ウィルヘルム五世の逆襲
ウィルヘルム五世は、何故だ?と考える。
何故、儂がこのように逃げ隠れしないといけないのだ。
そうだ。全てあの小僧が悪い。デストラーの奴め。儂の誘いを受けなかった奴。奴さえいなければ。
ウィルヘルム五世はだんだんと考えが基から黒かったのにより暗黒に染まっていく。
そうだ、そう言えば魔神に貰った宝具があったな「憎い相手がいればこの宝具を使うと良い。さすれば必ず勝てる」と。
ウィルヘルム五世は帝都から逃げ出すとこに持ってきた荷物の中から、五センチ角くらいの箱を取り出した。
中には赤黒い艶のある宝玉があった。大きさは二センチ無いくらいだ。
箱には丁寧に取扱説明書が付いている。
*この宝玉を使う場合の注意。
飲んではいけない。効果は無い。
使う際には額にこの宝玉を当て、勝たなければいけない相手を思いつつ、宝玉発動と念じる事。
簡単だった。
そんな事で良いのかと思う。だが魔神が言うには「そいつには勝てるぞ」と。
警察に追われ、国民に追われるウィルヘルム五世には、深く考える精神的余裕は無くなっていた。
儂を匿う者には大金を毟られ、粗末な部屋をあてがわれる。自業自得であるが元よりそんな考えが浮かぶような人間では無かった。
クソ!奴さえいなければ。儂が贅沢三昧して何が悪い。儂こそが真の総統なのだぞ。帝国は儂の物だ。儂が自由にして何が悪い。奴を捕らえて儂の前で跪かせる。その後は死ぬまで幽閉してやる。儂の栄耀栄華を指をくわえ見ているが良い。儂が強くなれば、へつらう奴らは沸いて出てくる。
クックック、目に物見せてくれるわ。小僧。
ウィルヘルム五世はそう呟きながら宝玉を額に当てる。そしてデストラーを陥れ自分の栄光を取り戻すことだけを考えた。
ウィルヘルム五世に頭の中にはデストラーの悔しがる顔が浮かんでいた。
その時宝玉が光り始めた。赤黒い不気味な光だ。宝玉から何か針のように尖った細い触手が何本も出てくる。触手はウィルヘルム五世の額に突き刺さった。更に深く侵食をしていく。
「ガッギャアアア!」
悲鳴を上げ激痛にのたうち回るウィルヘルム五世。やがて暴れなくなる。
宝玉はされに触手を増やし侵食をしていく。宝玉自体も額に沈み込んでいく。
やがて宝玉はウィルヘルム五世の額に表面だけを出して落ち着いた。
ガミチス帝国の有った世界では魔神がフッと笑った。「バカめ」
ウィルヘルム五世はようやく気がついて起き出した。
実に爽快である。気分が良い。
デストラーの奴め。目に物見せてくれるわ。
「誰か!誰かおらぬか」
「へえ、へえ。騒ぎなさんなって。さっきは五月蠅かったぞ。今度は何だよ。もう女はいないぞ」
「黙らぬか。余は魔王ウィルヘルム五世だ」
「へ?魔王だ?でたらめ言うんじゃ無いぞ。そんな者いるもんか。お前はただの落ちぶれたじいさんだよ」
「余に向かってそのような口をきくか」
ウィルヘルム五世は男に近づき頭を掴む。そして
「ェ?ギャーァ」 グシャ
そのまま男を放り出す。
ククク、良いぞ。このみなぎる力は素晴らしい。
そこへ男達がなだれ込んできた。悲鳴を聞いてきたのだろう。そして床に横たわる仲間を見る。死んでいるのは見れば分かる。頭が潰され血の海だった。数人はその場で嘔吐した。
「テメエ、何しやがった」
そう言ってナイフを取り出した。危険と思ったのだろう。数人は拳銃を取り出した。
「何、礼儀知らずに罰を与えただけだ。お前達もこうなりたいか」
「何言ってやがる。テメエみたいなじじいにやられる奴じゃ無い」
「では誰がやったのだ。ここには儂しかおらん。儂しかな」
そして高笑いを始めた。
男達は不気味な物を見るようで気持ちが悪かった。
「フム?いかんな。皆殺しにしてしまっては手足に出来る者がいなくなってしまう。そうだ、お前達に儂の手足になる栄誉を与えようぞ」
「巫山戯るんじゃねー」
ナイフを持った男が斬りかかってきた。それを躱して殴りつける。グシャと言う音と共に男が倒れる。顔がひしゃげて首がおかしな方向を向いていた。
「ヒイイーーー」「撃て!撃て!」
撃とうとするがあくまでも脅しのためで、すぐに撃てるようにしていない。安全装置を解除しなければいけなかった。数人が引き金を引いても弾が出ないことに混乱している。初弾装填さえもしてない。
それでも撃ち始める。弾が出なくなるまで。カチカチと引き金を引く音だけが響く。
誰もが信じられなかった。拳銃弾とは言え10発以上が当たっている。当然死んでいるはずだった。
だが
「どうした。それで終わりか」
赤く光るウィルヘルム五世の目から目が離せなかった。ガタガタ震えてへたり込む。
ウィルヘルム五世の体から何かが出てくる。黒い奴だ。カサカサという感じで男達に這い寄る。男達はウィルヘルム五世の眼光に当てられ身動きが出来なかった。逃げたいが体が動かなかった。
黒い奴が男達の体を食い破り体に侵入する。激痛のはずだが、声が出せない。ただ顔が凄い表情になるだけだった。二体の死体にも潜り込む。
死体は床で不気味にうごめいている。やがて食い尽くされ、小さくなっていった。
全員目が赤い。魔族だから目が赤いのであるが赤いのは普通、瞳だけだ。白目部分は普通に白い。だが白目部分が充血では無く完全に赤く染まっていた。
「お前達には仲間を増やすことを命ずる。ワシの元に仲間を連れてくるのだ」
「「「「ハット、ウィルヘルム」」」」
ランエールの神界では
「ランエール世界で、魔王反応発生!!」
主神ランエールに報告が有った。
「はぁ?」
前振りもなくいきなりだ。怪訝な反応にもなる。
「これは魔王?」
「やられた。あの魔神プレイしてる奴、ガミチス人を魔王にしやがった」
「よりによって、ウィルヘルム5世か」
「どうなさいますか」
「デストラーが魔王ならまともな魔王かと思っていたがこれは酷い。ちょっと文句言ってくる。しばらく留守にするから頼むぞ」
「畏まりました」
「行ってらっしゃいませ」
傀儡にされた男達は裏稼業だった。仲間も多い訳ではない。そこで、そこら辺にたむろしている奴らを脅したり騙したりして連れてきた。
それから1年。男達の数は増え帝国中に散らばっている。
計画通りに事が運んでいると報告を受けたウィルヘルム五世は、一言。
「やれ」
その日の夜、帝国中にテロが広がった。
ウィルヘルム五世は意図的に標的から幾人かを外した。
デストラーとその賛同者達だった。
余の偉大さをその目に焼き付けて老いさらばえて死んでいくが良い。殺しはしない。どこぞに幽閉して死ぬまで悔しがれば良い。
クックック。ワーハッハッハ。
ウィルヘルム五世は、取り戻した総統府の謁見の間でデストラーを見下ろす夢を見ていた。夢を。
【 いい夢を見ているようだな 】
「誰だ」
【 こいつに見覚えは無いか 】
問いかけは無視して、ドサッと人らしい物を放り出した。
「誰だ?」
【 おかしいな。よく覚えているはずだが 】
誰だなのだ。見覚えは無・・・
「魔神なのか」
【 そうだ。お前に魔王化の種を与えた、魔神だ 】
「魔王化の種。あの黒いのは魔王化の種だったと」
【 聞いて無いのか 】
「喰らえ」
ウィルヘルム5世の体から、黒くて平べったい奴がカサカサと目の前の奴に向かって行く。だが、近づくと、ボロボロ崩れてしまう。
今まで、多くを手下に出来た手が通じない。拙いと思った。
【 そのようなオモチャが、神に通用する訳ないだろう 】
「クソッ魔神。起きろ。起きて、そいつをなんとかしろ」
【 魔神?こんな状態でどうして役に立つ?】
魔神を足蹴にして、転がす。魔神は抵抗もしない。反応が無いただの…
「お前、魔神をそんな扱いして、ただで済むと思っているのか」
【 思っているな。こいつには厳罰が与えられる。
やってはいけない事をした 】
「やってはいけない事だと」
【 許しも無いのに、世界を越えて自分の力を及ぼすことだ 】
「何だと?」
【 魔神は、普通の神だ。
普通と言うとおかしく聞こえるかも知れないが、
事実なのでな。
神には管理する世界が有る。その魔神も、世界を管理する神だ。
具体的には、お前達ガミチスが有った世界を管理していた。
そして、ちょっといけないことをしてしまった訳だ。
お前達でも、法律を破れば罪になるよな。 】
「そいつが管理していただと。巫山戯るな」
【 それが世界の事実だ 】
「お前などのワシに邪魔をさせるか」
魔王の力で襲いかかったウィルヘルム5世だが、あっさりと制圧された。
【 神に襲いかかるなんて、おバカ?
その程度の魔王力では傷も付かん。
ちょうどいい。こいつは回収する 】
そう言って、ウィルヘルム5世の額から黒い宝玉をもぎ取る。慈悲は無い。
「ギイギャアアアアア・・・」
【 まだ生きているか。しぶといな。では、生かしておいてやろう。
そうそう、警察にこの場所を教えてやろう。俺っていい奴 】
ウィルヘルム5世は、善意の通報によって逮捕された。
無事魔王は退治されましたとさ。めでたし、めでたし。




