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ヘンリー・ギフトレスと沈みゆく市街  作者: 実茂 譲
ヘンリー・ギフトレスとペンドラゴンの財宝
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 自警団に狙われるのは、三つのギャング団と狂える警部に狙われるよりはずっとマシかもしれません。しかし、過去の出来事はいくら頑張ったところで悪夢を見せて不眠症を仕掛けるくらいしかできませんが、現実の自警団はまだ銃を持っているし、自動車もあるし、軍艦を所有している同盟組織も存在します。誤認逮捕から銃殺刑までの過程に起訴や論告求刑、証人喚問がなく、せいぜい最後の一服をさせてやるくらいしかない自警団がわたしをひどい目にあわせようというのなら、ますます仕事に励むしかありません。水に潜って、陸地にいる時間を少しでも短くするのです。彼らはわたしのことを暗殺者と勘違いしているのだから、水辺でわたしにちょっかいを出そうとは思わないでしょう。そうやってかわしているあいだ、自警団についてはイルミニウスが何とかしてくれるでしょう。それまでは目立たず、誰も怒らせず暮らしていくのです。これまでだって目立たず、誰も怒らせないようにして暮らしてきたつもりですが、さらなる目立たなさとさらなる無害さが必要なのです。

 イルミニウスと肩を並べ、事故現場から北へ歩いていく途上、看板がいくつも道路に出っ張っている街に来ました。図柄は豹の格好をした女性、雄鶏の顔をかぶったボクサー。歓楽街と港湾地区のあいだの道のひとつのようですが、通りの名前は忘れました。ポーク通りかアレクサンダー通り。警察幹部の愛人が経営している酒場があったらポーク通りのような気もしますが、違う気もします。いちいち覚えていません。善良な潜水士に歓楽街は無用なのです。ボビー・ハケットがいない限り。

 ボビー・ハケットは粒々お肉が倒されたら、ツアーを再開しました。また、ここに来てくれるまでは生き延びたいものです。

「少し、いいですか? 預けたものがあるので、取りに行きたいのです」

 それは小さな銃砲店でした。歓楽街で遊び狂う人のなかには突然、神さまに嫌われ過ぎるのもよくないと思う人がいます。そこで罪深い人間を何人か地獄送りにしてやろうと思い、銃を欲しくなるのですが、そういうとき、この手の店が役に立つのです。

 銃砲店には老人がいて、カウンターと客のあいだに金網が張ってありました。老人は返り血を浴びたイルミニウスを見ると頭を垂れ、イルミニウスは、ストッピング・パワーのご加護を、と人差し指で印を切りました。

 イルミニウスはこの店の前で連れ去られたようで、武器を取り上げられる際、銃を全部この店に預けたようです。様々な銃を受け取っては体のあちこちに装着し、最後にもらった銃は大口径長銃身のリヴォルヴァーで、例の対艦リヴォルヴァーです。最後に見たときよりも青い輝きが増していて、部品の動きも滑らかです。その大きな弾倉を開けると、薬室のひとつに紙切れが入っていました。

「地図ですよ」

 何の地図でしょうか? 財宝? ギャングが沈めた死体? それとも秘密の研究所でしょうか?

「フィリップ・ペンドラゴンの秘密研究所です」

 予想が当たりましたが、嫌な予感がします。水中研究室にはいい思い出がありません。だいたいやましいことがない研究だったら、秘密にする必要はありません。合成生物とか邪教崇拝とか、世間に表立ったら、新聞記者が大喜びして、バラバラに食いちぎられると分かっているから秘密にするのです。

「場所は大学地区そばの水域です。ギフトレスさん。あなたにサルベージをお願いしたいのですが」

 確かに自警団をかわすために潜水に専念すると言いました。しかし、もっと怪しくなく、もっと安全なサルベージ・ポイントは少なからずありますし、なんならスピアー・フィッシングに従事してもいいのです。お金にも困っていません。持ち込まれた依頼を蹴るという贅沢も許されます。たとえ、五千ドルもらえると言われても、お断りします。

 わたしが首を横にふろうとすると、イルミニウスはレコードを一枚、銃砲店の老人から受け取りました。

「これも預けておいたものです。ギフトレスさん。パワー・オブ・ストッピング教会の信徒に録音業務に従事している方がいます。これはその録音スタジオ以外のどこにも一度も演奏されていない、ボビー・ハケット作曲の完全オリジナルが――」

 わたしはボビー・ハケットと握手するのと同じくらいうやうやしく、その地図を受け取りました。

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