第五十八話 白銀の翁と城砦。
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「(吾輩は銀龍である。名前はまだない。――あ、嘘である。"白銀の翁"と呼ばれていた気がするのである。今日はいい天気だったので、大好きなお散歩をしている最中である。お空を飛ぶのは、すごく気持ちが良いのであーる)」
齢千歳を超えるこの銀龍は、その日もいつもと同じように空をゆら~んゆら~んとまるで流れる雲の如く気ままに揺蕩って飛んでいた。
そして、これだけ威圧感のある巨大な体躯をしているにも拘らず、その龍のすぐ近くには渡り鳥の様な白い鳥が、ポケ―としたマヌケ面のまま飛んでいる……。――その鳥には、銀龍の事が全く見えていない様子であった。
これは【隠蔽】と言う魔法を銀龍が使用しているせいなのだが、銀龍本人には態々魔法を使用していると言う意識はない。長い年月を生きる龍達は、まるで呼吸するかのように容易く魔法を扱う様になる。――この姿を見る事すら出来ない者は相手にする価値はなく、姿を見ることが出来る同種の者達でさえ、ここ数百年は恐れて喧嘩すら売ってこない。……ほんと平和なものである。
それでも500年位前までは"赤"や"黒"なんかがいつもちょっかいをかけてきたのだが、何度かボコボコにしてやったら、すっかりと大人しくなってしまった。『お前らが泣くまで、決してボコるのをやめない!』と明言して憚らず、あの頃は自分もよくよくやんちゃをしていたものだ。あの熱く滾る戦いの日々は最早懐かしい。
"青"や"緑"はあいつら性格悪いから、こっちが年老いて弱った時を狙っているらしい。だが、吾輩後千年は老いる気配がない。きっと生涯現役である。……そう言えば一度、病気になったフリをして誘いだした事があったが、襲い掛かって来たあいつらを返り討ちにして凄く楽しかった覚えがある。あの時のあいつらの驚く顔と泣き顔は思い出すだけで、未だにご飯三杯ペロリといけるのである。
「(久しぶりにまた、病気になったフリをして噂を流し釣ってみるのも面白そうであるな……ククククッ)」
――そう言えば、"黄"は今頃何をしているのだろうか。あいつはお馬鹿だから、昔にバナナを食べると魔力が上がるよって教えた時、喜んでひたすらずっと食べていたが……今でも食べているだろうか。きっと食べてるだろうな……。……全部、嘘なんだけどな。あいつがそれに、いつ気付くのかも楽しみである。――今度また冷やかしに行かなければ(使命感)。
――お分かりいただけただろうか?この白銀の翁、実は結構良い性格をしている龍である。
千年以上に渡り、こんなにも元気で未だに色々と活発に動きまわっているのはこの龍ぐらいであり、長い年月を生きる他の龍達は、何をするにも飽きてしまい、ただのんびりと眠る事のみを幸福であると考えるようになる個体が少なくない。
だがしかし、一度そうなってしまうと、長寿である筈の龍達は一気に存在が老け込んでしまう。そして知らず知らずのうちに世界に同一化し、その身を大地の一部として捧げてしまうのだ。――要は、その時に龍は老衰で死ぬのである。
この白銀の翁の様に、ここまで老衰する気配が微塵もなく生涯現役を貫く気満々なのはとても珍しい部類であった。
「(……ん?)」
――っと、そんな時であった。白銀の翁はふと首筋に、ちょっとピリッとしたものを感じ、地上へと目を向ける。そして、結果的に言えばこの直感が命を救う事となった。
「(なにかあそこに大穴が空いているのであるな。……うん?いや、その大穴の近くで大きな岩がクルクルと回りながらどんどん丸みを帯びているのである。あれは何である?凄い魔力も感じるのである。――あ、よく見ればその大岩の下に人間がいるのであるな。なんかスライムとかも一緒にいるみたいである……それに、あれはもしや――って!?ええっ!!!なっ、なにぃいいいいいいいいっ!!!!)」
その時、白銀の翁が見たのは、地上から自分へと放たれる一筋の"流星"の姿であった――。
帝国の大地にちょっと巨大なクレーターが突如として生まれ、そこから切り出された大地を丸ごと大量の魔力でコーティングしたことによって完成した――とある巨大な岩石砲弾。
マルク作:"大石君一号"『命名:ジゴク二・オチロ・ベネットォオオオ!!』は、エキスの投擲によって信じられないような速度で、数千メートル上空に位置する白銀の大龍を襲う。
――しかし、さすがは龍と言った所だろうか。白銀の龍は大石君一号が完成する間際にビクッとしてこちらに気づくと、常人では視認する事さえ困難な速度で『ドォォォォォン!』と突撃していったその巨大な岩石を、咄嗟の【ブレス攻撃】で粉々に砕いてしまったのだ。……ゆ、許さない。折角の大石君一号の一世一代の晴れ舞台を……。
当然、そんなジーク達の気持ちにはお構いなしに、遠目まるで噴水の如く全身から異常な汗を吹き出しているその白銀の龍は、完全にジーク達の事を敵だと認識し、段々とこちらへと向かって来る。
対してジーク達も、最初の一発で終わると思っていたのに、片が付かなかった事で驚きを禁じ得ない状態のまま、各自は戦闘体勢へと入った。首や背中、脇なんかは汗でびっちょびちょしているが、こうなったらガチンコ勝負するしかないだろう。因みに、アークは何故かもう上半身を脱ぎだしている。――戦う前から自分の防御力を下げるとは、い、いったい何の狙いが……。(注意・ありません)。
また、わちゃわちゃ達は強敵と認めたのかその龍から全く視線を外さず、エマは気つけの一杯として先ずは一本『魔力回復ポーション』をグビグビと呷り、カナルは自分の愛刀である黒塗りの短刀を舌なめずりする――これで全員の戦闘態勢は整った。
――そして『目覚めを待つ者』の中でも、ウォーベットさんのやる気は人一倍であった。密かにとある作戦まで用意しており、巨大な龍との戦闘に備えて全力の構えをとっているのである。
……ちゃんと戦いが始まる前には、ジークにプルプルと震え『ジーク、この作戦を発動して全力で迎え撃ってもいい~♪?』と上目遣い(?)でその作戦の是非も確認している。ジークはおっとり笑顔のまま『もちろん良いよウォーベット。全力でやってみて。期待してる』と二つ返事でOKを出した。――正直、とても面白くて有効な作戦であると、ジークも思ったのである。
そして、大好きなジークから期待されているとまで言われては、これは本気を出さざるを得ない。必ず成功させてみせると心に決め、プルンと震えたウォーベットは作戦の開始を告げるべく、これまでずっと溜め込んでいた魔力を一気に解放していった――。
――そして、放たれる急激な発光と共に、その身を瞬く間に広範囲へと広げたウォーベットは、いきなり『モコモコモコモコーーーーポポポポーーーーン!!!』と一瞬で巨大化し"大きな砦"へとその姿を変えたのであった。
――後に、『一にして全なる神水』又は『戦う寝具』、『偉大なる城砦』等、様々な呼び名で恐れられる事になる――歴史上で最も強いとされたスライム・"ウォーベット"の力の片鱗が、この時に初めて垣間見えた。
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