北の国に対しての前進基地として、赤道付近に有った諸島を無主地だったので占拠。ガミチス領として前進基地の設営を始めた。北の国も、ほぼ同時に進出しており北ソレイル島は北の国に旗を立てられた。しかし、旗立て競争はガミチスの勝ちで7割の島を手にした。

 その時交渉をしたが、どうも不興を買ったようで物別れに終わった。相手の国名はファイウォール公国と言った。

 ガミチスとしては、我が国の支配下に入れと言っただけなのだが。

 その後も数回交渉を重ねるが、はかばかしくなく、現在は没交渉だ。


挿絵(By みてみん)


 ガミチス帝国建設師団は、南ソレイル島に基地を建設中だ。

 北の国への前進基地である。

 島の南側に港湾に適した大きな湾と広大な平野部があり、最適と思われた。

 素晴らしく広い土地で港湾適地も多く、前線への中継基地として最適と思われた。将来的には植民も行うつもりだ。


 北の国ファイウォール公国は一番大きな島、北ソレイル島に基地を建設中という情報が入っている


 出来れば早期に工事を進め部隊進出を図りたい。幸いにもガミチス帝国のアキレス腱である鉄鉱石不足は転移後北西にあった島で大規模な鉱床を発見。


 何でも大量に有るとまで言われたガミチスに在って、鉄鉱石だけが少ししか産出しなかった。具体的には国内需要の2割程度だ。

 東西2600キロ南北2000キロの広大な土地には様々な植物資源も豊富に栽培されている。

 過去の苦闘から、資源は一国で完結すべく様々な開発を進めてきた。ゴムや椰子も北部亜熱帯地域で栽培されている。単位面積での収量は熱帯に劣るものの広さでカバーしている。面積当たり収量が低く採算割れだが、戦略物資として補助金を栽培農家に出している。

 食料も自給率は120%を超える。その気になれば150%も可能だろう。芋も麦も広大な畑で栽培されている。動物性タンパク質は魚よりも鳥・牛・豚を好み、やはり広大な牧場が多数ある。

 人口も着実に増えている。

 転移前最大の戦役ではかなりの苦戦をし、かろうじての勝利だった。帝国人口ピラミッドの50歳から60歳の男子のところ所に凹みが見えるほどだ。

 30年前の大戦争以降はやれば勝つ状態だった。

 魔神が現れるまでは。我の10倍を超える魔神の軍勢の前に撤退を強いられ、ずいぶんと占領地が減った。 

 魔法攻撃も物理攻撃も数と強靱な耐久力を持つ魔物の前に勝てなかった。

 その魔神戦での消耗は、30年前の大戦争とまではいかないが相当に多い。人口ピラミッドは25歳から35歳が凹んでいる。

 魔神を嫌いガミチスへ逃れてきた人間も多い。気がつけば1億5000万人の人口が1億7000万人になっていた。2000万人の避難民だ。

 魔人がほとんどのガミチス人とは違い、普人族である彼らは避難民ということもあり少数派で立場は低い。

 ガミチスとしてはスラムを形成されると拙いので、適当に仕事を与え浮浪者にならないように注意している。



 そしてこの世界にやって来た。

 初期の混乱が収まり国内が安定するかと思ったが、ウィルヘルム五世と国家安全機構が色々やらかしてくれた。

 デストラー総統の尽力で両方とも排除されたが、国内には不満も多い。経済も旨く回っていない。巨大な生産力と軍事力を持て余す国内だ。既に人余りの状態で失業者も多い。特に避難民と低学歴層に失業者が偏っている。社会不安は治まるどころか悪化している。

 国内安定のためには外へ出て行かなければ行けなかった。

 古今東西、内政に困ったときは外に敵を求めるのだ。行き着くところは戦争だ。

 幸い世界征服は国家目標である。  

 偵察の結果、東の国は技術的に遅れており複葉機のレベルだ。

 北の国は多少ましなようだが、やはり複葉機である。


 統合参謀本部では充分勝算有りと結論づけた。

 

 

 東の大陸に対する前進基地は、選定が難しかった。

 まず直線上に大きな島が無いこと。直径10キロ程度の島ならいくつかあるが、島全部が山だったり、正体不明の獣が多数いたり、適地は少なかった。巨大な魚が遊弋している海域もあり危険で近づけない場所もある。

 やがて、何回かの探索後に赤道に近くなるが、大陸を発見。ここも無人であり、無主地としてガミチス領とした。前進基地にするのは南端に有る100平方キロくらいの開けた土地だ。

 ここに中継点を作り、さらに東の国へ近いところに前進基地を求めた。

 やがて、東の大陸にほど近い(1500kmほど)ところにある島を見つけた。それなりに大きく、無主地であったために、ガミチス領とした。名前はオーレリア島とし、基地設営に入った。


 その後、さらに近い島を見つけガミチス領とした。名前はバラン島。 


 ガミチス帝国が東部への進出拠点として整備中の外周300キロほどの島。バラン島と名付けられた島の、中央やや北寄りに標高300メートルほどの山と言うか高台地帯があり、そこから結構豊富な水量が流れ出している。南部にも200メートル級の高台地帯があり、同じように水量豊富な流れがある。水に恵まれた島だ。

 この島に進出後、この星の3年が過ぎたが雨期は無く、ほどよく降る雨でこの水量が保たれているようだ。

 開発部隊の司令はこの南北の高台や山周辺を立ち入り禁止にして水源の清浄さを保つ気でいる。

 進出してきた陸軍とは

「山を訓練に使わせろ」

「山でクソと小便をするからダメだ。お前らも飲む水なんだぞ」

 と言い合っている。多くは開発部隊の司令に賛成だ。ちなみに開発部隊の司令はそのままこの島の最高責任者になることが決まっている。陸軍は逆らわない方が良いのに。

 結局山岳訓練は北部半島の100メートル級の小高い山で行われることになった。


挿絵(By みてみん)



 植生は豊富であるが食用になる物は少なく、また動物もいてもウサギ程度で肉の入手もままならない。

 北の方にバナナが採れる島が有るというので、移植も考えている開発部隊の司令だった。本土から農民や失業者を入植させて自給自足を考えているらしいが、この人物はどこへ行こうとしているのか。

 後に聞いたところでは、このバラン島は領土で有り恒久的な基地にすると言うことで総統命令でやっていると聞いた。

 それは責任重大だ。


 現在、各軍港と至近の飛行場は簡易鉄道で連絡されているが、将来的にはガミチス軌で複線化をするという。

 軍港間にも鉄道を敷設する予定だ。

 ガミチス軌は、元の世界で鉄道が普及を始めたとき規格が乱立した頃がある。その時、鉄道王と言われた人物が規格統一しようとした。一説では彼の孫娘の身長を元にしたと風説がある。

 彼は国際社会に働きかけ、戦乱の時代で無かったことも幸運だったのだが国際標準規格にする事を成功した。

 しかし既に敷設されている鉄道も多く、統一以降の鉄道という条件が付いた。それ以前の鉄道は努力目標とされた。 

 当時、社会資本の整備が遅れていたガミチスはこの規格を採用。既に敷設済みであっても国家の強権で付け替えを行わせた。もちろん国も補助はしたが。

 この時、国内全線で同一規格鉄道導入による輸送効率の高さが各国に注目され、他国でも国際標準規格化を始めた。

 先進国に先駆けて行った軌道標準化はガミチスの自慢であり、国内ではガミチス軌と呼ばれるようになる。

 他国では、国際標準軌と呼ぶか規格提唱者の名前になっている。



 実際、東の大陸を制覇するに当たって、この島の位置は重要になるだろう事は明白であった。この島をベースに更に北方へ足を伸ばすという。現状ではそこまで手を広げるのはガミチス帝国の国力を持ってしても難しく、まずは東の国に手を出し征服してしまう。と言うのが従来の考えであった。しかし、[ウィルヘルム五世の乱]の混乱でかなりの人数が変わった首脳部は、威力偵察をして問題なければ一気にやるという考えに変わっていた。

 前の世界なら情報は十分すぎるほど得られた。だがこの世界では無いと言っても過言では無い。今頃気がついたと焦ったようだ。ひょっとしたら魔神に思考誘導されていた可能性もあった。魔神との繋がりが切れたことで影響は残っているが、徐々に正気になったのかも知れない。そして情報が上手く得られないのなら、強引に収集すると。



[ウィルヘルム五世の乱]の時、この島でもテロは起こった。工事は中断された。この島のテロは品質を低下させるという悪質な物だった。まだ破壊の方がマシだというのは、工事関係者だ。品質は落ちたようで、その後の確認作業が大変だった。幾つかの建物が解体された。船舶ドックも工事日を割り出しその部分は解体再工事となった。

 これはガミチス帝国全体にわたっての行われたテロの一環であり、帝国本土でも品質低下で相当落ちていたようだ。


 あの乱によって帝国の世界征服スケジュールは1年以上延びてしまった。その分潜水艦による偵察は増えている。

 Ⅶ型潜水艦の長距離偵察仕様であるLR型はグリューネ少佐らの実績によって有用であるとされた。現在10隻程度が運用されている。更に増やす予定である。

 海軍は、前の世界の3000キロも行けば他の地面にぶつかるような海では無い、この広い海の有る世界で、偵察潜水艦部隊を独立して運用する気でいるようだ。

 帝国の西は化け物だらけの海なので当面進出は控え、北と東に全力を投入するらしい。



 最近、又東部侵攻スケジュールが変わった。

[ウィルヘルム五世の乱]で起きた混乱が収まり、生産が正常になりつつあった。海軍力と空軍力がかなり強化されたため、従来のスケジュールから10ヶ月程遅れるくらいに戻すというのだ。




「つらつらと思いましたが、実現可能なのでしょうか。司令」


 副官のバイエルライン大佐が疑問を呈する。


「だが、決定されたことだ。我々は命令に従うだけだよ。抗命するようなことでも無い。違うかな」


 バラン島開発部隊の司令、ドメル少将が言う。


「確かにその通りですが、早すぎないでしょうか」

「国内の開戦圧力が強いようだ。内部で暴発しないようにガス抜きをしなければいけないらしい」

「[ウィルヘルム五世の乱]の影響ですか」

「そうらしい。情報部の分析ではそうだ。それに我々も影響を受けたのは変わりない」

「総統も大変ですね」

「まあな。そのとばっちりがこちらに来るわけだが。たまったものでは無いな」

「本当ですね」

「空軍だが、あの飛行機で正気なのか」

「Os-109ですか?」

「そうだ。700キロしか飛べないだろう。精々この島の防衛、いやそれも怪しいか。そんな戦闘機ばっかり持ってきてどうしようと」

「司令は最新計画書にまだ目を通されていないのですか」

「ここにある」


 机の上に有った。目を通してあった。


「君も、もう目を通したな。どう思う?」

「例の救助者が本当のことを言っていれば良いのですが」

「あの情報を元に立てた計画か。裏付けも取れない情報を元に立てるのか。おかしくないか」

「最近偵察も強化されていますし、こちらが知らない情報が有ってもおかしくないです」

「こちらに知らせずにか。計画の裏は分からんが、とにかく損害を最小限に抑えるように行動する」

「分かりました。それで将軍、来月の総統視察ですが」

「オッと、そうだったな。何、問題は無い。他と同じだ。テロの影響で遅れている。この島は遠いので、どうしても資材が遅れがちになる。そう言っておけば、大丈夫だ。多分」

「多分ですか」

「あのテロの影響は、帝国全土だ。こんな僻地なら遅れるのも当たり前だろう」

「戦争が近いですから困りものです」

「いやいや、戦争など無ければいいのだよ。そうすれば、我々は生死を賭けること無く給料を貰える」

「誰も聞いて無くて良かったですね」

「国家安全機構はもう無い」

「はいはい」


 デストラーの視察は無事終わった。特に問題は無い。これからも頑張り為へ。と言われた。

 デストラー総統はその後、極秘裏に部族連合と称される地域を訪れた。




 東の国に関する情報は、以前救助した漂流者から聴取した内容だった。

 彼の者は漁師で、出漁したはいいが酷い嵐に巻き込まれ難破・漂流していた。それを偵察に出ていた潜水艦が発見。バラン島に連れ帰ったものである。

 バラン島でも聴取したが本国に連れ帰って詳細な聞き取りをした。


東の国は

国名 ディッツ帝国。政体は皇帝を頂点とし、議会が補佐する中央集権国

人口 1億2000万人 プラスして征服した人口がおおよそ2000万人

軍事力 

 一般市民であり田舎の漁師と言うこともあって多くを知らず

 陸軍は50万人 徴兵制有り 漁師も陸軍で2年間過ごした

 徴兵で入った者であり訓練と陸軍以外の詳細は知らず

 陸軍についても詳しいことは知らない

 ほぼガミチス帝国と同様の編成と思われる

 移動は鉄道と徒歩が主体 トラックの台数は少ない

 戦車は40ミリ砲搭載

 150ミリ級大砲有り 

 海軍は内海艦隊 戦艦はある 34センチ砲8門装備 他不明

 空母の存在は知らない 空母の意味も知らない

 空軍はある。最新爆撃機が時速400キロだという


 ディッツ帝国も転移してきた国で内海の穏やかな海だったという

 漁船は外海の荒波に苦労している 

 燃料には不自由していない

 最近外の国と貿易が始まり国内に活気が出てきた

 外の国の名は 日本


 人口は大陸東部に集中している

 西部は開拓が始まったばかり


 自分は最北端の漁師町の住民

 西岸へ新しい漁場の開拓に出て嵐に巻き込まれ難破した


 

 この不幸な漁師が難破したのはグリューネ少佐が聴音だが艦隊を発見した後で現時点で最新情報。


 戦車はⅣ号戦車、いやⅢ号戦車でも充分勝てる。四十ミリ砲がどのくらいの威力か判らないが威力次第ではⅡ号戦車でも対抗は可能だろう。Ⅴ号戦車では大げさだろう。

 航空機は艦上機で複葉機である。陸上機なら単葉機もあるだろうが、わがガミチス帝国の機体が圧倒するであろう。

 戦艦は強敵だが、たかが三十四センチ砲搭載艦がガミチス帝国の誇る四十センチ砲戦艦には勝てるわけもない。



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