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お代わりはいかがですか?

2001年 食べ歩きをしていた頃のお話

 就職を機に引っ越しをすると、私は毎晩のように同僚たちと夕食を食べ歩くようになったのだった。


 ラーメンにビールをつけて1500円、焼肉で5000円、居酒屋に行くと6000円。初給料日まであと2週間、なぜ破産の危機にあえいでいるのが私だけなのか。同僚には新卒採用者もいるというのに、やつらの懐はどうなっているのだ。打ち出の小槌を持っているのなら私にも使わせてほしい。


 1ヶ月を乗り切ると全員での食事会は減っていったが、私は気の合った同僚と2人で、夜な夜な新しい店を開拓していった。


 中でも一番のお気に入りがそのカレー屋だった。


 毎週2回はカレーを食べに行く。店はマスター夫妻とアルバイトで経営しており、常連の私たちはすぐに顔を覚えられ、話をするようになったのだった。


 個人店で常連になると良い事もある。


 頼んでもいないコーヒーが付いてくる。デザートが付いてくる。メニューにはない1品料理(まかない?)が付いてくる。


 マスターはカレーの研究に余念がなく、メニューの種類は豊富だったが、いつしか私は毎回同じメニューを注文するようになったのだった。


 ふわふわ卵のオムカレー、インド風、500g、2辛。


 なつかしい。


 ある日、同僚といつものカレーを食べ、満腹でくつろいでいると「新しいカレーを作ったんだけど、感想聞かせてくれる?」とマスターが2皿のカレーを持ってきたのだった。


 2皿だと?見間違いか。今私たちは大盛りカレーを食べたばかりのはずではなかったか。


 テーブルには空になったカレー皿が2枚、たしかに見える。これは幻か。それともアレか、通信販売でよくある「一つ買うともう一つ付いてくる」というアレか。たいていの場合は必要のないアレか。


「隠し味に味噌を入れてみたんだけど、どうかな」


 そんなことより何故このタイミングで出そうと思ったか。私たちが飢えた子豚ちゃんにでも見えるというのか。


「新メニューに加えるか考えてるんだけど、意見を聞かせてくれるかな」


 いやだから、、、もう何も言うまい。私と同僚は困ったように顔を見合わせ、ありがたく頂くことにした。


 味噌カレーは、あらかじめ聞いていても味噌の風味は感じられず、ただ、なぜか辛みだけは強くなっていた。気持ち的に「おいしい」と言ってあげたいがそうもいくまい。公正なジャッジを求められているのだ。同僚を見ると困ったような顔をしているではないか。


「どお?」


「う~ん、ちょっと辛くなってるかな」


「そうだねちょっと辛いね、これ、味噌の味する?」


「味噌って感じじゃないね」


「でもカレーだね」


「うん、カレーだ」


「・・・」


 味噌カレーは普通のカレーだった。普通のカレーになんて感想を言えば良いのか。困ったぞ。2皿目のカレーを食べきるのに相当な時間がかかったのは、決して満腹ばかりが原因ではあるまい。


 カレーを食べきった私たちは、はちきれんばかりの腹を抱えてカウンターに向かったのだった。


「ごちそうさま。味噌カレー、なんかいつもより辛く感じましたよ。それから、、、あまり味噌感はなかったかなぁ」


 そう言って隣を見ると同僚め、口をつぐんで貝になりやがった。私にすべて任せる気らしい。


「う~ん、いつも食べているカレーが大好きなんで、どっちかと言われれば、やっぱそっちを選んじゃうかなぁ」


 こうして「おいしい」とも「まずい」とも言わずにこの局面を乗り切ったのだった。また試食品を出されるかと思うと、店に来るのがためらわれたが、そんな事は2度となかった。そして味噌カレーがメニューに加わる事もなかったのだった。


挿絵(By みてみん)


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