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第五十六話 天使の棍棒と回復魔法。

『暇潰したい神さま。』にアクセス頂きまして、ありがとうございます。


良かったら今日も暇潰しにお使いください。どうぞ――。



★★★





 『迷宮都市シズセイ』へと向かって、"お手紙配達"をしているジーク達。



 隣街と言う事もあり、そこまで距離が遠いわけではなく、Fランクの依頼でもあるので日数には大分余裕がある。お金のない冒険者でも徒歩で普通に間に合うし、乗合馬車にでも乗ればかなり楽にやり遂げることが出来る依頼なのだ。――因みに、ウォーベットさんは速いだけではなく、最高級の寝心地まで付いてくるので完璧である。



 ――と言う事で、その余裕がある日数分は、せっかくなのでアークとカナルの臨時訓練をしてはどうだろうか。と言う話になった。



「「嫌だぁああああああ!嫌ぁああああ!!!嫌だぁあああああああ!!!!」」



 当然、それを聞いた二人は再び全力で泣き喚きだし、拒否してくる。


 ……が、そんな二人を悪い笑顔をしたジークが優しく宥めていく。前回の盗賊団への先走りの点も鑑みて、二人の弱点補強はしといた方が良いと感じたのだ。まぁ、少し強引かもしれないが今回も訓練は決定事項だと思って欲しい。――ただ、二人の泣きっぷりが尋常ではないのだが……何か少し勘違いをさせているかもしれない……。



「……アーク、カナル?今回は前回と違って、訓練は訓練でも戦闘訓練じゃないからね。(たぶん)厳しい事はないと思うよ?(おそらく)平気だよ?【回復魔法】を覚える為に訓練するだけだからね」


「ジーク様っ!ほんとかっ!嘘じゃないよなっ!!美少女はその言葉を信じてもいいんだよなっ!!!」

「ジークッ!ジーーーークッ!ジーーーーークッッ!!」



 前回の『訓練』は余程厳しかったらしく、二人は『訓練』と言う言葉に過剰反応し過ぎてしまっているようだ。――これはちゃんと落ち着くまで、二人に説明する必要がありそうである。……まぁ、とりあえずアークは、その名前を叫んで自分の気持ちを表現するのはやめて欲しい。





 二人にジークがじっくりと説明する為、エキス先生が特製の十字架に二人をがっちりと磔にしてくれる。そして、ジークがそのまま説明に必要な準備を整えていると、なぜだか磔にされているアークとカナルの二人が、歯をガチガチ言わせて震えだした。――まるでその顔は、今から『1000から7ずつ数を引いていけ』と言われるかのように、暗く引き攣った表情をしているのだ。……はて?この二人はどうしてこんなに怯えているのだろうか?



 ――えっ?その十字架を使って拷問する気だからだろって?……いやいやいや、どこの世界に仲間に【回復魔法】を習得させるのに拷問にかけるお馬鹿さんがいるのですか。いませんよ?(きっと)。


 ……それにこの十字架は、エキス先生が今回の為に二人の事を思って用意してくれた力作で、その名を『天使の棍棒』と言い――これは、打撃武器としても扱う事が出来るのだが、その真の実力は磔にした対象者の回復効果を、かなり高めてくれると言うステキアイテムなのである。


 これは、他の方法で魔法を覚えるよりも【回復魔法】をより深く感じることが出来るので、習得までの時間を短縮でき、今回みたいな旅の合間で習得するのにはぴったりな方法なのだ。



 ……それもこれは数日前の事、夜にスライムハウスの一室にあるキングサイズベットで、ベットの中心にいるジークへとみんながガシッと抱き付いて眠る日があったのだが、その時にアークとカナルがボソボソッと『回復魔法が使えればもっと戦闘の幅が広がって、継戦能力も高まるのに――』『――でも、回復魔法を覚えるのは大変だからしょうがない』『無理はいけないもんな無理は』『訓練しないと覚えられない』『――でも訓練は……』。



 ――とか話していたのを、エキスが偶然に聞いていたのだ。あいにく途中でエキスも寝てしまった為に最後の方までは聞き取れなかったが、エキスは彼らが訓練をとっても所望しているのだと分かったので、アークとカナルに喜んで貰おうと、コツコツ一生懸命に気持ちを込めて『天使の棍棒』を作り上げていたのであった。



「「………」」



 ……そ、そんな話を聞かされてしまったら、もう嫌だなんて言えないじゃないか。と磔にされた二人の表情は、言葉は無くともそう雄弁に語っている。



 そして、真っ白な十字架に磔られた二人の足元には、アークとカナルに喜んで貰えるかなっと期待につぶらなキャップ頭をキラキラと輝かせているエキスの姿と、これから二人に【回復魔法】を教える事をワクワクしているマルクの姿があった。そんなわちゃわちゃ達のなんと愛らしいことでしょう。



 可愛らしい"先生たち"の姿を見てしまったアークとカナルは、互いに視線を交わすとゴクッと唾を飲み込んで覚悟を決めた。【回復魔法】を覚えたかったのは本当の事であるし、せっかくの"先生たち"の行為を無下には出来ない。



「「エキス先生!マルク先生!ありがとうございます!!よろしくお願いします!!」」


「(ニヤリ……)」

「(あぁ、主様が悪い顔を……)」



 教えを斯う身としての礼儀を忘れず、いつもの通りに真剣な表情で挨拶をする2人に、エキスもマルクも鷹揚に頷いて嬉しそうだ。そしてジークも嬉しそうだ。エマだけは色々と察している。



 だがしかし、実はそんなジークの笑顔も思わせぶりでしかなく、今回は本当に平和な訓練であったりする。今回の特訓内容はマルク先生が特別に調整した【回復魔法】を直接施してもらい、それぞれの身体に魔力を浸透させると言う方法を取るだけなのだ。


 ――現に、訓練が開始されると、マルク先生がカナルの肩にピョンとジャンプしてちょこんと飛び乗り、ちっちゃなお手てでそのままカナルの頬っぺたをぺシペシしだす。そして、それはカナルからすると頬っぺたが気持ち良い事になるだけであり、まるでマッサージを受けているようにしか思えない程に心地良いのだ。――これが本当に訓練であるのか呆気にとられてしまうほどである。



「ぁぁぁぁぁぁ。……あ――ありがとうございます」


 大体20回くらいマルク先生にぺシペシされると、カナルの頬っぺたはすっかりプルプルに揉み解されており、美肌に磨きがかかっている。そして、2、3回ツンツンして満足な効果を確認できたマルク先生は、今度はアークの肩へとピョンとジャンプして飛び乗ると、全く同じようにアークの頬っぺたにもぺシペシしていく。


「ぁぁ、ぁぁ、ぁぁ……あ――ありがとうございます」



 この訓練のなんと平和な事であろうか。ジークの言っていたことは嘘じゃなかった。前回の地獄がまるで夢だったかのように、今回の訓練は素晴らし過ぎる。こんな訓練ならいつでも、いつまでも大歓迎である。とアークとカナルの二人はメロメロになっていた。


 そして、その後も20回をワンセットとして、何度もマルク先生はアークとカナルの肩を行ったり来たりし、ジークも今回はこのまま何事も無く終わるだろうと思った……。




 ――だがしかし。ある段階から、少し異変が起こり始めた。

 ワンセットが終わる度に、毎回毎回アークもカナルも礼儀正しくマルクにお礼を言っていたのだが、それが段々と変化してきたのである。



 最初は普通に『ありがとうございます』だったのが、次が『これはご褒美です』に変わり、その次は『す、すごく気持ち良いです』になって、今では『も、もっと叩いてくださいっ!!!』と、なんか変な事を言いだしてきたのだ。


 ……流石にこれは、最初でこそ気にしなかったマルク先生も、今ではもうぺシペシしたくなくなっている。……喜んでくれてるのは分かるのだけれど、これはなんか違う。生理的に無理なやつだ。


 そして、終には完全にぺシペシする事を止めてしまったマルク先生は、ジークの方へとまるで助けを求めるかのように顔を向けてしまい、ジークはすぐさま両手を開いて声を掛けた。



「はーい。訓練中止ー。エキスもマルクもこっちにおいでー。アークもカナルも、なんか気持ち悪いから今回の訓練はこれにて終了します」


「「ええええええええええっ!!!」」



 駆けよって来てジークの腕の中に収まったわちゃわちゃ達は、『やっぱりここが一番だー』と言わんばかりにぎゅーっとジークを抱きしめて嬉しそうにしている。――なんかお馬鹿さん達の嘆きが聞こえる気がするものの、さすがのジークもこれには苦笑しか出ない。ジークからしても、これ以上わちゃわちゃ達が嫌な気持ちになる事など、させたくなどないのだから。

 


「いやー。さすがに今回のは私もアークさんとカナルさんにドン引きせざるを得ませんね」

 ――プルプルプル。



「「マルク先生、ごめんなさい」」



 そして、エマの言葉にウォーベットさんもウンウンと頷いており、ハッ!と正気に戻ったアークとカナル。二人はあまりの気持ちよさに我を忘れてしまった事を深く反省しており、頭が地面を抉る勢いで土下座をしだした。――なんだろう。訓練の度にこの二人の土下座を見てる気がする。気のせいかな?気のせいだよね。



「……途中で中止にはしたけど、ある程度はマルクから魔力が浸透して【回復魔法】がそこそこ使えるようにはなってるとは思うんだ。(そう言う訓練だったからね)――二人とも良かったら試しに見せてくれないかな?」


「――オオ、ソーナノカ、ヤッテミル。手でイイか」

「うぐっ――よしっ、試しにちょっとこの手のひらを治してみるぜ」



 ジークにそう言われると、アークとカナルは手のひらにナイフで傷をつけ、手のひらから少しだけ血を滴らせる。そして、早速二人は意識を集中して【回復魔法】を使用した。



 ――すると、マルク先生にいっぱいぺシペシして貰った二人の頬っぺたはピカッと光を発し、手のひらの傷口は何事も無かったかのようにポタポタと血を滴らせ続ける……。



「「「………」」」



 『【回復魔法】を使った筈が、ただ頬っぺが光るだけ』――と言う、予想を裏切るその不測の事態に、思わずジーク達は無言になってしまったけれど、【回復魔法】自体はちゃんと発動しているとジークが感知していたので、魔法失敗の原因を探ることになった……。




 そして、色々の試行錯誤の結果、分かった事は――。


 ・アークとカナルは、【回復魔法】を使用しようとすると"必ず"頬っぺたが光り、『その光った頬っぺたを治したい傷口に当てる』と、回復効果が現われる事が分かった。


 ・アークとカナルの【回復魔法】には持続力が無く、"微小な固定値"を一瞬で回復させる事は出来るものの、一回で魔法が強制的に止まってしまうので、引き続き回復したい場合には、何度も繰り返す必要がある。



 ――と言う事だった。……正直、凄く使い勝手が悪い魔法である。




 ……この日、【回復魔法】の歴史に、"異端"として傷跡を残すことになる変態魔法【光頬(ピカチーク)】は生まれてしまったのであった……。




★★★

またのお越しをお待ちしております。


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