朝食をめぐる陰謀
このお話をレビューを書いていただいた しましまにゃんこ さまに捧げます。
2016年 結婚生活に夢と希望を抱いていた頃のお話
新婚生活が始まると、新妻がこう言ってきた。
「朝ご飯作ってあげるね」
スマホの目覚ましを朝5時にセットしている。けなげだ。
独身時代は朝食など食べず、ギリギリまで寝ていたのだった。朝食を食べる時間があるなら、その分寝る。私は家を出る3分前まで寝ているのが常だった。
しかし、結婚して妻が朝食を食べるというなら、一緒に食べるべきであろう。我が家は夫婦共働き、妻だけ早起きして朝食の準備をする、そんなことはさせられないのだった。それにしても5時起きか、、、。
「ありがとう、でもそんなに早く起きる必要ないんじゃないか」
「ううん大丈夫、卵焼き焼いてあげるね」
なんて泣かせるんだ、結婚って素晴らしい!ありがとう、朝ご飯を作ると言ってくれて。万歳!愛してるよ!おいしい朝ご飯を夢見て眠りにつく。
翌朝、まだ辺りが暗闇に包まれているとき、その戦いは始まったのだった。
【5:00】
聞き慣れない音楽に次第に意識がはっきりしてくる。妻のスマホか、律儀者だな、言いつけどおり起こしてくれるとは。しかしいくらなんでも朝5時は早いだろう。一体何を作るつもりなんだ。すぐに妻も目を覚ますだろうし、もうしばらく横になっていようか、、、。
【5:05】
おかしい、妻がピクリとも動かない。疲れているんだろうか。しかしここで起こしたのでは「自発的に起きて朝ご飯を作ってあげたい」という妻の気持ちに水を差してしまうのではないか。まだ早いしこのまま寝かせてやっても良いのだが、しかし、、、スマホの音が邪魔で私が眠れないではないか。
【5:10】
妻のスマホめ、何故私にばかり懐いてくるのだ。こら、じゃれつくんじゃあない!うるさいではないか。妻を起こさず私だけを起こしに来るとはどういう了見だ。私はまだ寝ていたいのだ。妻のやつ、ちゃんとスマホの面倒を見ているのか?餌はやっているのか?躾はしているのか?実は嫌われてるんじゃあないのか?なんだか余計に目が冴えてきたではないか、これでは眠れる気がしやしない、、、。
【5:15】
もう我慢ができん、起きてしまえ。スマホめ、お前はそこで吠えていろ。しかしこんな時間に起きちまっていったい何をしろというのだ。仕方がない、朝ごはんの準備でもしようか。まずは味噌汁と、卵焼き、それから何かもう一品、いや、二品いけるか。
【5:30】
味噌汁のダシをとり終わる。私は楽な顆粒ダシを使っていたが、妻はかつおダシにこだわりがあるようだ。面倒だが仕方がない、妻がそういうのなら合わせよう。
【6:00】
セットした朝ごはんが炊き上がる。もうすっかり朝食の準備は出来上がった。後は味噌汁の味噌を溶かすだけだが、それは妻にやってもらおう。全部私が作ってしまったら妻が罪悪感を感じてしまうかもしれないではないか。一緒に作ったという名目が大切なのだ。そして時間が余ったので洗濯機まで回しちまったぜ。
【6:30】
洗濯を干し終わった頃、ようやく妻が起きてきた。声をかける。
「おはよう」
「ごめんなさい、寝過ごしちゃった」
「てへ」じゃねーよ、俺が起きちまったよ。やることないから朝飯作っちまったよ。
「朝ご飯出来てるよ、食べよう」
「わぁ~おいしそう!」
妻が満面の笑顔を見せてくれる。妻が喜べば私も嬉しい。本意でないとはいえ、朝ご飯を作った甲斐があったというものだ。
二人で食卓を囲む。和やかな時間。ああ、これから2人の結婚生活が始まるのだ。
【翌日5:15】
キッチンから流れる包丁の音、鍋のお湯がぐつぐついっている。そこには朝食の準備をしている私がいた。おかしい。妻のスマホは今日も私だけにじゃれついてきやがった。
そしてこれから毎朝、同じことが繰り返されるのだった。
これは妻の策略か。
改めて しましまにゃんこ さま、レビューをありがとうございました。
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さて、次回から男性読者に向けたお話が2回、女性読者に向けたお話が2回と続きます。次回は男性向けに書いたお話「新しいコントローラー」です。
お楽しみに!




