都市ダンジョンへ潜ろう!
2021年 大都市へ出張した時のお話
それは、ある大都市に4日間の出張に出かけた時のことだ。
駅から徒歩5分(実際は道に迷い20分かかったが)の貸会議室からの帰り道、ビルの1階から地下へと続く階段に駅への案内表示板をみつけたのだった。
おっと、こんなところにダンジョンの入口発見!
大都市の駅がたくさんの路線と周辺のビルを巻き込み、広大なダンジョンと化していることはよく知られている。その入口がこんなところにあろうとは。テンションが上がってしまうのも仕方がないのではなかろうか。
私とて都会暮らしの経験がある身、ダンジョン初心者ではないのだ、この程度で怯んだりするものか。ウキウキする心を抑えてダンジョンに挑む。
ビルの地下からは一本の地下街が続いており、多くの食堂や飲み屋が並ぶ。まだ早い時間であるためか人もまばらだ。そんな中、ある店の看板に掲げられた文字に目が釘付けになったのだった。
「ホブゴブリン」
いるのか、ヤツが。これは倒さねばならぬ。私は迷わず店に入ったのだった。イギリス産ダークエールの「ホブゴブリン」は1体倒すたび、私に660円のダメージを与えていった。手ごわい、どうやらここには巣があるようだ。無尽蔵に出てくるホブゴブリンに私の財布が悲鳴を上げる。これはいけない。
ホブゴブリンの巣を逃げ出した私は先へと進む。ふらふらするのはホブゴブリンの毒にやられたせいか。そして目にしたのはギラギラのネオンに包まれた賭博場だった。
どうしてこんなダンジョン内にパチンコ店が?
しかし考えてみれば、法的にグレーなパチンコ店が地下営業しているというのは、極めて妥当なことではないのか。きっとならず者たちが集まっているに違いない。
ここまで歩いて気がついたのだが、この地下街は土地所有権の問題か、各ビルに接続するためか、大きく曲がりくねり、しかも軽くアップダウンしている。もはや人を迷わそうと思って設計したとしか考えられないではないか。地下に潜ったはずなのになぜ空が見えるのだ。幻覚か。そうしてたどり着いた先にそれはあったのだった。
「枡形じゃあないのか?」
通路は自動ドアに囲まれた小部屋を介して直角に折れ曲がっていた。これは日本の城郭にみられる枡形虎口に違いない。いったい何を迎撃しようというのか。
周りに警戒しながら枡形を抜けると、やがて地下街は他の地下街と合流しショッピングモールの様相を呈してきた。行き交う人々も多い。迷うかと思われたが、しかし案内板をたどるとあっけなく駅までたどり着いたのだった。
駅を通り越し、地上へ出て宿泊予定のホテルを探すと、ホテルの目の前にもダンジョンへの入口があった。凄いな!都会のダンジョン!
翌朝、ホテルから出るとすぐにダンジョンに潜る。行き先は昨日の会議室だ。しかしダンジョンに潜ると、見慣れない風景がそこにはあった。
店が閉まっている。
考えてみればあたりまえだが、しかしそんな事で遅刻するわけにはゆかぬ。幸いダンジョンには案内板がある。昨日もそれを頼りに歩いたのだ。しかし駅に着くと既にどこに向かって良いのか分からなくなっていたのだった。
いや、目的のビル名もそこに繋がる地下街の名前も分かっているのだが、案内板に書いてあるのは聞いたこともないような名前ばかりだった。
本格的にマズイ。
なんとなくの方向を目指して私はさまよい、予定より15分遅れて会議室にたどり着いたのだった。早く出て来て良かった。
その日の帰りと翌日、私は食事をしながらダンジョン攻略に勤めたが、毎回異なるルートを歩かされた。一度など案内板に従って駅に向かっていたはずなのに、着いた先はバスターミナルだった。おかしい、一日目は簡単だったのに。
最終日の4日目、私は今までの知識を総動員してタイムアタックをかけた。その記録は15分。やった!私は勝ったのだ!無論ダンジョンの隅々まで攻略できたわけではない。しかし確かな達成感がそこにはあったのだった。
出張から家に帰り、インターネットでホテルから会議室までの地図を調べてみると、地上の道で650mの距離だった。試しに分速80mで徒歩換算してみる。
、、、8分だった。
気がつかないうちにダンジョンのトラップに引っかかっていたようだ。恐るべし!現代のダンジョン!
最後までお読みいただきありがとうございます。
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2021年4月30日~5月5日まで毎日投稿!
明日もお楽しみに!
文章に2時間、イラストに6時間、、、し、死ぬ。
毎日投稿している作者様、心より尊敬します。




