カレー、それはブラックホールの如く!
2005年 カレー作りに勤しんでいた頃のお話
カレー。
小学校の校外学習で調理されることから分かるようにカレーは万能ソースだ。何を入れてもカレーになる。ルーさえ市販のものを使えばマズくなる要素が見つからない。
そしてご飯にも、パスタにも、うどんにも、パンにも、何にでも合ってしまう。
さらに「カレーが苦手で食べられない」という話を聞いたことがない。
万能だ。
かくいう私も、家には寸胴なべがあり、かつてはカレー作りにいそしんでいたのだった。
とにかく何でも入れる。ジャガイモ、にんじん、セロリ、トマト、かぼちゃ、ナス、たまねぎ。さらに牛乳、ヨーグルト、チョコレート、コーヒー、リンゴにバナナ。バナナは皮付きだ。これだけ入れるとまるで闇鍋の様相を呈してくるが、不思議なことにカレー粉を入れると完全にカレーになってしまうのだった。
おそるべし、カレー!
そんなカレー作りだが、私は過去に3回失敗している経験を持っているのだった。
以前、お金がない時期にカレールーをお湯に溶かして食べたことがあったのだった。それは確かにカレーではあったが決しておいしいものではなかった。
「肉」
そう、肉を入れるとガラリと味が変わる。鶏肉、豚肉、牛肉。何でも良いが肉は最低限欠かせないのだった。
次に失敗したのはブルーチーズを入れたときだ。青カビのチーズを入れるとコクと香りが強くなり、とてもおいしくなったのだった。コレは良い!一晩寝かせて翌日寸胴なべを覗く。
まミドリになった物体がそこにはあった。
カ、カビなのか!?一晩でこの繁殖力。コイツを放置したら一週間で地球はカビにおおい尽くされてしまうのではないか。ヤバイ、地球を救わねば!寸胴なべ一杯、10Lのカビカレーを野に放つわけにはいかないのだ。どうする?そんなの決まっている。
食べきるしかない!
鍋に火を入れかき混ぜる。緑の物体と、どこから出てきたのか分からない白いツブツブが、やがてカレーの茶色に飲み込まれていった。どうやらフツーのカレーになったようだ。食べてみるとえもいわれぬミルキーさと酸味とを感じるが、昨日はこんな味だっただろうか。いや絶対ブルーチーズの味だから!ほかにミルキーで酸っぱくなる要素なんてないから!この日私はブルーチーズ原理主義者となったのだった。
そして最大の失敗。ある時私は気付いてしまったのだ。カレーに入れる大量の野菜、あれ、野菜ジュースでいいんじゃね?どうせ溶けるんだし。水の代わりに野菜ジュースを使おう。時間短縮、おいしさアップ、一石二鳥だ、天才か?
迷わず100%野菜ジュースを8L購入し肉を投入する。煮込んでみるとなんだか甘い香りが漂うが気にすることはない。カレーは万能、まずくなるはずはないのだから。ところがカレー粉を入れても甘い香りは変わらなかった。まさか、カレーが負けるだと?
白飯にカレーをかけて一口、、、なんともいえない甘ったるい味。コレは決してカレーではない。おかしい、この甘さ、一体何が入っているのか。100%野菜ジュースが100%でない疑惑が巻き起こるがそんなことはさておき、問題なのは寸胴なべにある10Lのカレーらしき何かである。どうする?そんなの決まっている。
食べきるしかない!
それから3日間、私はカレーを食べ続けたのだった。マズイ。コレはマズイ。カレーはまだ半分残っている。ここで私は気付いてしまった。半分減ったカレーに水とカレー粉を足せば「まともなカレー」になるのではないか。迷わず実行する。量は元に戻ってしまったが、味が良ければどうということはない。早速食べてみる。
「・・・」
おかしい。味が全く変わっていないではないか。どうやらふりだしに戻っただけのようだった。
そこにはブラックホールのように、全ての味を飲み込む物体があるのみだった。
さて、長い間お付き合いいただいたこのエッセイも、次回をもって2ヶ月間の休止に入ります。再開は2021年10月10日の予定です。
次回「花束をおくろう」
ノロケ成分多めのお話になります。お楽しみに!




