ガミチス帝国 軍事再編
ガミチス帝国はいうまでもなく侵略性の高い軍事国家である。これは歴史的に虐げられた期間が長く民族的意識として復讐が侵略に変わってしまったものだ。
*前回書いたが、サイティックス神の仕込みである。
デストラーは三軍の長官と参謀長を中心として軍の再編に入っていた。ウィルヘルム5世に任命された前空軍長官と前空軍参謀長は罷免された。戦力の中心となる航空機運用と航空機開発をあの二人の好きにさせていたのは、前総統ウィルヘルム5世だった。ようやく見つかり、処刑されて影響力が無くなったのを確かめてから、子飼いだった空軍トップ二人の更迭が出来た。
今は、ガーランド空軍長官とヘフナー空軍参謀長だ。
他の影響力も排除出来、再編は進むはずだ。
海軍では空母艦載機で揉めていた。オッサーシュミット社製のOs109の艦載機型Os109Sである。
この機体は小型軽量をモットーとして、主翼に必要以上の強度を持たせないとしたために、基部を胴体取り付けとした引き込み式の主脚は、トレッドが狭い上に強度不足で離着陸の事故が多かった。
揺れない大地でこれである。揺れる上に制御された墜落と言われるほどの着艦では更に事故率が上がった。
主翼が高速性を重視したせいで薄く小さく、炸裂弾が使用できる大型航空機関砲の搭載が出来なかった。20ミリ級大型機関砲は倒立V型のエンジンブロックの間を通りプロペラシャフトから弾丸を発射するモーターカノンの開発がされてるが、どうにもはかばかしくない。結果、武装は8ミリ機銃4丁という情けないものだった。
薄く小さくした主翼で燃料タンクの設置にも困り胴体タンクしかない。設置が可能なスペースはラジエターに取られた。航続距離は700キロもなかった。
薄く小さい主翼のせいで高翼面荷重となり艦載機には適していない。発艦には長い滑走距離が必要だが、カタパルトは実用化していない。空母が30ノット以上で風上に向かって航走し、飛行甲板最後尾手前から滑走しないと、発艦速度に乗れない程だ。1回に発艦出来る機数は飛行甲板最後尾とその手前の5機程度であり、実用とするに無理がある。
液冷式は高速発揮には良かったが、反面緊急発進には向いていなかった。空冷に比べて暖気時間が多く必要で、空母での取り扱いでは緊急発進が出来ない事が問題になっている。暖気を随時行えばいいのだが燃料タンクが小さく航続距離が落ちてしまう。
貧弱な武装の上に、とことん艦載機には向いていない機体だ。
また搭載エンジンのマルレーネ・ボンツ社製MB600は熟成されておらず度々問題が出ている。飛行中に故障しても、陸上なら帰還できるかも知れないが、海の上だと帰還もおぼつかない。
要するに海軍からしたら不要な機体。しかし、前空軍長官時代に大量に押しつけられてしまった。
海軍長官ヒルベルストとと海軍参謀長ブランデンは困っていた。使い物にならない機体をこんな大量に如何しろというのだ。
替わりの機体として開発中だったユンケルンCは開発中止とされていた。
ユンケルンCは艦載機としての使い勝手を追求した機体で、原型の空軍向け試作機ユンケルン3Bを基本としている。
空冷エンジンと主翼取り付け主脚で広いトレッドと1500キロという航続距離、130キロ台の低い翼面荷重、主翼と胴体に13ミリ機関砲MG13を6門装備する。MG18に換装できないか検討中の所で空軍にばれ、開発中止にされてしまった。
速度こそOs109には及ばなかったものの総合力では凌駕している。
メーカーのユンケルン社では直ちに開発を再開できるとしているので、開発の再開を求めた。
Os109は全部空軍に放り投げることにした。
ユンケルンCの完成までは、旧式になるがハインカースHe58を整備して使うことにした。しばらくは訓練しかしないのだ。離着艦が安全な機体でパイロットを育てる。
オッサーシュミット社が文句を言ってきたが、艦載機としての弱点をつらつらと指摘し、何故改善しなかったのか問い詰めると、奴らは顔を真っ赤にして帰っていった。もうウィルヘルム5世はいないのだ。優遇してくれると思ったら大間違いだ。
空軍はオッサーシュミットOs109E3の大量配備と共にOs210Bもまた大量に配備されていた。そこに海軍から使えねーとばかりに300機のOs109Sがやって来た。109Sは109E1に着艦フックと主翼内浮体構造としたもので重量がそれなりに増加している。増加した重量で性能は落ちている。
Os210Bは、まだ前の世界で地続きの頃企画されたOs110の後継機である。
Os110は爆撃機を援護し長駆敵地に侵入、迎撃機から爆撃機を守るというコンセプトで開発された。当時開発されていたOs109では航続距離が短く無理で、どうしても双発になってしまう。
それならOs109を二機並べて双発双胴にしてしまえば、部品の多くをOs109と共用でき生産性が高いのではとの発想から生まれた狂気の飛行機だった。
とにかくそのまま使ったので主脚は四本有った。復座でひとりやられても帰還できるように操縦系統は並列で左右切り替え可能となった。酷い整備性である。
航続距離を稼ぐ燃料タンクは中央翼に大型のものが設置された。これで2000キロという航続距離を稼いだのだが燃料配管も左右エンジンに供給可能でどちらのパイロットでも配管を操作可能なように二重系統としたために整備性が更に悪化した。
戦闘機としての性能は最高速度こそOs109よりも少し速い程度だったものの、上昇力で酷く劣り、旋回性能はOs110が一周する間にOs109なら二周以上できるほど鈍重だった。
武装も8ミリ機銃6基と言う弱武装で、高価で生産性も悪くどうにも使い物にならないとしてお蔵入りになった機体だ。
Os210は普通の双発戦闘機として開発された。見た目は普通の双発機である。
ただこの機体も対戦闘機を意識されていた。Os110の旋回性能の劣悪さを回避するために低翼面荷重とした巨大な主翼とそれを支える胴体などですっかり重くなってしまい、速度は500キロしか出ない戦闘機になった。同時期のOs109は540キロ出る。
さすがに武装は18ミリ4丁となり機首に集中配置され破壊力はあった。この18ミリ機関砲はウェルベメタル社製MG18でガミチス帝国初の炸裂弾を使用できる航空機関砲だった。砲口初速830メートル、発射速度毎分850発という優秀砲であり、弾道も8ミリ機関銃以上に伸びた。
問題は、信頼性と整備性を重視したため若干大きく重いのと精密加工が必要なことだが、ガミチスの銃器製造レベルなら問題なかった。
作動機構や弾薬も含めたシステムでプロペラ同調が可能であり、ガミチス帝国軍用機の標準装備となっていく。
Os210Bは量産試作機ともいうべき210Aに爆撃能力を持たせた機体で1トンの爆装が可能だった。
対爆撃機用戦闘爆撃機という双発復座戦闘機にありがちな所に落ち着いた。
空軍は現主力戦闘機のOs109に拡張性と将来性が低いため期待せずにいる。現在、各社にMG18を2丁とMG14を2丁以上装備した次世代主力機の開発指示を出したところだ。
陸軍はウィルヘルム5世最後期に、おかしくされてしまった。強襲上陸用揚陸艦の建造が打ち切られ起工済みの船体はスクラップにされてしまった。替わりの計画だと普通の貨物船を使って揚陸で十分となっている。誰がこの計画を立てたのか知らないが、デストラー就任後任命された陸軍長官モーデルと陸軍参謀長ハルダーは、強襲揚陸艦は必要として再整備計画を立てなくてはいけなくなった。
それだけではなかった。せっかく試作まで行った画期的戦車と言えるⅤ号戦車を白紙にされた上に再設計だとばかりにⅣ号戦車をただ単に大きくした戦車をⅤ号戦車として制式採用していた。3ヶ月で300両も作られてしまった。生産ラインも作られてしまったので今更無しにも出来ない。困ったものだ。
Ⅴ号戦車を試作していたヘンケン社はⅤ号戦車の製作を受注できたのでどうでもいいらしいが、あの戦車の推定能力は素晴らしいとしてⅥ号戦車を発注した。85ミリ高射砲の砲身を戦車砲に転用した陸の王者とも言える重戦車になる予定だ。
他にも、金の掛かる装備品が安価で低品質低性能な物に変更され、その差額が消えている。
ウィルヘルム5世と関係者の仕業だろう。金の流れを追って取り返さねばならない。
陸軍は数が多いだけに、再整備に時間が掛かることは明白だった。




