表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/245

神の介入

 ランエールは怒っていた。

 人間を魔王化する事自体は、自分の世界で実行なら問題にもしないだろう。

 だが人様の世界でやるとは、信義にもとる。

 しかも、なんだあのGスレイバーとか言う奴は。神が人々を隷属化すること自体禁止事項だ。奴の作ったアイテムだ。当然抵触する。いくら使用は一回限りとしても酷すぎる。


 ランエールは魔神プレイをしている神、サイティックスの世界に行く前に様々な神々と折衝していた。

 地球が無くなったため日本にくっついてきた八百万の神々。ファイオールの元いた世界の神。ディッツ帝国を見守っている元の世界の神。

 他にも魔神プレイを嫌う神や隷属化を嫌う神、暇そうな神々等とも折衝をしていく。


 ランエールが旅立ってから半年が過ぎた。




 その間にも、ガミチス帝国内では、テロ準備が進んでいる。

 実行者はウィルヘルム五世の奴隷と言ってもいい。

「使えるのは一回限り」と、宝玉を使った後で勝手に理解出来た。

「だがそれで十分であろう。私が帝国を支配するには十分だ。そして世界征服する。ワーハッハッハ」







 ランエールはサイティックスの世界に来ている。他の神々を伴って。


「サイティックス、神が人々を隷属化することは禁則事項だ。隷属化のための道具を人々に与えることもな。よもや忘れたとは言わせん」


「僕はやっていないよ。奴が勝手にやっただけだ」


 ジュッ 

 サイティックの耳の上で髪の毛が一瞬で蒸発する。


「誰さ、今いきなり攻撃したのは。ハゲるじゃないか」


「しらばっくれるな。私の世界でウィルヘルム5世が使った隷属化アイテムはお前が持たせたのだろう。そのせいで人間性まで変わってしまった」


「証拠を出して貰おうか」


「証拠はこれだ。お前、一回使い切りで跡形も無く消える設定で作ったんだろうが、作りが甘いな。体の中に残っていたぞ」


 その場に黒光する薄っぺらいカサカサいって動く奴を積み上げる。50匹くらいを。


「「「「ウギャー。やめろ。そいつらをここに出すな」」」」


 さすがに全神どん引きである。まだ動いているから、そこら中に散らばっていく。神は浮き上がって回避するが此奴ら突然飛ぶのである。

 神も回避する。


「コンチキショー。停止停止。止まれこのやろー」


 サイティックスの命令で、カサカサが全部止まった。


「ほう?止まったね。我々の停止命令は効かなかったぞ。どういう事かな。きっちり説明して貰おうじゃ無いか」


「え?な・ん・の・こ・と・で・しょ・う」


「こいつは、お前が作った物に違いないよな。でなければ停止命令を聞くわけも無い」

「まだしらばっくれるかな」


めたな。本来なら僕以外の神の近くではボロボロに崩れ去るはずだ」


「さあ、答えて貰おうか」


「それは・・・、さいなら~」


 突然逃げを打つサイティックス。


「甘い」


 サイティックスはアリアンロッドとプイスに回り込まれた。


「な!」

 

 向きを変えるサイティックスだが、新たな進路上では


「ドスコイ!」


 建御雷が待ち構えていた。見事な突っ張りである。


「うげ」吹き飛ばされた。


「この数の神相手に逃げ切れるわけ無いでしょうが」


 倒れたサイティックスの頭をウリウリと踏みつけるランエール。サイティックスの部下達は到底勝ち目がないので見ているだけだ。如何に神望が無いか良くわかる。


「うう、ごめんなさい」


「いやあ、全く心がこもっていないね」


 神が隷属化アイテムを使うことを酷く嫌っているササマイル神が言う。


「いいかい、人が自ら作り出して人に使う分には問題にしない。これは人の問題だからだ。もちろん余りにも酷ければ多少の介入は行う。世界を余り酷くしないためにね。これは多くの神々の指針である」


「だからアレは僕のせいじゃない。ウィルヘルム5世が勝手にやったことだ」


「うん、確かに勝手にやったことだ。だが、あのGスレイバーを作ったのは君だろう?違うかい」


 今度はササマエダ神が問う。


「そうだよ。お土産に持たせたんだ」


「どうしてそんなお土産を?」


「そりゃー、面白そうじゃ無いか。イタイ、イタイ、イタイ」


 ひときわランエールの足に力が入った。


「それで?」


「それで?って?」


「何をしたかった?」


「ほんとに面白そうだったから。イタイ、イタイ、止めてグリグリは」


「お前、人々を元に戻せるんだろうな」


「え?なんで?」グリグリ

「ウギャー。痛いから止めて」


「戻せないのか」


「ウィルヘルム5世の額に制御用の宝玉がある。それを破壊すれば隷属化は解ける」


「本当だろうな」


「本当です。足どけて」


「まだだ。人々の目が赤くなったのは?体に付いた傷は?」


「普通の目に戻ります。ウィルヘルム5世自体にはとても魔王の器量はない。Gスレイバーの影響です。傷は消えません」


 グリグリグリ


「イダダダダ」


「精神的な影響は」


「それは・・・」


 グリ!グリ!


「アダダダダ」


「精神的な影響は?」


「完全には無理です」


「無理だと?」グリグリ


「痛たたた。えーと、アレです。5年から10年ほど影響が残ります」


「じゃあ、隷属化されていたときの記憶は有ると」


「有ります。なんとなくおかしかったな程度の。ただ完全に無くしてしまうと精神的におかしくなる。さすがにそれは望まない」


「ほう。何故だ?」


「だって、それやって存在を消された神がいるじゃない。僕は、もっと色々面白いことをやってみた・」


 グリグリグリグリ


「イダイ、イダイ、止めて」


「ではウィルヘルム5世自体はどうなる。額の宝玉を壊した後だ」


「多分死にます」


「死ぬんだ」


「あれ、脳ミソに深々と刺さってますからショックで死にます」


「まあ奴はどうでもいい。壊した後で本当に隷属化はなくなるんだろうな」


「無くなります。ただ命令された事項は続行しようとしますけど」


 ゴリゴリゴリ


「いだだだだだ」


「奴が命令したのはテロだ。自分が魔王だといってな。奴がいなくなっても続行するのだな」


「はい。命令の効果が無くなるまでは」


「それが5年から10年と言う事か」


「そうです」


「ウィルヘルム5世自体には全く期待していないが、デストラーならまともな魔王になっただろうに」


「え?」


「どうせお前のことだ。指導者を隷属化して、強制的に魔王にしようとか思っているのだろう」


「・・なんで」


「お前、管理神としてはまだ新神だな?」


「もう数万年はやっていますよ」


「たったそれっぽっちか。お前を取り囲んでいる神々は平気で数十万年やっている神々ばかりだぞ。魔神プレイから破壊神までやり尽くしているわ」


 ブーブー。

 出鱈目である。そこまでやったのは一部だ。酷い濡れ衣だと文句が出る。


「へ?」


「その程度のトラップなどやり尽くしたのだよ」


「えーと?」


「だからといって、お前を許すわけではない。皆、人を隷属化しないという事は徹底していたからな。隷属化してしまえば面白くないのだぞ」


「は?禁則事項では?」


「数十億年も交代でやってきたんだ。中にはもう、存在自体飽きて消えた神もいる。色々やってきてその結果だよ。禁則事項というのは」


「え~と、皆さんやったことがあると」


「この中には隷属化した事のある神々はいない・・はず?」


「少しの人数ならやった神はいるが、民族丸ごとはないな」


 ササマエダ神が言う。


「じゃあ少数なら・・」


「厳重注意くらいだっただろうな」


「僕、やり過ぎました?」


「「「うむ」」」


「は~ああ~あ」


「分かったなら、これより罰を与える」


「既にグリグリされたいますが」


「これは俺の八つ当たりだ。気にするな」


「酷」


「ふん。人の世界で好き勝手やった奴が何を言う」


「お前の罰は禁固1万5000年と、解けた後で最下級神からのやり直しだ」


「ちょっときつくないですか」


「気にするな、たった1万5000年だ。行き先は選ばせてやる。熱いとこと寒いとこ、どっちがいい?」


「暑いのにが手なんで、寒い方が」


「熱い所[熱望]と」


「酷くないスカ?」


「罰だぞ、休暇じゃないんだ」


「どんな所なんでしょうか」


「どこでしたっけ?」


「ん?ああ、大丈夫。フレアは届かないから。多分」


 ルーが答えた。


「あのー、ルーさんて太陽神ですよね。じゃあフレアというのは」


「まあその通りだよ」


「寒い所でお願いします」


「いわゆるコキュートスだな。最下層、氷結世界だ」


「ほどほどの所がいいっス」


「罰なのだよ。執行部隊はもう少したら来るからな」






「さて、皆さんありがとうございました」


「気にしなさんな。助け合いだよ。いつか世話になるかもしれん」


「その際には助力を惜しみません」


「頼むよ」

「じゃあね」



 神々は解散した。






 ランエールは帰ってきた。


 

「私がウィルヘルム5世に憑いている制御用の宝玉を破壊する」


「自のお手を煩わせなくてもよろしいのでは」


「そうかな」


「おやめください。お怒りのままだと辺り一面吹き飛ぶ可能性も」


「私は冷静だぞ」


「隠し切れておりません」


「そうなのか」


「我々から見れば、そう見えます」


「では、仕方が無いな。周辺が更地になるのは望むところでは無い」


 それでは、と言って、ゴロンと放り出す。


「コレは、アレですか」


「サイティックスだな」


「動き出しませんか」


「最上位神の作った枷だ。こいつでは外せんよ。私でも苦労する」


「何故、ここに?」


「自分を嵌めた奴の顔を見せてやろうと思ってな。サービスいいだろ」


「悪い顔していますよ」


「面白そうだったんでな。まあいい。誰か、代わりに行うように」


「承知しました。魔王化の種は何か問題が有りますでしょうか」


「アレは、神々には何の効果も無い。ウィルヘルム5世からもぎ取ると、死ぬ可能性は高いそうだ」


「生かしますか」


「死んだら死んだで良い。では実行せよ。ああ、私の代わりに行く者は、サイティックスよりも強い者をな」


「畏まりました。ただちに」


 数柱が出ていった。


「さて、現界の状況はどうかな。私の居ない間の変化は」


「ご存じでしょうが、特筆する変化はございません」


「状況は変わらんか」


「ガミチスは世界征服への野望を捨てないようです」


「それは仕方ないな。サイティックスにそう刷り込まれている」


「サイティックスが居なくなれば、変わりますか?」


「変わるな。ただし、時間は掛かるし、一度酷い精神的ショックを受けないとダメだろう。その種の呪縛だ」


「解呪はしないのですか」


「しない。一度、目を覚まさせる必要が有る」


「まさか」


「日本とディッツとファイウォールにやって貰う」


「各国とも、相当の被害が出ます」


「この世界に来たのだ。それなりに責任を負って貰おう」


「日本が、かなりの艦隊増強をしていますが、彼らは予想していたのですか」


「それはディッツ帝国からの移住者護衛艦隊という奴で、向こうの管理者に結構きつい縛りを受けているからね。自分達、移住者と移住者護衛艦隊に被害が無い限り戦争への参加は禁止されている」


「ガミチスはそんな事知りませんよ」


「確実に攻撃するだろうな。大型優秀商船の群れだ。一番の目標となるだろう」


「つまり日本の海軍力は大幅に上がると」


「それでも航路警備にかなりの数を取られる。商船護衛にもな」


「序盤は仕掛けたガミチス有利ですが、最後はガミチス帝国での陸上戦ですか」


「そうなるな。ガミチスは人口で半分、生産力では4割だ。技術力ではいい勝負だ。いくらガミチス帝国以外が転移の影響で海外貿易を絶たれ経済的に混乱しているといっても、戦争となれば軍事生産にかなりの資源を投入するはずだ。ガミチスに勝ち目はないよ」


「しかし、国家間の意思統一が図れるとも思えません。また気になる兆候もあります」


「何かな?」


「バビロン大陸のギルガメス王国連邦以外のガンディス帝国とラプレオス公国に魔王化の兆候が見られます」


「聞いていないぞ」


「最近見つかったばかりで、まだ確証が得られませんでした」


「理由は何か」


「ガンディス帝国は日本やファイオールの影響ですね。自らが日本を否定しながら、ギルガメス王国連邦が日本との国交で混沌領域を押さえ込むことに成功し始めて、社会の安定化と栄えていることに嫉妬しているようです。ファイオールに対しては、技術を見せないことに許せない思いがあるようです」


「ガンディス帝国か。技術自慢だったな。そう言えば、日本という魔法も使えない下等な奴らとは取引などしないと言っていたようだが」


「嘆かわしいことにその通りです。未だに魔法と鍛冶優先で根本的な自然科学を向上させようという気は薄いようです」


「だから進歩が遅いんだよな。あの大爆発までは結構な進捗だったのに」


「バビロン大陸の西側1000キロが吹き飛びましたから。爆心地にある巨大海洋性混沌領域が発生したのはあのせいでしたね」


「あれから2000年くらい経つが、若干技術力が上がった程度か。魔法技術は反って低下しているな」


「魔法技術の中心が吹き飛びましたから」


おごりすぎたな」


「その後もたいした進歩は無かったな」


「それも痔主勇者やジャンヌ・ダルクとファウストを始めとする人々が来なければ・・・」


「そうだな。確実に冒険者ギルドの世界共通制度はなかったな。やはり、異世界からスカウトしなければ、魔法だよりの世界では進歩は遅いか」


「しかし、現地の神との交渉で、死ぬ人間か現地から放逐される国家・民族・集団だけと言う規則は厳しい物が有ります」


「いいじゃないか。日本は全員死にかけだろ。ディッツ帝国は究極ボンビーされたわけだし。ガミチス帝国はこちらで受け入れてやったのにあんな事しやがって。サイティックスが悪いんだが。ファイウォール公国なんだよな。かなりまともな国なのに何で放逐されたんだろう」


「あの世界の神が絶対神を演じているようでした。それでどうしても絶対神への信仰を受け入れられないファイウォール公国を放り出したようです」


「そうだっけ。そう言えば、あいつの所で神殺(しんさつ)をしこたま飲まされたな。ファイウォール公国が来たのはその後だ。なんで思い出さないんだろうな」


「その時何か弱みを握られませんでしたか」


「ん?・・・・そんなことあったけな?」


「それならいいです…」


「おい、そう言えばガミチスの西に島が有るよな。あそこの残った普人族以外の人種だがガミチスはどうすると思う?」


「科学技術はこの世界の水準以下レベルですので興味は無いかと。少なくとも有能な為政者なら、他国と戦争を起こそうと言う時に、軍事力を使って武力制圧はしないでしょう。精々交渉をして資源探査程度では」


「そう思うか」


「はい」


「では放って置くか」


「はい」


「ラプレオス公国の魔王化はどうか」


「ラプレオス公国の場合は強欲ですね。日本やファイオールに対して全ての物を献上しろですから」


「酷いな。日本とファイオールは相手にしているのか」


「最近は無視しているようです。それで怒り心頭に発するようでして」


「どちらも魔王化しても魔王のレベルは低いか」


「そうですね。ギルガメス王国連邦と日本が手を組めば充分対抗可能です。航空戦力がほとんど有りませんので地上戦力は空から圧倒されて終わりでしょう。最後は上級冒険者が魔王を片付けておしまいです」


「そのギルガメス王国連邦だが、内部は大丈夫なのか」


「いくつか気になる貴族領や加盟国家が有ります。おそらく魔王侵攻と共に蜂起することが考えられます」


「国が割れることは?」


「二大勢力は均衡を保ったままですし、国内が発展していますので不満は減っています。王国連邦の将来の在り方で食い違いがあった程度ですので、割れることはないと考えます」


「では魔王軍は日本が相手にすることになるか」


「その可能性は高いと思います。日本はあのダンジョンを失いたくないでしょう。それに今は保護対象としても科学技術が同等程度になれば貿易対象としてくるはずです」


「そうだな。世界が活発になれば私も嬉しい。日本やファイオールの航海技術と造船能力は、この世界に必ず変化をもたらすだろう。ディッツやファイウォールと負けた後のガミチスの技術もな」


「良い変化ならいいのですが」


「あの3ヶ国だと、信仰の問題は無いだろう。唯一神・絶対神信仰は無いよな」


「極少数派ですね」


「なら問題無い」


 会話が続く。


「ギルガメス王国連邦に、日本はどの程度の兵を出してくると思う?」


「ギルガメス王国連邦への派遣人数ですが、日本の総力戦研究所では最大で陸軍2個師団、海軍は1個艦隊だとされています。それ以上は費用対効果が薄いので、手を切ることも考えています」


「だがそれは日本自国で支える場合だろう。ギルガメス王国連邦でも食料は負担できるはずだ」


「その場合でも3個師団と艦艇を少し増やすくらいが限度かと。日本国内の意見統一が出来ない可能性があり、それ以上は覚悟が必要だと」


「どういうシナリオを予想している?」


「ガンディス帝国もラプレオス公国も魔族が魔王化の影響を受けます。そして国内を掌握した後にギルガメス王国連邦へ攻め入ってくるかと考えます」


「同時ということは無いか」


「可能性は低いですが無いわけではありません。誰かが暗躍していない限り無いと思われます」


「その可能性は」


「先ほどお話しした、ギルガメス王国連邦内の貴族と加盟国家に南北両国の貴族ですね。可能性はあります。調べますか」


「いやそれはやり過ぎだ。しなくて良い」


「畏まりました」


 話は続く…





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ