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山東半島 スタンピード 困惑

3話目です。

 戦場の日が暮れようとしていた。

 そこに咆吼が響いた。


「グゥウァオォォーーーーー」


 それを機に混沌獣が引いていく。呆気にとられた軍は引き金を引くのを忘れてしまった。

 前線指揮官は迷う、追撃するか、待機か。

 やがて司令部から待機命令が届いた。ホッとする前線指揮官。

 何しろ数年とは言え混沌獣と対して来た。奴らが後退するなど初めてだった。



「マズいですな」


 カラン村村長で前エルラン帝国魔道院の教頭であるエルクが言った。


「マズいとは」


 真田少将だ。この事態に最前線まで出てきている。


「過去の文献によると、暴食王発生の可能性があります」

「暴食王ですと!」

「はい。混沌獣が人を前にして後退するなどまずあり得ない。それに三群が合同すること自体もあり得ない。モスサイが指揮統率に優れていても前に出ることはめません。おそらくはオーガの上位種による物と」

「オーガ上位種ですか。モスサイよりも小さいですが位は上と?」

「オーガは混沌獣としても強いです。分類では大型下位ですがそれは生まれたての経験を積んでいない個体です。経験を積んで古く色が濃くなった個体は実力は大型上位に匹敵します。上位種ならサイモスを上回ることもあります。今回のオーガ上位種は最上位くらいかと思われます」

「失礼ですが、それと魔王との関係は」


 唐沢参謀長だ。真田少将と共にシベリア大陸赴任後人事異動も無く封ぜられた形だ。無論休暇を取って帰ってはいるが。


「そうですな。文献によると、過去複数の混沌獣の群れを纏めて侵攻してきた上位種が暴食王化したと記録にあります。途中で未確認の混沌領域が発生したのも同様です」

「魔王とは違う者なのですか?」

「それが、王の意味が違うようです。魔族の魔王は魔族の王です。ですから魔族を率いて全てを従えようとします。混沌獣から出た暴食王は全てを喰らい尽くすようです」

「全てですか。生きとし生けるものを」


 と真田が聞く。


「そのようです。混沌獣は混沌領域から離れれば弱体化しますが途中の混沌領域を生み出して弱体化しないようにするとなっています」

「今回も発生しました」


 と唐沢参謀長。


「まだ、完全に暴食王化していないようです。暴食王化にはまだ経験が足りないようです」

「「経験?」」

「人を喰らうことです」

「「ウッ」」

「少なくとも文献ではそう記載されとりますな」

「では、一目散にこちらへ向かってきたのは」


 唐沢が聞く。


「喰らおうとしてでしょう」

「それは我々日本軍の装備で撃破できるのでしょうか」


 と真田。


「いかんとも言えません。モスサイよりも硬いとなっております」

「75ミリ戦車砲が通用しない可能性・・。真田司令官、10加では機動力がありません。狙い撃ちなど出来ません」

「参ったな」

「そう悲観するものでは無いですよ」

「何か手段があるのですか」

「ウチのアビゲイルなら対抗出来るかも知れません」

「あの龍属性とお聞きする彼ですか」

「そうです。ただ奴一人では大変でしょう。万能研究者と雷光姫、銀級冒険者が一人とロウガや八級七級の者もおります。私とケイルラウも合わせて全員で掛かれば何とかなると思いますな」

「到着は早くても明後日午後となっています」


 唐沢参謀長が重たい事実を述べた。


「それまでは戦線を支えないといけないか」


 悩む真田。




 二式大艇は夜の海を飛んでいる。

 4機編隊。最新型の三三型だ。二三型を人員輸送用として防御火器を降ろし機内にベッドや消臭と滅却の魔道具を備えた機体だ。気持ち程度だが防音にも配慮している。発動機は木星になっている。

 中の一機は女性用に機内を誂えた機体だ。今はマライア一人だ。この飛行機に一人は申し訳なく思う。同時に煩わしい思いをしなくても済むようにしてくれた日本海軍に感謝する。

 早ければ明日の午後、新しい故郷である山東半島に着くという。夏は暑いが冬でも寒くない良い所だ。

 そこに大規模なスタンピードが起きたと聞く。ムカライ殿の言によると暴食王発生の可能性も有ると言う。暴食王など聞いたことも無い。聞けば全てを喰らい尽くす存在だという。

 荒らされてたまるか。ようやく支配から解放されたのだ。家族や一族、領民まで来ると言っている。

 興奮して眠れないが心を落ち着けて眠るよう努力する。




 翌朝、日が昇ってから悠々と前進してくる混沌獣の群れ。

 今度は編成が違った。恐らく一番役に立たないケンネルを先頭に向かってくる。

 堀はケンネルで埋めてしまう戦術なのだろう。ケンネルで埋まった堀が火を噴いている。そこを火だるまになって乗り越えてくるハイシシとグレーウルフ、新たにハイキョンが加わった。戦力的に数でしか無い連中を先頭にして弾除けに使う。

 こちらも昨晩1個連隊が到着した。その中の2個大隊を両翼に展開させて川沿いを抜かれないようにする。

 冒険者の増援も増えた。彼等は冒険者集団としてギルド管制下で行動して貰う。

 航空偵察ではダンジョンからまだ出てきているという。

 二つのダンジョンからはその多くがケンネルだという。次がオークだ。オーガは少ないらしい。

 あと一つのダンジョンからは中型中位以上の四つ足系が出ているという。

 手前に出来た混沌領域からは中型下位以下の四つ足系の混沌獣が出ている。


 何故そんなに出続けるのか。村長に聞く。


「私にも分かりません。文献にも載っておりません。ただ、三ヶ所のダンジョンが至近に会ったということが気になります」

「影響をしあったと?」

「可能性は無いわけではありません」

「いつまで出続けるのでしょうか」

「オーガ上位種、暴食王候補を倒すまででしょう」

「唐沢参謀長。東からの連中が到着次第、上位冒険者を集合。オーガ上位種対策を検討する」

「了解」

「それまでは現行維持」

「了解しました」

「村長も協力お願いします」

「当然ですな」


 

 夜中にどれだけ溜まったのか。昨日よりも多くないか。多くの兵士はそう思いながら引き金を引き続ける。


 その日は一部でハイシシやグレーウルフが阻止線を突破。戦線で一時混乱が発生した。

 格闘戦が発生。死者こそ出なかったものの、負傷者数十名が発生。怪我用魔法陣のお世話になる。

 最近量産が進み本土に発送予定だった大怪我用から普通の怪我用魔法陣まで持ち込んでいる。

 魔石も贅沢だがボラールの魔石を使っている。

 ケイルラウが活躍している。最近、風呂によく入るようになり、エルフの美しさに磨きが掛かっている。患者は治療中に見とれているばかりで、痛くても文句を言う者などいない。



 そして再び、咆吼によって後退していく混沌獣。

 混沌獣の死体が溜まって一種のバリケードになっている。ここから飛び出してきた混沌獣によって戦線が突破されたのだ。


 その日も戦線を1段下げた。あと2回は下がる余裕がある。下がりきる前に決着を付けたいものだ。

 排出が続くダンジョンとその列を爆撃してはどうかという案については、やはり散らばるのは後のことを考えると良くない。ここに集めた方が良いという意見が多く見送られた。




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