第七十話 帝国の将と騎士団長。
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――数日後。
夜半、帝国の城内、とある一室の窓辺の席に、顔半分に火傷を負った男と、顎鬚を生やした男が二人で酒を酌み交わしていた。火傷の方が帝国の将軍ルーシフ。顎鬚の方が副隊長だ。
ルーシフの手には副隊長から提出された今回の出来事の報告書が握られており、二人は対照的な表情をして語りあっていた。
「それで?街の様子はどうだ」
「死傷者は意外と少ない。ダンジョンは消失。元凶は死んだ。復興は順調。やれることはやったな」
問いかけるルーシフの表情にはズウンと重い空気が漂い、副隊長はカラカラとした笑みを浮かべている。
「ハァ……面倒なことをしてくれたものだな」
「俺のせいみたいに言うんじゃねぇ」
「そんなつもりはない。だがな、サタノ、お前が全裸で街に出没したというのは……どういう了見だ?」
「あん?服を奪われたんだしょうがねえだろ?」
「負けたのか?お前が?……露出癖を開花してしまっただけとか――」
「ねえよばーか。……へへっ、お前がそんな冗談言うなんて珍しいな……くくくっ」
ルーシフはジトーっとした視線を送ると、その顔を見て心底楽しそうに副隊長は笑った。
「ハァ、冗談くらい言いたくなる。気を付けろ。宰相ムーアは俺よりもっと酷い状態だぞ」
「うわぁ、めんどくせぇ。暫くはあいつには近寄らない様にしなきゃな」
「ハァ、商人や冒険者などの情報は伝達が早い。勇者であるお前の敗北はあっという間に広がる」
「それに関しては、マジで悪い。迂闊な行動だった。だが、ちょっと良い事があったもんでよ」
「謝らなくていい。お前が負けた事が信じられないだけだ。俺達十人の中でもお前は指折りだからな」
「お前に言われても嬉しくねーぞ将軍さま?」
「はっ、将軍になりたければいつでも代わるぞ?そもそも、俺とムーア以外お前ら自由すぎないか?軍人って言ったら普通は階級制だろ?今更ながら思うが、お前らが決めたこの帝国の階級はおかしい。『隊長・副隊長・係長・主任・バイトリーダー』って分け方だと、他国に説明するのが面倒なことこの上なかった……今はもう慣れてしまったがな……」
「しょうがねえだろ?アスフの馬鹿が将官・佐官・尉官とか教えても全然分かんないんだもんよ。『全部一緒に見える。違いが分からない』ってさ。将軍は良いのかよって話だよな?」
「まったくだな。だが、俺たちがこうして未だにまとまっているのも、あいつが俺を将軍推ししてきたのが事の始まりだった気がする」
「やめろやめろ。昔の話なんて、そのうちお前、右半分の顔の火傷痕が疼くとか言い出すんだからよ」
「うっ、い、言いかけたのは認める」
「ふははは!くせーくせー。中二臭いのはゲームの中だけで充分だっつの!……こっちの世界は現実だ。どうしようもないほどな」
「十人の勇者か……一人が敵対し、一人は国の為に『人柱』となる事を選んだ。イデアが選ばなければ俺達は今頃生きてさえいなかった……。常々思う。俺たちは勇者なんて立派なもんじゃ――」
「はっ!聞きたかねーよ!ほんと久しぶりだ。お前が泣き言を言うなんてな。らしくねーらしくねーよルーシフ。」
「わかってる……今のは忘れろ。俺達には希望がまだ残ってる。サタノ……この呪われし人生に終止符をうつために、俺たちは全力を尽くすぞ」
「ああ。もちろんだぜ隊長さん?」
「もう負けるなよ副隊長」
「おう、行ってくる。じゃあまたな……たまにはムーアを抱いてやれよ?――デュア!あぶねっ!ダハハハハ!!」
「――たくっ、あいつはどうしてああも変わらないのだ。ハァ、俺もそろそろ戻って書類仕事を片付けなければいけないか…………まぁ、す、少し位ならばムーアに声を掛ける時間もあるだろうな。
――『我が身、我らが魂に栄光と祝福を……呪われし御業をもって、我はこれより戦に身を捧ぐ。願わくば純潔をもって我が身を侵せ【LU】』――
『……ムーア、聞こえているか?……ああいや、急ぎではない。少し声を聞いておきたくなっただけだ……』」
一人きりになった部屋の中で、将軍ルーシフは外を見つめながら音を紡いだ。
音を紡いだルーシフの背中には、淡い光と共に刻印の光と淡い痛みが訪れる。
そして、痛みの欠けらを言葉に変えて、将軍ルーシフは宰相ムーアと少しだけ甘い時を交わした――。
☆☆☆
「それで御子達はいったいどこへと消えたのだっ!!!!」
ドンッ!と激しい音を立てて机を叩くと、その男は目の前に居る部下へと当たり散らしている。
「も、申し訳ございません。総員で探し回ってはいるのですが未だに御子様達の消息の手掛かりは何一つ――ごはっ!!!」
「役立たずがっ!!クソッ!!!あれもこれも全てはあの冒険者共のせいだっ!!たかがFランク冒険者如きが――」
多種族が住む連合『サンアシモロ』の都市の一つ『ラピリュス』には、『黒聖騎士団』本拠地がある。
その本拠地の一室にて、とある任務の失敗の責を負わされ不遇の立場に追いやられている騎士団長の姿がそこにはあった。
――だが、そう思っているのは実は団長本人のみであり、周りは彼の事をあまり良くは思っておらず、今の状況に陥ったのも自業自得だと納得する者が殆どであった。
彼は元々親の権力を笠に着て今の地位を得たという経歴を持つ。
一個人としての戦闘能力は悪くないが、指揮官に向いているとはとても言えない短気な性格をしており、彼はお飾りの騎士団長として有名であった。
しかし、本人は自分の器が大きいと錯覚しており、齢が四十半ばを超えて更なる悪化の一途をたどり、この世で最も優れているのは、おそらく自分じゃないかと根拠のない自信までもつようになっていた。ワロス。
そして、野心が止まる事を知らない彼は、騎士団の主な任務である『黒の血族』の御子達の守護任務だけでは当然満足できず。御子達の守護強化を名目に、独断で"黒の賢者"ゆかりの『守護聖獣』確保という大層な任務を行ない――これを失敗。その上今度は、御子達が帝国へと友好の為の定期公務に赴く際、御子達を見失うと言う失態までおかした。御子達は行方不明のままである。
そうして諸々の責で彼は今『ラピリュス』にある本拠地で謹慎処分を受けている最中なのである。
――えっ?なんでそんなお馬鹿をのさばらせておくのかって?さっさと一思いに処してしまえばいいじゃないかって?
……もちろん出来る事ならば、誰もがその意見には賛成する事だろう。『黒聖騎士団』の部下達なら一日に十回は考えてる。だがしかし、残念ながらこの国とって彼は少しだけ特殊な存在なのであった。
そもそも『黒聖騎士団』のメンバーは『黒の血族』に少なからずゆかりのある者ばかりで構成さえており、その中でもこの騎士団長はかなり高位な家格を持っているのだ。
貴族制ではなく、色々な種族と氏族の集合体である連合『サンアシモロ』においては、この血の重みだけは易々と無下にして良いものではなかった。
――コンコンコンコン。
するとその時、彼のいる部屋へとノックが響く。
「入れっ!!!」
「失礼します――実は"例のもの"が見つかったとの情報が入りました」
「なにっ!!どこだ!どこで見つかった!!」
「帝国です」
「――帝国か。なるほど。なるほどなるほど。そうかやはりか。そうではないかと思っていたのだ!思っていた通りだったな!よしっ、そうであればこんな所でのんびりとしているわけにはいかんっ!!今すぐ私の鎧と馬の準備をせよ!!私が直接帝国へと赴くっ!!」
「だ、団長!お待ちください!我々には待機任務が――」
「うるさいうるさいっ!黙って私について来いっ!!『黒聖騎士団』出るぞっ!!!」
まるで最初から全てが自分の計画通りであるとばかりに気持ち悪い笑みを浮かべた騎士団長は、周りの静止には一切耳をかさず、『黒聖騎士団』を道連れにして帝国へと出発していった……。
――後年。
とある賢者が、"騎士を率いる者に最低限必要なものは何か"と問われた際、皮肉を交えて一言残した。
『黒聖騎士団の団長じゃないこと……』と。
皮肉どころかドストレートの悪口であった――。
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