妻の抜き打ちテスト
2019年 妻から質問がとんできた時のお話
どこの城に行った時だっただろうか。天守閣は信長の安土城がパイオニアだと言うと、妻が質問してきたのだった。
「パイオニアって何?」
え?パイオニアって何?って何?疑問が渦巻く。私が言葉の使い方を誤ったのだろうか。それとも妻の人生において、今まで「パイオニア」という言葉に触れる機会がなかったとでもいうのだろうか。
これが「陰陽五行説って何?」とか「宇宙の真理って何?」だったとしたならよくわかる。むしろ私が質問したいくらいだ。しかしパイオニア、、、。
ごく日常的に使っている言葉の意味を問われるとドギマギしてしまうのは私だけだろうか。
たとえば突然「野菜って何」と聞かれたらどうしろというのだ。
「え~っと、食べ物の種類で、植物でぇ、、、え~っとぉ、野菜だよ!」
なんだその答えは。あいまいなことこの上ない。普段いかになんとなく言葉を使っているのか思い知らされる。
妻の質問は多岐にわたる。
「サブカルチャーって何?」
「デフォルトって何?」
「メインのおかずの『メイン』って何?」
質問は会話の流れで発せられることもあれば、何の前触れもなくいきなりやってくることもある。いったいどうしてその質問が?という疑問はさておき、妻が聞いてくるのはごく一般的な用語ばかりだった。それが分からないとは、異世界の姫か。
分からない言葉があるのは仕方がない。私にだって妻が何を言っているのか分からないことがある。妻が唐突に言い出すのだった。
「トンベ・パドブレ・グリッサード・グランジュッテ」
呪文か!?奥さまは魔女か!?妻を見るとぴょんぴょん飛び跳ねているではないか。ダメだ、こんなところで魔法を行使しては!ところで何の呪文だそれは。よもや私をカエルに変える呪文ではあるまいな!
よくよく聞いてみるとそれは妻が趣味とするバレエ用語だった。やめてくれ、残りの人生、カエルの姿でどうやって暮らすか考えてしまったじゃあないか。
専門用語は仕方がない。私だってスケボーを始めたとき「オーリー」と言われて、それがただのジャンプであることなど、ちっとも分からなかったのだから。狭い業界内でのみ通用する言葉というのはあるものだ。
だが「パイオニア」は一般用語ではなかったか?妻と私は4つ違い。異なる文化圏で育ったわけでもない。しかも妻の方が学力は高い。とするともしや私が使っていたのは特殊な言葉だったのだろうか。
思えば妻はゲームやアニメなどのサブカル、、、おおっといけない「大衆文化」には縁がないのかもしれない。もちろん幼少時代にはそれらに触れ、楽しんでいたようではあるが、ここ数年で発達したネットスラング、、、おっと「インターネット内でしか通用しないような特殊な言葉遣いを起源とする若者言葉」には縁がないのだろう。説明めんどくさいな!
しかし、なんとなく使っている言葉に対して突然やってくるこの抜き打ちテスト。困った。心臓に良くない。質問を1つされるたびに、いったいどれくらいの寿命が削られているのだろうか。子供を持つ家庭では毎日こんな質問合戦が繰り広げられているのだろうか。恐ろしい。
傾向と対策を練りたいところだが、妻の質問傾向がよくわからない。
「難民って何?」
「宗教とか、人種とか、政治的理由によって迫害されるのを避けて、国から脱出した人達のことだよ」
ふう。今日も何とか乗り切った。しかし「難民」は明らかに一般用語だろう。ひょっとして妻め、私を試しているのか?わざと当たり前のことを質問して、私がドギマギするのを楽しんでいるのではないか?それともただの嫌がらせか。
やはり唐突に妻が質問する。
「みこすり半って何?」
嫌がらせに決定だ!




