第四十七話 馴染みの店と悪辣の矛。
『暇潰したい神さま。』にアクセス頂きまして、ありがとうございます。
今回次との兼ね合いで少し短めになってしまいました。
良かったら今日も暇潰しにお使いください。どうぞ――。
追記、サブタイ修正。
★★★
――さらに翌日。
朝から昨日と同じ肉串屋台に行こうと決め、カナルとアークを先頭にジーク達は闘技場方面へと向かう。
昨日の夜は太めのソーセージにサラダ、黒パンとあとは木の実と野菜のスープ、そんなメニューだった気がする。ジーク本人は食べてないので、詳しい味までは分からないけど、カナルお手製のスープは中々においしそうだった。
結局、夜になるまで青地に黒い三本線の服装をした集団が追いかけて来たので、必要な物だけを買って、また街の外でスライムハウスの夜営だ。街に来たのに街に泊まらないと言う『目覚めを待つ者』の面々は何か冒険者として間違ってる気はするものの、そこいらの宿よりもウォーベット特製のスライムハウスの方が、段違いに寝心地が良いのでこればっかりはしょうがない。
朝の少し慌ただしい空気を感じつつ、ジーク達が闘技場の近くまで行くと、昨日とは違い屋台の人達はみな朝の準備で忙しそうで、開けているお店はまだ無かった。少し来るのが早すぎたらしい。
だが、そんな光景を見るのもまた悪くはないと思いつつ、屋台のおっちゃんのお店を目指して闘技場を左回りにぐるーっと回り込むように進んで行く。そうすると、昨日と同じ屋台が、おっちゃんと同じ様にどこか味わい深い屋台が、見えるはず、だった……。
――だが、昨日はそこに"あった"ものが、今日はもう"無かった"……。店の瓦礫しか残ってなかったのだ。
一瞬、その光景にアークもカナルも息をのんだ。昨日あんだけ楽しかった空間が、壊されていたのだ。
「「「………」」」
少し強めな味付けに、肉の香ばしい香り、多少くたびれた屋台の柱は、寄りかかるといい塩梅で身体を受け止めてくれて、屋台のおっちゃんに注文すると、ちょうど良い距離感と、理想的なタイミングで、肉串をすっと差し出してくれる。
値段なんか思ったよりも安い。だから、アークもカナルも何本も注文した。エマなんか肉串屋で蜂蜜菓子なんかも食べたのだ。たった一日だけど、もう昔からの馴染みみたいな場所って感じで、次の日の朝にもう一度来ようと思うくらい、気に入っていたのだ。――それが、なんで壊れているのだ。なんで瓦礫になってしまっているのだ。
"……おれたちの、せいなのだろうか"。
その言葉はいったい誰が放ったものだったのだろうか。……いや、全員の言葉だったのかもしれない。
屋台のおっちゃんは、俺たちに良くしてくれた。仲よくしてくれた。それを大勢が見ていた。
――だから、巻き込まれたのだろう。俺たちは、少なからず目をつけられていた。きっとおっちゃんは、巻き添えをくらったんだ……。俺たちに勝てないから、見せしめの如く、八つ当たりをくらったんだ。
『目覚めを待つ者』の面々に、絶対的な確信など無かった。これを行った犯人達は違うかもしれない。目的も狙いも何もかもジーク達の想像とは異なっているかもしれない。おっちゃんがもしかしたら一人でコケて、ぼろっちい屋台が重さに耐えきれず崩壊しただけかもしれない。
――だが、そんな馬鹿みたいな妄想など、今までの"経験"が、言い換えるなら"勘"が、全否定を告げている。それはないと。そんな生ぬるい幻想なんかではないのだと。これは間違いなく、"敵"の仕業であると。
「「「・・・・・・・・・」」」
我に返ったジーク達は、もっと屋台へと近寄り、屋台の残骸に、点々と残る血の痕と、その赤に濡れた肉串、そして"手足が折れた"おっちゃんの姿を見つけた。
「おいっ!おっちゃん!!」
「ダイジョウブカっ!!」
「マルクッ!!」
ジークの掛け声で、マルクは優しくペチペチと撫でる様に治療を開始する。意識はまだあるのかおっちゃんは呻き声をあげ、ゆっくりと薄目を開けて、"微笑んで"見せた。
「……ぉーぅ、ぃらっしゃぁーぃ……」
そこに昨日の底抜けの元気さは見られなくて、声はかすれていて、それでも、こんな目に合わされた"元凶達"を目の前にしても、変わらず声を掛けてきてくれて……。
「……ぁーぁ、これじゃぁ、ぅりものに、ならねぇなぁ……ごめんなぁー……」
と、折れた腕にギリギリ持てていた"赤い肉串"を持ち上げて、済まなそうな顔でそう言い、そのまま気絶してしまった。
「おっちゃんっ!!」
「カナル、キゼツダ、ネカセテオケ」
「主様、周辺はなにか知っているかと思います。いかがなさいますか?」
おっちゃんをマルクに任せて、ジークはエマが言うとおりに"虚ろなる目"で周辺へと視線を移す。
周辺には、ここと同じように朝の準備をしている屋台が沢山あるのだ。当然、人も沢山いるのだ。沢山いるはずなのに……。誰もおっちゃんを助けてはくれなかったのか。ずっとこのままで放置されていたのか。
――おっちゃん、人徳少な目だったのかな。まず間違いなくそんなこと言ったら怒られちゃいそうだけど……。
ジークと目が合った他の店の店主たちはみな、視線が合うとばつの悪そうな表情をし、直ぐに顔を背けた……。
――これはなんとも分かり易い。そうですかそうですか。そんなに敵さんが怖いですか。分かりました。この"喧嘩"喜んで買いましょう。
そして、そんな奴等なんかよりも、この世にはよっぽど"怖い"ものがあると、教えて差しあげましょう……。
「――いや、聞くまでもないだろう。答えはいつだって単純だ。敵を全て倒せばいい……。そして、ここまであからさまにやらかしてくれたんだ、こちらもそれ相応に相手してあげようじゃないか。
アーク、カナル、この街での"手加減"はもう必要ない。全力で行くよ。ウォーベット、エマ、ちょっと頼みたい事が大きくなってしまうかもしれないけど、サポートよろしく頼むね。街を少し"書き換える"から。
そして、エキス、マルク、僕の最強最高の武器達よ。"自由に"その力を奮っておくれ――。
……さぁ、僕ら『目覚めを待つ者』に敵対する愚かなる者達へ、少し知らしめてあげようじゃないか。誰に刃を向けたのかを、その身へと深く深く刻み込んであげようじゃないか。これから始まる出来事は、きっと彼らが生涯忘れられないものとなってくれるだろう……。
然すれば、先ずはこれから起きる事に祈りを捧げるとしようか――。
『――堂々と、悉くを、容赦なく。向かい来る全ての存在を掻き消し、影より這い寄る全てを踏み砕き、我らに悪意を放つ一切合切に、この世の悪辣の限りを持って応じる事をここに誓わん。……願わくば、この世全ての我が敵に、死よりも深き絶望が齎されんことを……。』」
ジークの口から紡がれたその祈りの文言は、"人の言葉では無かった"。
その言葉で、ジークがもう"いつもの違う"ことを『目覚めを待つ者』の面々は理解した。そして、自然と自分達の"王"へと対して跪き首を垂れ、同時にその身は歓喜に包まれて震えた。
深く暗い音に、一切の感情を灯さない"虚ろなる目"、そして辺りを包む魂に喰い込むこの楔の様な圧迫感。
初めて完全に出て来た"あの日"と比べれば、"これ"はまだまだ可愛いものでしかない。だが、それでも世界へと与える影響は、計り知れない程に大きい。
現に――。
「ぎゃああああああああああああああ!!!」
「があああああああああああああああ!!!」
「ああああああああああああああああ!!!」
ジークの姿をただ"直視"しただけで、屋台の店主達の何人かが悲鳴をあげ、そのまま泡を吹いて失神した。
彼らは精神を少し病むことにはなるが、これから起こる事を何も見なくて済み、ある意味では一番幸せな者達だったと言えるのかもしれない……。
――この日、帝国南部にある大きな街『トルペジテ』にて、人々の記憶から"消された一日"が、最も恐怖に包まれた時間が、これより始まった……。
★★★
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