第六十話 誇りとプライド。
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ひゃー、遅くなってしまいました。すみません(汗
良かったら今日も暇潰しにお使いください。どうぞ――。
★★★
「最初から、狙っていたのであるか?――」
白銀の龍は、青き城砦の下敷きになりながら、顔だけを横向きにしてジーク達へと問いかけた。
その表情からはある種の諦めが見える。
仰向けに倒された時点で力が全く入らない。
力づくで跳ねのけるのは完全に無理である。
噛みついて挽回を計るにも、首すら回らない。
――ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである。ムカつくのである――。
白銀の翁の心の中では、鬱憤が渦巻いていた。
正直言って、色々と物申したいことが多々あるのだ。
なんでスライムがあんな大きくなれるんだ!それもなんであんなに速く動けるんだ!
なんでブレスを回避できたんだ!それにどうやってブレスを防いだんだ!!等々……。
――だが、それも時間としてみればほんの僅かな間であった。
「…………」
戦いを神聖視する者が多い龍族において、敗北を認めないと言うのは何においても恥ずべき行為であり、己が生よりも誇りを尊ぶ彼らにとって、先の戦いは誇りを掛けるに充分満足のいくものであった。
白銀の翁は全力を尽くし、相手はそれを超えたのだ。
完敗である。
「(……我輩は、負けた、のであるな)」
"初めての敗北"と言う事もあり、ほ、ほんの少しだけ心がざわついてしまったが、ジーク達が傍に来る前にはその心もすっかりと落ち着きを取り戻していた。
「――ええ。貴方の事は最初から捕獲する気でしたから……」
赤と白の髪をした子供が、青き砦の上から、シュルルーっと滑り下りて来て、先の問いに答えた。
その顔のなんと黒くて楽しそうな事か。
トロンとしたタレ目に虚ろな瞳をしているにも関わらず、ウキウキしているのが丸わかりである。
……あの顔、ム、ムカつ――ゲフンゲフン。
☆☆☆
ウォーベットが砦を自由自在に作り替え、滑り台みたいな形状になってくれたので、ジークは歩かずに移動できた。
ウォーベットの遊び心で、滑り降りる途中にはいくつもカーブがあり、何気に滑るのがとても楽しい。
ジークの後ろからはわちゃわちゃ達もお手てを繋いで二人そろってコロコロと転がって滑り降りてくる。こちらは大変可愛らしくてほっこりします。
「――"捕獲"……で、あるか。まさか我輩が、人間に捕まる日が来ようなどとは、夢にも思っていなかったのである。敗者として、素直に称賛させていただくのである。完敗である。」
「あー。今回は、僕たちは何も手を出しませんでしたから。その称賛は貴方を倒す作戦を立案し、自分で実行した僕らの仲間であるスライム――"ウォーベット"へと頂きますね」
「"ウォーベット"……それが我輩を倒したこの者の名であるか。……そうか。我輩もまさか千年の長きにおいて、最初に土をつけられた相手がスライムだとは思わなかったのである。……ずっと、ただ矮小なだけの弱い生物だと思っていたのであるが――其方の様な、強者もいたのであるな。目が覚めた思いである。……なによりも、其方の戦いは素晴らしかった。まさか我輩のブレスを回避し、翼をもたぬまま空を飛び、防御できるにも関わらず我輩の油断を誘う為に、最後までそれを隠し通したその策略。――全てにおいて、完敗である。もう思い残すことはない。最後の手向けとしてはこれ以上ない戦いを得た。……煮るなり焼くなり好きにするのである」
白銀の龍から送られる最上級の称賛に、思わずウォーベットもほんのり桜色に染まる。
純粋に嬉しかったらしい。
『照れるよぉ~それ以上褒めても何も出ないよぉ~♪』とプルプル震えていた。
――だが、それとは対称的に、白銀の翁は全て覚悟を決めた表情だ。
弱肉強食の世界において、敗者はただ死すのみ。
龍としての誇りを胸に、彼はここで命を散らす事を望んでいた。
「あー。いえいえ。別に食べたくて捕獲したわけでもありませんし、煮たりも焼いたりもしませんよ?」
「へっ?」
――しかし、当然そんな白銀の翁のシリアスな雰囲気は『目覚めを待つ者』には通じない。だって、"街までの道を聞きたい"が為に、捕獲しただけなのだから……。
「――えっ?えっとつまりはー。我輩は、道を聞かれるためだけに、今この様な目にあっているのであるか?」
「ええ、そうです。ハハっ、実はちょっと迷子になって困っていたんですよ。丁度良く貴方が通りかかってくれたのでほんとに助かりました。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ってのは良く言ったもんですね。もう安心です」
「いやいやいやいや、色々とおかしいのである!間違っているのである!!どこの世界に、道を訊ねる為にドラゴン撃ち落とす輩がいるのであるかっ!」
「えっ?――」
「――うぇえぇ!?目の前にいたのであるっ!!!我輩っ、今日一番の驚きは今まさにこの瞬間っ!!!」
小首を傾げているジーク達に戦慄を覚えた白銀の翁。
「いやぁー、さすがに大きな龍は賢いですねー。きっと頭が良くて理解も早いと思ったんですよ。大石君を飛ばして正解でしたね。道を聞くためには撃ち落とすしかないですから」
「まっ、待つのである!!はっきり言って、理解はしたくはないが、とりあえず理解を示しておくとして、そもあんな大岩がぶち当たったら普通死ぬのである!!即死である!!我輩だからこそあの瞬間、咄嗟にブレスで迎撃できたけど、他の龍だったらだいたい死んでるのであるっ!!!」
「えー、そうなんですか?――でもアレ、エキスに膝に当たるよう調整して投げてもらったので、命の危険はたぶんなかったと思いますよ?それに、大きい龍なら身体も丈夫そうだし平気かなって、高い所から落ちても"食いしばり"スキルぐらいホイホイ発動してくれるかなってちゃんと作戦もたててたんで――」
「――なんであるかそのフワフワッとした作戦はっ!!死ぬのであるっ!!『墜落死』は『龍年間死亡率』の上位に食い込むのであるっ!いくら龍が丈夫だと言っても、みんながみんな我輩みたいな"鉄壁肌"だと思わないで欲しいのである!!我輩レベルになるまでは、長年の地道な努力と、たゆまぬ鱗のお手入れが必要なのである!
更に言わせてもらえば、"食いしばりスキル"は"神スキル"。ホイホイ軽々しく発動できるわけがないのであるっ!例え発動したとしても、それって普通に"瀕死状態"だと現実を見て欲しいのであるっ!!
そして最後にっ!大岩で"膝"を狙ったのだって、どうせ『膝に"岩"を受けてしまってな……』とか、我輩に言わせたいだけだったのではないのであるか?其方たちからは、そんな悪意がドバドバと漏れ出ているのであるっ!!ぜったいに我輩で遊んでいるのであるっ!!きっとどこかに"矢"も隠し持っている筈で――」
長年他者に対してイタズラを仕掛け続けてきた経歴がある白銀の翁は、悪戯の空気にとても敏感であった。
一瞬で思惑を看破されてしまったジークとわちゃわちゃ達はサッと目をそらし、何気ない体を自然に装う。
しかし、ジークの後ろに控えるわちゃわちゃ達の背後に隠されたお手てには、彼らの小さい身体では到底隠す事など出来ない"極太の矢"(龍が素直に道を教えたくなる不思議な道具)がばっちりと見えていた。(注意・わちゃわちゃ達はしっかりと隠しているつもりです)。
「目をそらしたっ!?そ、そんな事よりも見えてるっ!ぶっとい矢がちゃんと見えちゃってるのであるっ!!!」
「……君のような勘の良い龍は嫌いだよ(小声)」
「なんであるかっ!?今ボソッと何か言ったのであるなっ!良く聞こえなかったのであるっ!やっぱり我輩で遊ぶ気満々なのであるなっ!!龍の誇りが汚されるのであるーーーーっ!!!」
自分がイタズラするのは良いけど、イタズラされるのは大嫌いな白銀の翁は、身動きが封じられながらも尻尾の先や、手足の指など動く部分だけでジタバタとしている。動きは可愛いけれど、ちょっとうるさい。
「あー。大丈夫ですよー。酷いことはしませんから。ちょっと道を聞きたいだけ――」
「我輩の身体は7割が誇りで出来ているのであるっ!残り3割はプライドであるっ!!イタズラされるとストレスで我輩の綺麗な白銀の鱗がくすむのであるっ!!がんばれ鱗!!負けるな我輩っ!色艶は永遠の輝きーーーーーー!!!」
龍族にとって"誇り"と"プライド"は別々なのだろうか?と、小一時間くらい問い質したい気持ちもあるが、イタズラされると勘違いした白銀の翁が、我を忘れたかのように取り乱している様の方が今は面白い。
「(思ってたよりも面白い龍を捕まえてしまったようだ……これはもうしばらく連れて行こう……)マルクっ、龍がご乱心だ!このままではいけない!麻酔の準備をっ!」
なんとなく連れていった方が面白くなる気がすると言う素直な気持ちに従い、ジークは予定を変更してこのまま白銀の翁を捕獲していく事にした。
そして、ジークの命に従いピシッと敬礼をしたマルクが、白銀の翁へとササッと【睡眠魔法】を施す。
――だがしかし、それに対して今度は白銀の翁の方が不敵な笑みを浮かべた。
「フフフフ、愚かである。我輩は【状態異常】にかからないのであ――――グゴォォォォォォォ、ズビィィィィィィィ――」
各種【状態異常】に対し、軒並み高い耐性をもっているはずの白銀の翁は、一瞬息んで抵抗を見せたものの――悲しいかな2秒程で呆気なく鼾をかいて眠りに落ちた……。
――後に、世界中の様々な出来事を記憶し、数千年の長きにおいて世界の傍観者として在り続けた『歴史の語り部』。『白銀の智』として呼ばれることになるこの龍が、唯一黙し続け、生涯誰にも語らなかった出来事は――最も心を許し、最も追憶せし"仲間達"――『目覚めを待つ者』の面々との、この"出会い"であった……。
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またのお越しをお待ちしております。




