第五十九話 常識と非常識。
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追記、
一部、文字数が多かった為に、ルビが思い通りに振れておりません。
お察し頂けると助かります。すみません。
★★★
突如として、荒野に出現した『青き城砦』。
それがたった一体のスライムの巨大化した姿だと誰が思うだろうか。
その城砦に相対する白銀の龍――"白銀の翁"は、それを目にした瞬間、背筋に冷たいものを感じた。
それは、これまで生きてきて初めての感覚。――いや、遠い過去、幼き時分には何度かあった感覚だ。
ここ数百年は、得ようとしても得られず忘れかけていたその感覚は、言うなれば"生命の危機"を告げるものであった。
だが、"弱者"が生き延びる為に自然と備えているその感覚に、白銀の翁は自ら拒絶を強いた。
当然であろう?その感覚に従い逃げ出せば、白銀の翁は、"ソレ"を認めてしまうことになる。
齢千年――幾たびの戦場を超えて不敗。ただの一度も敗走は無く。その体はもはやプライドの塊で出来ている。
高次元にすら届き得る己が、どうして『弱者』であるなどと認められようか!!いや、認められるはずがないのだっ!!!
白銀の翁は、絶大なる破壊を齎す事が出来る龍である。
白銀の翁の敵として相対してきたものは、いかに堅牢な建造物であろうと、いかに強力な魔法障壁であろうと、いかに硬質な生体防御であろうと、それら全て例外なく破壊に曝されてきたのだ。
――ならば、今回もいつもと同じく、ただその破壊を知らしめるだけである。
「ククククッ……なんの理由があって我輩に矛を向けたのかは分からぬが、矮小な人間達よ。先ほどは素敵な挨拶をどうもありがとうなのである。――然らば、今度はこちらから返さねばならぬな。……熨斗を付けてお返しするので、どうか喜んで受け取ってほしいのである――"喰らえ"」
未だ上空に佇む白銀の龍から響くその声は、荘厳な調べであった。
だが、瞬きする暇さえない後に、その口腔から放たれたるは真逆の一撃である。
圧倒的な魔力量を誇る龍族が最も得意とし、最も破壊力がある吐息。
【ブレス攻撃】――別名【神より齎される祝福の模倣】が解き放たれた。
白銀の翁が放つ【ブレス攻撃】は、普通の龍達が放つソレとは異なる性質を持っていた。
通常、"下位龍"ならば『魔力の塊を衝撃として吐き出し』、"中位龍"ならば『その魔力の塊を圧縮して吐き出し』、"上位龍"ならば『その圧縮した魔力の属性を変質させて吐き出す』。
だが、白銀の翁の場合は更にその上、放出される魔力が外に散って威力の減衰が起こらないように疑似的な不可視の砲身を作り出し、決して狙いが外れないように目標までの直通パスを形成する。――要は必中の一撃と成したのだ。『お前らをぜったいぶっ殺す!』と言う、回避不可・最大威力の本気の一撃である。
――当然、それは"破壊"そのものであった。
大技にありがちな過剰な溜めすらなく、上空から放たれたその光線が青き砦へと届くまで0.1秒も掛からない。
急に現れたその敵――その砦のど真ん中に狙いを定め、全てを消し去るつもりでブレスを放った白銀の翁は、完全に獲ったと思った。
幾人かの人間が砦の中にいる事は確認できていたので、最低でもちんけな防御魔法くらいは張ってくるかとは思ったのだが、全く反応すら出来ていない様だ。
「(愚かにも我輩に手を出した罰である!我輩のブレスで塵も残さず死ぬが良いっ!!!)」
――だが、その時。
信じられない事に、その大きな青き城砦が、スッ……と横に動き、白銀の翁のブレスを回避した。
「……なっ!?なんだとっ!!」
その光景には、齢千年を超え様々な経験をしてきた白銀の翁も、さすが驚きを隠せず目を見開いた。
……その表情からは、『普通、お城や砦って動かないんだよ?』と言う純粋な気持ちが伺える。
「あのスライムめ……フン、だがな――」
渾身のブレスを回避したあの青き城砦のスライムの顔が、どこにあるのかは分からないが、何となく『そのブレス、見てから回避、余裕だったよぉ~♪』と言われている気がしてムカついた白銀の翁。
だがしかし、次の瞬間にはその顔もニヤリとした笑みへと変わる。
……その表情は、『予想外ではあったが、想定内である!』と雄弁に語っていた。
そして、その笑みが物語るかの様に、回避した筈の【ブレス攻撃】が地面を抉りながら、再び青き砦へと追尾し向かう。地面を抉っていっているにも関わらず、威力の減衰も見られない。
「(我輩のブレスは、放った瞬間に"命中"する事が決まっておる。逃げ切れるとは思わぬ事だ!!)」
一度回避されたとしても、隙を生じぬ二段構え。
白銀の翁が放ったブレスは今度は背後から青き城砦を襲い、そしてその次は真横から抉り込むように飛んでくる。その後も、永遠に続くかと思られる程に止まる気配がない。
――だが、それはつまり。青き城砦たるウォーベットが、回避し続けていると言う事。
あれだけの大きさにも関わらず、そのなんと機敏な事であろう。
これが最弱の種族とされる"スライム"の動きであるなど誰が思うであろうか。
ウォーベットに包まれ、城砦の中にいるジーク達も、その動きには感動すら覚える。
――当然、ウォーベットの矜持として、ジーク達には一切の衝撃は通していない。
自身に掛かっている強力な慣性や、圧倒的な破壊の力であるブレスの衝撃がいくらこの身を揺らそうとも、それらはジーク達に届く前に全て分散させ、地面へと逃がしている。
言外に、まるで寝ていてもいいよ。とでも言っているかのような安心感。
マルクやエキスが凄いことはちゃんと知っているけど、自分もジーク達の事を守れるんだよと。
大好きな人にちょっと自分の力を見て欲しいと言う、そんなささやかで可愛らしい自己主張と存在証明。
――齢千年を超える龍の【神より齎される祝福の模倣《ブレス攻撃》】を、一スライムが完全に回避し続けるその様は、まさに痛快であるとしか言えなかった。
「ウォーベット。ちゃんと見てるからね。――君の素晴らしい姿を」
ウォーベットが巨大化した内部――青き城砦の一室にある玉座の上で、ジークは座りながらも撫でて、ウォーベットを褒めた。近くにいる『目覚めを待つ者』の面々も同意を示す様に微笑んで頷いている。
みんながウォーベットの勇姿を褒めてくれるもんで、ウォーベットは思わず照れてしまい、青い城砦はほんのりと赤みがかっている。――今は、『ちょっぴり赤い城砦』だ。
だが、そうとは知らないそんなウォーベットの変化を、好機であると捉えた者がいた。
――そう、白銀の翁である。
白銀の翁は、"必中"である筈のブレスを回避し続ける青き城砦に内心冷汗をかき始めていた。
あの速度、あの威力、を何故回避し続けられるのかが分からない。
……あり得ない。だが、現に目の前に現われてしまった。どうにかしなければいけない。
今までは、回避不可のこれ一撃で戦いはほぼ終わっていたので、"追撃"することなど考えたことも無かったが、ここは試さねばなるまい……。
そして、相手も流石に回避続けるのは、負担が大きく無理が出て来たのであろう。赤く変色してきた。
――今が好機である。ここでダメ押しになる、確実な破壊を与えるべきである。
そう意気込んだ白銀の翁は、再び、自身の口腔へと魔力を高める。
一撃でダメなら、二撃目、二撃目ももし回避されるのなら、三撃目まで、そして四撃、五撃と……。
「(もう完全に容赦はしないのである!!我輩の敵として認め、全力で消し去ってやるぞっ!!!)」
もはや『スライム絶対殺すマン』と言う位の集中力の高さで、白銀の翁は【ブレス攻撃】を放つモーションへと移る。
――すると、そんな白銀の翁の動きを見た、ちょっぴり赤く染まった城砦は、再び澄んだ青色に戻って白銀の翁の方へと一撃目のブレスを回避しながら走り出した。
「(色が戻った!?……誘いだったか?――いや、そんな事は最早どうでもいいのである。このまま前後から挟むように我輩のブレスで消し去ってやるのである!!!)」
未だ上空と言う、"安全圏"にいた白銀の翁は、完全なる挟み撃ちを狙う為にほんの少し高度を調整し、向かって来る青き城砦を引きつけた。
"常識的に"考えてスライムには決して届き得る筈のない高度から、慈悲も無い神の鉄槌を振り下ろすかの如く――白銀の翁は、二撃目のブレスを放った……。
「(完璧である。これ以上ないタイミングであり、これ以上ない威力であり、これ以上ない気合の乗った二撃目である)」
白銀の翁は二撃目を放った瞬間に分かった。
我輩のブレスは完全に当たると。
我輩の勝利は揺ぎ無いと。
沢山驚かされはしたが、それもここで終わりであると。
――だが、白銀の翁の 常識はそこで崩れ去る。
走り出した青き城砦は、"跳躍し"、自身に残る魔力のほぼ全てを【風属性魔法】に費やし、全力で風を身に受け止めて"飛翔"した。
今、青き城砦は間違いなく白銀の龍へと至る空を駆ける。
……あり得ない事が再び起こった。
普通のスライムならそもそもここまで巨大化もしないし、そんな状態で走れるはずもない。
――なのに、その更に上、まさか空を飛ぶだなんて誰が思うだろうか。
しかし、驚きはしたが、白銀の翁の"必中"である二撃目も、既に放たれている。
逆に空を飛んでしまった事で、後ろから迫ってくる一撃目も含めて、回避する事も出来ない。
――愚か。
この一瞬で白銀の翁の頭に浮かんだのはそんな言葉であった。
二発のブレスで、塵も残さず消え去ってしまえ!!
――だがしかし、あり得ない事は、"三度"起こる。
白銀の翁、"渾身の二発のブレス"は、"青き城砦に触れた瞬間"に、霧散したのだ。
……最初から全てが作戦通り――まさに『計画通り』。とでも言うかの様な、青き城砦の微笑みを、白銀の翁はその時幻視する。
「(なんということだ……)GUAAAAAAAAAA!!!!」
白銀の龍に覆いかぶさるかのように飛び掛かって来た青き城砦によって、白銀の翁は飲み込まれるかの様に地へと落ちていく。
――齢千年を超え、最強の種族である龍が初めて敗北した相手は、最弱の種族の"スライム"であった。
★★★
またのお越しをお待ちしております。




