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KD航路 珈琲

 カムラン港に入港したタンカーは現地で歓迎された。

 早速、ディッツ帝国の技術者が取り付いて給油口の確認と受け入れ側と合うようなアタッチメントの製作を始める。

 


「山下少将、久しぶりですな」

「これは、レンネンカンプ大臣。久しくありました」

「此度は再び助けて頂き、感謝のしようもありませぬ」


「お気になさらず。困っているとき助けるのは当然でありましょう」

(もっともこちらも困っていたのだが。あのまま行けば北方海域が原油汚染されてしまい、復旧に何年かかるか分からないからな)


「では、早速ですがそちらの御仁を紹介して頂きたい」

「はい、こちらから、外務省南方総局局長今川一真。次に通産省外国貿易局局長井伊直久、最後が運輸省航路局局長太田康夫です」

「お初にお目に掛かります。今後ともよろしくお付き合いしたいものです」今川である。

「では我々も。この者が、産業大臣ウィリアム・シャハト侯爵、次に移民担当副大臣カーロ・ロベルト・シュタインメッツ子爵、最後に農業大臣エドワード・トゥルナイゼン男爵です」

「レンネンカンプ大臣、申し訳ないです。そちらは大臣の方々ですが、こちらは実務者のトップであります」

「山下少将、実務者のトップとおっしゃいましたな。その方が都合がよろしい。下手に政治家は咬ませたくないのでな」

「そういうものでしょうか」

「間違いないですな。今は二国間の政治よりも我が国の安定が大事。違いますかな」

「確かにその通りだと思われます。では、失礼ですが、そちらの大臣の方々も政治よりは実務に寄った方々だと」今川が問う。


「その通りですな」


「農業大臣とおっしゃいましたな」井伊である。


「トゥルナイゼン男爵です。以後お見知りおきを」

「こちらこそ。通産省の井伊直久です」

「日本に渡した資源リストはいずれも地下資源でありますが、こちらとしては是非手に入れたい物があります」

「何でしょう」

「お茶とカヒです」


「「お茶とカヒ?」」山下以外の日本人。


「そうです。国内での自給率が少なくカヒについては栽培していません。是非ご協力頂きたい」

「少し相談したい」

「どうぞ」



(山下少将、お茶とカヒ?とは)

(お茶は日本で言う紅茶です。カヒは珈琲です)

(むう、お茶は大丈夫だぞ。だが、珈琲は)

(赤道多島海で発見されている。野生の品種だがかなりの広さで繁殖している。いけるのではないか)

(でも、誰が取り入れをする?)

(((あ)))

(あの人達を使うしかないでしょう)

(あの人達か。気を悪くしないか。自分達を追い出した相手に売るのだぞ)

(あー、そう言えば大事なことを忘れていました)

(でも日本人もそんな余裕はない)

(好景気が続いているからな。主に海軍のせいで)

(いやー、照れますね)

(主にお前のせいだ)

(ではこれはどうだろうか。農園自体は日本の経営としてディッツ帝国の人達に出稼ぎに来て貰うとか)

((それだ!))


「皆さん。実は赤道付近にカヒの木を発見しております。ただ日本には人的余裕が無いのです。そこで、提案です」

「我々に参加しろと」

「その通りです。いかがでしょう」

「まずは確認からですな。飲用に足るカヒなのか」

「我々で試飲はしております。野生の品種ですが、中々良いと思いますよ」


(お前呑んでないだろ)

(いいんだよ。報告書にはそうなっていた)


「そうですな。では実際に取り入れて見てからですな。少し人を出しましょう。連れて行って貰えるのでしょうな」

「勿論協力は惜しみません」

「失礼ながら。話を変えさてて頂いても?」


 と、産業大臣であるシャハト侯爵が言った。


「どうぞ」

「このような情けない事態になったのは、我が国がボンビーされたせいなのですが、この略地図をご覧下さい」


 彼が見せてくれたのは、転移前のディッツ帝国と周辺の概略図だった。



挿絵(By みてみん)



 侯爵によると油田も炭田もあるのだが国内需要を満たすことが出来ないと言うことだった。故に日本に余裕が有れば交渉せよと皇帝命令が出たのだと。


「皇帝陛下から日本に有り体に申せと仰せつかっておりますれば、正直に申しましょう。有力油田の近辺に敵対国またはほぼ敵対国が有りましてな。軍は油田を守るためにかなりの戦力をさいておりました。それがあのクソバカ皇帝・・いや、失礼しました。私としたことが、お恥ずかしい」

「はあ」

「転移時に国庫と共に我が国の海外資産は属国や植民地ごと全てボンビーされてしまいました。幸い人的被害は有りませんでした。その時海外に在った船や軍備、油田に関する油井や製油所などもの資材も全てボンビーされました」

「大変ですね」

「大変なのです。それに我が国は基本的に海外貿易は近距離のみで足りておりました。外洋を超える距離など考えてもいないので、そういう時は海外の船舶に頼っておりました。何隻かは長距離航行可能な船舶が存在しますが、何隻かと言う程度の数しかありません。数量・金額とも少ないのでそれで充分だったのです」

「それでは我が国まで来るのが大変だと」

「お恥ずかしい話です。我が国の商船の航続距離は平均で8000kmです」

「それでは赤道多島海までの往復もできないでしょう」

「カムラン港から赤道多島海ですか?そこの中継地点まで3500kmと聞きます。途中の燃料補給無しでは安全性から言ってとても往復は出来ません。それに我が国のタンカーはボンビーされた結果、大型タンカーが四隻と内航船のみです。とてもお国まで往復などで来ません」


 ウソである。大型タンカーや貨物船はもっとあるが石炭缶であり、給炭員としての属国民や植民地民がいなくなったため、重油炊き以外の船は運行困難であった。高給で募集しても、思うように集まらない。帝国民は誰も給炭員などやりたくなかったのだ。今は受刑者に刑期削減を餌にやらせているが、何時までもという訳には行かない。

 長距離航行の出来る重油専焼船は造船所で頑張って建造している。


「では、継続的に日本船籍のタンカーでこちらに運ぶ方が良いのですね」

「是非お願いします」


(山下少将、経費的には大丈夫なのか)

(移住者保護基金として考えれば、ディッツ帝国の安定は移住者保護になると管理者の了解は得られています。大丈夫です)


「では、お国で新たな油田と炭田が供給可能になり、且つ余裕が出来た時点での資源による返却でよろしいですか」

「そのような好条件でよろしいのでしょうか」

「日本としては先に言いました通り、移住者保護のためお国の安定が大事です。この資源提供もお国の安定を図るためですので」

「石炭はいかほど融通して頂けるのか」

「月に30万トンまでなら可能です」

「おお、30万トンですと」

「はい、増産を図ればさらに上積みも可能かと」

「品種は贅沢は言えないでしょうな」

「まあそうですね。瀝青炭が主になります。無煙炭は我が国の国内需要を満たす程度しか産出されません」


 大ウソ。蒸気機関車がディーゼルや電気に、発電所も石油にドンドン切り替わっている日本の現状では余り気味だった


「シャハト卿、瀝青炭が主ではいけないですかな」レンネンカンプ子爵。


「いや、そんな事はないぞ。無煙炭は我が国の暖房や鉄道需要を補って余り有るからな。欲しいのは産業用熱源としての石炭だ。瀝青炭なら有り難い」

「では、全量瀝青炭で良いのでしょうか」

「結構ですな。全量瀝青炭でお願いします」

「貨物船の大きさや寄港時期がばらつきますがよろしいか」

「かまいませんとも。そろそろ新型無線機の開発も終わるでしょう。そうすれば、連絡も付けやすくなります」

「確かにそうですね」

「そう言えば、我が国から日本に出せるものは無いか検討してみました」

「ほう、それで何か良いものがありましたか」

「こちらをご覧下さい。お国の言葉ですが、まだ理解が及ばないところもありますので許されよ」

「いえ、良く出来ております。少し相談がしたいのですが」

「では休憩としましょう」



「井伊君、何か良いものが有ったのかな」

「そうだな、お公家様では用がないかもしれんが綿が有る」

(勘弁してくれ。お公家様なんて今はないだろう)しかし、名家と言うことで名は残っているのだ。天皇陛下がおわす限り宮廷序列や官位もある。名目だけになっているにしても。

「綿だと。普通、帝国主義を取っているなら属国か植民地でやるものだろう」

「見てくれ。つづりにかなり怪しいところがあるが、ディッツ帝国の誇りとか書いてある。かつては。あるいは今も、主要産業なのだろう」

「綿は手に入れるべき物資の上の方じゃなかったか」

「うむ、上位の方だ。優先順位は高い。我が国の綿花産業は明治期に壊滅したからな」

「だが、足下を見られるような交渉はするなよ」

「赤備えにお任せあれ」

「おい、綿もそうだがアルミ地金となっているぞ」太田が言った。

「アルミ地金か。確かに欲しいな」

「我が国の産出量は少ない。転移時の拡張がなければ本来無い物資だからな」


 ボーキサイトは異常にでかくなった沖縄本島で見つかっていたが、需要を満たすだけの規模ではなかった。多分、他にも有るのだろうが探査で探しきれないのはディッツ帝国と同じだ。


「では、綿とアルミ地金か」

「他にはどうだ?」

「酒がある」

「どこでもありそうな」

「だが味はどうだ」

「呑まなければな」

「同意する」


(これだから呑兵衛は)山下少将は余り呑めなかった。どちらかといえば食べる方である。


「硝石が有りますよ」山下が発見

「硝石か。必要か?」

「出来れば程度です。民生用としてはいいのではないでしょうか。軍としては必要ありません」

「ならいらないな」

「いえ、そういう意味ではなく、もしかしたらディッツ帝国のあった世界ではハーバー・ボッシュ法が開発されていないのかも知れません」

「重要なのか」

「戦時においては弾薬供給量の問題と直結します。輸出品に出来るということは、かなりの採掘量があるのでしょう。戦時でも十分な弾薬が供給されるということです」

「ではどうする」

「ハーバー・ボッシュ法はまだ知られるのは不味い気がします。我が国でも困っていないことにしましょう」

「では、そうしよう」


 山下を除く三人は、あと三品を選んで再びディッツ側との協議に戻った。

 酒を飲むために。





作者も酒はダメなので、飲兵衛の事は理解不能です。


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