第三十八話 ウォーベットさんと同族のふれあい。
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とある森で、とあるスライムが、残像が残るほどの移動技を繰り返していた。
その動きは、とある殺意高い系の人達が行う『阿修羅〇空』にイメージ的には近いかもしれない。
そして、そんな移動を繰り返すスライムは、木々の間を分裂したり擬態したり大きくなったり小さくなったりしながら軽やかに飛び舞っている。とても一体だとは思えない動きだ。
そのスライムが何故そんな動きをしているのかと言うと、只今絶賛戦闘中であるからであり、地面の方に目を向けるとその相手が見えた。
スライムに敵対するは――身長が5mに届くかと言うほどのオーガであり、身体には数多の傷跡が残る事からも歴戦の強者であることを感じさせた。……が、オーガは既にその場から動くことが出来ずにいた。辺りには倒れ伏した仲間達もいるので、そのオーガが瀕死の仲間達を放って置けず、仲間を守るためにこの場から動けない――とか言うわけではなく、彼らは一様にただ身動きを"封じられていた"。
地面には薄っすらと粘着質な水が見え、それがしっかりと彼らの足を覆って動きを絡めとり、その一際巨大なオーガでさえも足を全く動かせずにいたのだ。
だが、動きを封じられたそのオーガもただでやられるつもりはないらしく、木々を飛び交って高速移動するスライムに怯えながらも、なんとか抵抗しようと試みている。
――だが、飛んできた瞬間に殴りつけようとすれば、躱されるどころか反撃として腕を抉られるか捻り取られると言う光景を先ほど他の仲間がやられて見ているので、下手に殴る事も出来ず。地面の粘着を消そうと、手で引きちぎったり剝がしたりも強力過ぎて歯が立たず、オーガで魔法を扱える者がなんとか【火属性魔法】で燃やそうとするも、抵抗して【水属性魔法】で対抗値を上げているのか傷一つつけることが出来なかった。――ほぼ万事休すである。
一際大きなオーガは、結局最後は諦めずに殴って反抗を試みるも、両腕をブチッと破壊された所で首を力なく下げた。その姿からは降参の意を示している事が如実に表れている。
――すると、オーガが地面に倒れ込んだと同時に、辺り一面に広がっていた粘着性が高い水が一ヶ所に纏まり出して、喜びを表すかのようにプルプルン!っと震えた。
「ウォーベット!素晴らしい戦いだったよ!!おめでとう!!!」
そして、戦いより少し離れた場所からは大きな拍手が鳴り響いて声がかかると、その綺麗な青色のスライムはサササー!っとその声の主に走り寄り、むぎゅっと抱き付いた。スライムに抱き付かれた少年の方は「よーしよしよし!!」といっぱい撫でで褒めてあげている。
敗者であるオーガ達はその光景を力なく見ながら、とても"うんざり"したような表情をしていた。
――なにせ、これで三日連続なのだ。
「あー。マルク!"いつもの"通りに、"回復"お願いね!」
ジークにお願いされたマルクは、ピシッ!と敬礼をすると、スタタタター!っとすぐさまオーガ達の元へと走っていき、直ぐに彼らをぺシペシと叩いて治療を始める。オーガ達は尚更微妙な顔をしつつも、大人しくその治療には従う様だ。
彼らは自分達を治療しているその存在が、先ほどのスライムよりも圧倒的に恐ろしい事を、身をもって"前日に"体験したばかりなのである。逆らえるわけがない。――だって怖いんだもん。
「ウォーベット、ダイブ、ツヨクナッタ」
「ほんとだぜ!俺たちももっと頑張んなきゃなっ!!アーク、明日は俺たちの番だぜ!気合入れろよ!!」
「ワカッテル……スコシ、スブリ、シテクル」
「へへっ!俺も少し付き合ってやるぜっ!!」
「あー。2人とも暗くなる前には帰っておいでよー」
「オウ」
「ジーク様!行ってきますっ!!」
大きな"角材"を手にするアークと、黒塗りの短刀を中心にいくつかの暗器を携えたカナルは、森の奥地へと訓練しに離れていった。オーガ達は今の会話が分かったのか、『えっ、明日もあるの?』と言う顔で絶望を示している。
「ほんと今更ながらに、主様達の強さは少しおかしいと思います。さっきのウォーベットさんだって、普通のスライムの動きじゃありませんでしたよ?見渡す限りの地面に広がって敵の動きを封じて、分裂した方が上空を高速移動しつつ的確にダメージを与える。そして、それら全てが物理にも魔法にも高い耐性があるって――少し無敵過ぎじゃないですか?弱点は無いんですか?」
「えっ?そうかなー。あはっ、ウォーベット。脇は少しくすぐったいよ~。うん、そそそ。ウォーベットは『まだまだ強くなりたい。これくらいじゃまだダメ』ってさ。まだまだ成長途中だし、弱点もだいぶあるみたいだよ?今、改善している途中なんだってさ。」
「そ、そうなんですか。私も、カナルさん達みたいにもっと頑張らなきゃいけませんね……ここにいると色々と強さの常識が破壊されていく気がします……」
ジークの傍らにある少し大きな岩の上で、一緒に観戦していた"体長15cmの小さなメイドさんのエマ"は、少し遠い目をしながらそう語った。そしてジークに「無理はしなくていいんだよ。エマもなれるからね」と笑顔で言われたら、エマはもう笑うしかない。
ジークは『慣れる』と言う意味で使った言葉だったが、エマには『成れる』と言う意味で聞こえたらしく――主に期待されているのならば、私も頑張らなければ!と気合を入れ直したようだ。
元『魔道王』で、現『人造人間』と言うのは、"今の"ウォーベットと同様に物理や魔法にかなり強く、聞いただけでそこらの木っ端冒険者は白目剥いて倒れてもおかしくないのだが……。全員が今以上に強くなったとしたら、はてさてこの先どれだけの影響を及ぼすことになるやら――。
そうとは知らないジークは、さっきのオーガ達へと目を向けると、マルクの治療を受けたオーガからエキスの個人指導が入っている姿を見た。どうやら拳の振り方等が気に入らなかったらしく、『もっと腰を入れてっ!』とか説明を受けているようだ。言葉は無いけど、そのジェスチャーだけでかなり良く分かる。そして指導を受けている方のオーガ達の方も、"初日に"散々泣き叫ぶまでぶっ飛ばされた相手なので、マルクに接するとき以上に大人しく話を聞いていた。オーガがあんなに素直な魔物だったとは驚きである。
ジーク達は、大陸の西にある帝国『ナウラステル』を一応目指しながら、まだまだフラフラと冒険を楽しんでいた。エマを生まれ変わらせてからもう数か月は経っているものの、基本的には人が通らない道を進んでいるのでその旅路はお世辞にも早いとは言えず、実は未だに自由連合国『サンアシモロ』の国を出てはいなかった。
そして、今ジーク達がいる森は『迷いのバーリルの森』と呼ばれている場所で、Aランク以上の冒険者が主に活動し、『大型の魔物』と『危険な動植物』が多い事で知られる有名な場所であった。
ジーク達はもちろんここがそんな場所だとは知らず、偶々人の少ない道を進んでいたら辿りついただけである。ちょうど良く魔物等が多いので、前々から訓練を所望していた"ウォーベット"と"カナル"や"アーク"の訓練地として使っている。
これまでにあった事を少しだけ説明しよう――。
森に入った初日――、入って直ぐに毒々しい色のスライムが襲って来た。
それに対し、ウォーベットが早速相対を名乗り出て、一戦目はぷにぷにスライム対決が始まった。
ジークはウォーベット以外のスライムを始めて近くで目にしたけれど、やはりウォーベットの色艶は他のとは比べられない程に素晴らしいのだと分かった(強さは不明だ)。ただスライム業界でもその差は明確らしく、明らかに相手がイライラしてキレかかっている事が分かる。――イケメンを見るとムカムカしてしまうアレと一緒だろうか……。
そして、毒々しいスライムはウォーベットに向かって、いきなりぴゅ!っと毒液を飛ばし、尚且つ体当たりを繰り出してきた。初手から自分の最大の攻撃をぶつけて相手に力の差を思い知らせるのはいい方法だ。当然、その毒々スライムも『迷いのバーリルの森』と言う危険な場所でこれまで生き抜いてきた自信があるのだ。その攻撃で初撃からウォーベットに"格の違い"を思い知らせるつもりであったのだろう。
――だが、現実は無情である。ウォーベットさん、"ダメージ0"であった。
いっそポヨン♪と可愛い効果音が付くほどのふんわり感で、ウォーベットさんはその毒々スライムの体当たりを受け止めてしまう。あまりに痛くなかったのか、プルルルン?と震えたウォーベットさんは『寂しかったの?』とまるで聞いてるかのようだ。今までジークのベット役として、ありとあらゆる衝撃を吸収し、身体に全く負担のない夢の寝心地を与え続けて来たウォーベットさんにとって、これくらいは朝飯前なのである。
完全に体当たりの衝撃を殺された毒々スライムは、一瞬だけ驚いた震えの表情(スライムマイスターには判別可能)をしたものの、直ぐに持ち直して本命の攻撃にニヤリとした笑みを浮かべる。
――そう。彼の"本当の狙い"は最初にぴゅ!としたウォーベットの頭上に今まさに降りかからんとする"毒液"と、身体が触れてることで相手に継続ダメージを与える事の出来るスキル、自分の身体を構成している【毒属性】での攻撃であった。
『迷いのバーリルの森』には大変危険な毒薬を生成する為の"毒草"や外敵を倒すために体内で強力な毒要素を持つ"魔物"が沢山いる。そしてこの毒々スライムも、沢山の毒草を食すことでその身に強力な毒要素を備えた危険な魔物であった。『ふっ、弱いスライムと侮るなかれ!下手に触ろうものならゴブリンやオークなどは簡単に即死してしまうのだ!!』
――そうとも知らずに、『迂闊に接近を許したお前はマヌケだ!ただのスライムよ!!』とでも言うかのように、勝ち誇った震え表情(スライムマイス……以下略)をする毒々スライムは、……数秒経ってもぴんぴんしているウォーベットさんをみて、『なんでや……』と呟いた(気がした)。
お察しの通り。ウォーベットさんには、毒々スライムの毒液や毒による継続ダメージなんて、元々効かないのである。何故なら、毒々スライムが毒草などを食べて【毒属性】を手に入れたように、スライムは普段食べている物によってその性質を変化させるのだが、ウォーベットさんが普段食べている物は"ジーク達の微量な魔力"であった。そして、当然その中にはこの世界で最高最強の武器である"わちゃわちゃ達"も入る。
……あとは何を言いたいのかわかるだろう?わちゃわちゃ達は【状態異常無効】を備えてあり、その魔力をチミチミと食べていたウォーベットさんは、そのおかげで並大抵の状態異常に対しての耐性性質を得ているのだ。――それも実はほぼ"無効"と言ってもいいレベルである。
そして更に、エキスからは物理耐性性質、マルクからは魔法耐性性質、と言う特別な恩恵まで頂いているので、現状あまり攻撃スキルがないウォーベットさんだが、盾役としてなら既にかなり優秀なのである。
だがしかし、そんなことになっているとは知らないウォーベットさんもジーク達も、ただ単に毒々スライム君が弱いだけだと思っている。そして、攻撃の一切が通じない事に心が折れて落ち込んでしまった毒々スライム君は、ウォーベットさんに見送られながら帰って行った。ウォーベットさんは弱い者いじめをするつもりはないらしい。……さ、"さすウォベ"。
同種族の温かなふれあいを目にしたジーク達は、少しだけほっこりした――。
森での訓練は続く――。
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