警察のお仕事
1996年 落とし物をした時のお話
以前に比べ「市役所の対応が温かくなっている」と感じているのは私だけではないだろう。
声をかけても誰も反応しない。そんな市役所がいつのまにか挨拶をしてくれるようになっていたのだった。
「こんにちは」
「ありがとうございました」
公共のサービス機関である市役所は「客商売」ではないが、挨拶をされるだけで温かい気持ちになるから不思議だ。しかし同じ公務員であっても挨拶の言葉に注意しなければいけない組織もある。
「警察」
例えば警察に免許証の住所変更に行った時、彼等は言うかもしれない。
「いらっしゃいませ。盗難ですか、それとも落とし物ですか。自首の手続きも受け付けております」
そんな勧誘にうっかり乗ってしまう犯罪者がいたとしたら、その犯罪者の引き起こす珍事件を見てみたいと思うのは私だけだろうか。
犯罪者が釈放された時も彼等は言うに違いない。
「ご利用ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」
誰が行くものか。
たまに犯罪者扱いされることもあるが、治安維持のためだ、仕方あるまい。それを除けば利用者にとって警察は決して冷たくないのだった。交番など温かいものすら感じる。道案内に落とし物の登録、巡回パトロールに迷子の保護、、、。私も何度もお世話になったものだ。
だが、いつ行っても人のいない交番があるのはどういう事だろう。あの交番は犯罪抑止のためのカモフラージュなのだろうか。
例えばそれはある地方都市の駅前西口の交番だった。いることもあるが、いて欲しい時には必ずいない。「巡回中です」の札がかかっている。本当か?麻雀やってんじゃあないのか?せめて一人くらい残していったらどうなのだ。
ある時、私は大切なファイルを落としてしまったのだった。気が付いて急いで近くの交番に駆け込む。大事な資料なのだ、頼む!何とかしてくれ!一通りの手続きが終わると警官は言うのだった。
「○○県警にも行った方が良いよ、隣町の駅前に交番があるから」
そこはちょうど都と県の境界、橋を一本挟んで管轄が警視庁と県警に分かれていたのだった。わざわざ県警へ行けとおっしゃる?案外ローテクだな、電話1本、連絡手続きしてくれれば済むことではないのか。
「するけど、ちゃんと手続きしといた方が良いから 、、、」
「じゃあ、いまから行って来ます」
「駅前の交番」というのに一抹の不安を感じるが、行った方が良いと言われれば仕方がない。なにしろ大切なファイル、そして私は善良な市民なのだ。
こうして県の駅前交番にやって来たがなにやら人の気配がない。どうも嫌な予感がする。中をのぞいてみれば無人ではないか。寂しさが込み上げる。一体どういうことなのだ、行けと言われたからわざわざやって来たのだ。本当に連絡してくれたんだろうな、警視庁。
無人の交番には堂々とプレートが置かれていた。
「巡回中です。お急ぎの方は下記まで御連絡下さい」
電話で済むのか警視庁!
そんな番号など無視して、嫌がらせで公衆電話の緊急110番コールでもかけてやろうかと思ったが、意地になっていたのだろうか、そのあたりを1時間ほどうろつき、交番に戻ってみた。
閉っていた。
もう我慢ならない。いつまで巡回を続けるのだ。私にだって用事があるのだ、もう知るか!(私のファイルの事なんだけど)
用事を済ませに出かけ、そして数時間たった帰り道、ふと思い出して交番に立ち寄ってみるのだった。
閉っていた。
交番、、、本当にここで良いんだよな。不安が不安を呼び、疑問が渦巻くが止むを得まい、表示された番号に電話をかけると、手続きは電話だけで完了してしまったのだった。警察め、私の時間を返せ。そして落としたファイルは結局発見されていない。
駅前の交番は危険だ。




