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外伝 捕漁船

3話目です。

 海軍は悩んでいた。一部の人の毛根が危うくなる程度には。

曰く

損害が多すぎる。

たかが魚を捕るにしては、やられすぎだ。

他、諸々。

 事情を知らない奴らは好き勝手言ってくれる。お前ら絶対漁場に送り込んでやる。

 文句を言われる担当者は誓う。


 損傷は船体はまだいい。良くはないが、推進器や舵に比べればましだ。

 推進器損傷対策として、スクリューガードを付けてみた。それなりの強度で。ダクテッドファンみたいになってしまったが、損傷して曲がることを想定してクリアランスは大きく取られている。ダクテッドファンでは無い。


 結果、2回くらいは耐えられる。3回目は怪しい。変形してスクリューに当たると、それだけで行動不能になる。おまけに船体のスクリューガード取り付け部分が変形してしまい修理費が高く付いた。


 結局、捕漁船にはアルキメディアンスクリューを採用し、船体内に推進器を納めることにした。


 まず既存の駆逐艦を改造してみることとなった。改造されたのは、初春級の若葉。

 初春級以前の駆逐艦は改造に次ぐ改造で船体がずいぶんいじられていた。吹雪級も初春級も、もう退役するだけだったので、テストするには問題無しとされた。

 船体はバルジを外し、厚板で大型のバルジを取り付けた。従来スクリューシャフトの有る場所は、船体構造とし、アルキメディアンスクリューを取り付けた。

 対艦・対空兵装は不要として、全て撤去された。

 主砲弾火薬庫の後に重油タンクを設置。これにより、航続距離が7000海里程度まで増えた。新たに付けたバルジ内はバラストタンクとして使われる。武装を外し厚板大型バルジ取り付けでも浮力が大きく吃水が上がってしまった。通常は海水を入れて、増えてしまった風圧面積を減らすことに使われる。体当たりで歪んでも重油が漏れないように、バルジ内は海水のみを入れる。

 

 これが第十六鳥島丸だった。こんな艦に民間人は危なくて乗せられない。民間の中から海軍上がりを集めて貰った。


 結果、良好でした。何回にもわたる体当たりに耐えた。捕漁船の強度のおかけでへこみ程度で済んでいる。

 欠点も無いわけではない。建造コストが高かった。ただ、通常艦艇のスクリュー損傷や船体損傷の修理費と比べれば些細な問題と言えた。

 スクリューと比較すると同じ速度を出すのに馬力が必要だった。これは高速回転させるとキャビテーションによって著しく効率が落ちる為と外筒に掛かる圧力が増える事による駆動抵抗の増大だった。対策は今後の水槽試験での研究結果次第だという。

 やはりポンプジェット推進の実用化が急がれる。


 舵は困った。これは内蔵する訳にはいかなかった。舵をアルキメディアンスクリュー後方に取り付け、舵部分までガードを付けた。舵がスクリュー直後なので水流が直接当たり効きは良かった。

 完全新設計の捕漁船が就役するまでのつなぎとして、初春級と白露級は全部改造されることになった。吹雪級はさすがに傷みが進んでおり、お役御免だ。

 バウスラスターを試験的に付けてみたが、旋回性能が良く巨大魚の動きにもある程度追随出来るようになった。

 聴音からは「使うと五月蠅い」と言われる。


 船体はバルジまで入れて三重構造だ。船体外板でバルジ中間、バルジ外側となっている。船体も補強材多数で強化している。やり過ぎではという声も多い。新設計の捕漁船では二重構造に戻したが内側の板厚を上げて強度が落ちないようにした。

 同時に防水区画を細分化して強度を上げた。これで体当たりに強くなるはず。

 うん、三重構造とコストはあまり変わらないぞ。


 100ミリ捕魚砲だが、後部設置のものはほぼ使わないのでいらないという声もあり、取り外して代わりに対潜迫撃砲を設置した。


 捕魚母船の方は、問題にされなかった。損傷修理が少なかったと言うこともあるがこちらは漁船扱いだった。直接戦闘がないのも良かったかも知れない。


 海にある混沌領域は東鳥島南方海域で、位置は特定された。東鳥島南東端から南へ五十海里のところが中心らしかった。

 そこを中心に巨大魚が回遊している。今まで運が良かったのだろう。端の方ばかりを航行していた。

 現在他にも無いか探索中である。


 海軍は捕魚事業から手を引き本来の任務に戻った。捕魚事業は捕鯨船団を運用していた会社に任せた。

 ただし兵器を搭載しており、その運用は海軍の人員が乗り込んで行っていた。

 船の設計は、海軍が続けて行っている。




 

 混沌領域内部に踏み入った船がある。酷いものだった。内部は危ないから近寄るなという指示は出ていたが、巨大魚との戦闘中に誤って踏み込んでしまいアレと遭遇した。


 クラーケンである。捕漁船が1隻巻き付かれて転覆沈没し、生存者はいない。航空支援のため飛行中だった艦攻によると全長は捕漁船とほぼ同じだったという。

 クラーケンの出現条件は、巨大魚の取り過た状態で、ある程度内部に踏み込むと出てくるようだった。


 現在対クラーケン用イカ釣船の設計中である。クラーケンに負けないとすると200メートル級になってしまうので建造するかどうか、意見が分かれている。ただし、良い状態で捕獲することが出来れば莫大な売り上げになる可能性もあり、悩む所である。 

 イカ母船も200メートル超で250メートル級となるのは確実視されている。


 この頃には東大陸との交易も始まり、この巨大魚の素材は高値で取引されていた。ウロコと骨が特に売れていた。これは、素晴らしい切れ味と耐久性を両立出来る素材の性能のためだった。また同時に軽量で耐久性の良い防具にもなった。これは対混沌獣戦でかなり有効であり、皆ほしがっていた。

 日本は輸出して金儲けに邁進していた。



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