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KD航路 開拓

 シベリア大陸山東半島では、カラン港を発端として西へと開拓地が延びていた。

 旧エルラン帝国の人達は皆ここから開拓地へと向かった。

 彼等は遠目に見ても鬱蒼と茂った森にげんなりとしながらも、開拓した分だけ自分の物と言う日本の言葉を信じて現地に向かうのだった。

 皆で木を切り倒して根っこを抜き、目に付く石を拾い篩にかけて土の中の小さな石や木の根の残り、虫たちを取り除き、それをだいたい自分の膝くらいの深さまでやると思うと憂鬱だった。

 それでもあそこ(収容所)にいて何も無い明日を迎えるよりも希望はあった。


 だが彼等が開拓地に着くと常識が崩れ落ちた。

 見たことも無い物が走り回り、遠くでは木が切り倒されていく。

 それは木を切り倒すノコギリ戦車であり、根っこを土ごとほじくり返すバックホーであり、ブルドーザーが土を押しのけて行く。バックホーやブルドーザーが土をダンプトラックに乗せ、ダンプトラックは大型の自動篩い機に土を投入する。出てくるのは大きなゴミが取り除かれたサラサラの土だ。

 出てきた土は一旦集積され、必要なところへと運ばれるのだった。


「「「アハハ、なにこれ?」」」


 多くの人間の感想だった。

 シベリア大陸派遣部隊改め移住者支援部隊では、農業土木関係者の話を聞き部隊内の農家出身者からも話を聞いた結果、多少の機械力では移住してくる人間の数に開墾が間に合わない事を知る。

 そこで部隊付属としてシベリア大陸に来ていた工兵中隊を中心に大規模に機械化された開墾部隊を編成。

 建設重機を大々的に投入して、開墾を進めることになった。資金は十分すぎるほど有った。


 移住者達が宿舎に落ち着いてから、最初の作業が落ち葉拾いであった。落ち葉や腐葉土の収集である。

 その落ち葉拾いの済んだ所を中心に開墾が進められていく。開墾は区画の大きさを決めて行われた。過不足があれば自分達で調整して貰う。そこまで細かく面倒は見なかった。

 区画は小中大の3段階とされた。それぞれ一辺10メートル、32メートル、100メートルである。

 旧来のちょうたんでは、意味が分からないだろうとして採用されなかった。だいたい神の仕業だろうがランエールの長さと重さはメートル法と同じであった。ひょっとしたら全ての世界で共通なのかも知れない。ディッツ帝国の長さと重さも同じであった。


 小中大なら10メートルのおよそ3倍その3倍と覚えればいい。

 

 提供される農業区画は家族で大1区画、独り者で中2区画だった。周辺には耕作地候補として同じ面積の未開拓地が残されており、そこは開拓者が自由に使って良いとされた。

 未開拓地は、周辺にその数倍は有る。これも自由にして良いと言われるが、当面は手が付けられそうにない。

 耕作予定地の土は、腐葉土や魚型大型混沌獣の内臓を使った堆肥などが混ぜ込んであり、初期からそこそこ良い土になっている。特に魚型大型混沌獣の内臓を使った堆肥はごく少量で効果が有り化学肥料の使用量が減るのであった。ケイルラウ達学者によると魔力のせいでは無いかという答えが返ってきた。

 エルラン帝国を初め南大陸では、混沌獣の内臓や糞を使った肥料は効果が高く、良く使われているという。

 魚型大型混沌獣の堆肥は効果が、陸上の大型混沌獣以上であると不思議がっている。

 

 以下は例として大1区画である。



挿絵(By みてみん)



20メートル道路は将来余地であり、いざとなれば戦車がばく進する道でも有った。

 現状では開拓地の道路は国道指定の道以外は未舗装だった。


 こんなに広い土地を貰っても管理できるのか不安であった。何しろオール人力であった。

 管理できるだけでいい。無理に全部使う必要は無い。

 そう言われても、素直にうなずけないのが現実だった。 

 周辺の水路の他にも内部に井戸が用意されており生活用水や農業用水に不安は無いように配慮されていた。

 計画側としては水道もひきたかったのであるが、広大すぎる上に開拓中で常に水道工事をし続けなければいけないという現実に諦めた。上下水道があるのはカラン港周辺だけである。

 下水道は消臭と滅却の魔道具に頑張って貰うことにした。

 移住者が増えるにつれて魔道具職人も増えている。彼等には全力で消臭と滅却の魔道具を作って貰っている。


 広い耕作地対策として軽輸送車を大量に投入している。移住者には操作を覚えて貰う。荷物を楽に運ぶ手段があるだけでかなり作業効率が違うはずだ。

 軽輸送車の前半分を利用して後部にアタッチメント式の各種農作業用器具を取り付けて運用する実験も始まっている。耕運機の誕生だった。

 問題は、農作業機器がむき出しなら作業効率は高いが、事故は多発することが当然のように予想された。

 事故防止用のガードを付ければ事故は減るが、作業効率は落ちる。

 結局判断が付かず、使用者に委ねるとされた。基本は安全ガードを付けることを推奨している。



 現在最前線の開拓基地である、山東八十八番基地でその家族は面接を受けていた。


「カルス・マクロードさんで間違いないですね。奥さんがアリリア・マクロードさん。お子さんがユーリ君とシェラちゃん。間違いないですね」

「はい、その通りです。私たち家族は住み込みでの料理人募集という物に応募したのですが」

「ええ、ここで間違い有りません」

「ここですか?」

「はい。今は何も有りませんが、1ヶ月後の便に乗ってくる人達がここに来ます。今は途中でも見たと思いますが、開墾しているところです。あなた方ご家族には、あそこに見える宿舎で住み込みの料理人として厨房を手伝って貰いたい」

「ですが、私はこちらの材料になれていません。皆さんの迷惑にならないでしょうか」

「食材が違うことは分かっています。でもねマクロードさん。あそこの厨房にもエルラン帝国の人が二人働いています。聞けばその人達も癖が分からずに最初は苦労したそうです。でも今は普通に扱っていますよ。あなたはその二人から教えて貰えるだけ条件が良いのです。あの二人は初期の移住者で自分達で確かめるしか無かったのですから」

「帝国の人間がいるのですか」

「基地全体では20人程おりますね。後の18人は警備の冒険者と開墾に携わる作業者です」

「冒険者まで」

「やはり混沌獣との戦い方は参考になります。混沌獣に関しては我々はまだ素人です」

「すみません」

「何でしょう。奥さん」

「女性はいますか」

「帝国の人は冒険者に3人と開墾作業者に7人です。後で会わせて上げましょうか」

「ぜひ」

「あの、ここで勤務すれば独立時の援助が受けられると聞いたのですが」

「ええ、それは間違いないです。ここの開拓地が落ち着くまでこの基地に勤務してくれればこの地での開業を支援します。それは募集要項にも書かれています」

「他の土地ではダメなのですか」

「出来ればここで開業して貰いたいのです」

「何故ですか」

「ここには将来八十八番目の農村が出来る予定です。そこに幾つかの店を誘致します。あなたの開業する食堂もその店です。ここがいやならこれから作る他の基地を紹介します。どうでしょう」

「あなた」

「そうですか。ここなら開業できるのですね。支援を受けて」

「土地と店舗は進呈します。土地の広さは中区画一個です。進呈する店舗は最低限の物でそれ以上の店は融資という形になりますが、特例として超長期の返済ですし金利もありません。また、村の中に作る店は4軒から8軒の店が同じ場所に固まっているという形を取っています。これまでの開拓地ではこれで支障ないようです」

「中区画を一つ頂けるのですか」

「そうです奥さん。ああ、そう言えば自家栽培の作物を提供するならさらに中区画を一つ付けますよ」

「そんなに頂けるのですか。間違いでは無いのですか」

「間違いありません。それにね、駐車場が必要なのです」

「駐車場?」

「はい。今は農家の皆さんに一家に一台、軽輸送車を付けています。おそらくは皆さんこれに乗ってきますよ」

「馬車の代わりですか」

「馬車?ああ、そうです。代わりです。もっと小さいですけどね」

「でも広さは足りるのでしょうか」

「軽輸送車は小さいですし小回りもききます。そんなに広さは必要ありません。それに自家栽培をするなら中区画2個です。間取りは自由に使っていいですよ」

「分かりました。ここで仕事をさせて下さい」

「して貰えるのですね。では採用します」


 その後細々とした注意事項や給与関係のことを詰めて、その日は終わった。翌日は準備期間とされ勤務は翌々日からとされた。

 子供達は眠ってしまった。





1ヘクタール有ればいいと思いますが。予備に同じだけ付けてあるし。

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