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ああ、エレンハイム嬢、そんな目で見ないでください。これ以上、居候は増やしたくないのです。
もちろん、わたしはこのエレンハイム嬢の視線をかわしきれるとは思っていませんし、いずれ白旗を上げることになると思っていました。
だから、フィリックスが「すまない。一緒には住めない」と言ったときは、心のなかで拍手喝采でした。
「どうして?」
「お前が大好きだからだ。わたしはまだ不安定だ。父さんと母さんを死なせたときのようなことを二度と繰り返したくない」
「兄さま……」
どっかーん!
「ひゃははは! 見たか、ロレンゾ! 三本いっぺんにいったぜ!」
「ジーノ、少し静かに」
では、気を取り直して。
「でも、わたしはいつもこの海にいる。会いに来てくれるか?」
エレンハイム嬢はこくんとうなずきました。
「きっと、――きっと行くよ、兄さま」
フィリックスがエレンハイム嬢をそっと抱きしめます。
それを見て、ジッキンゲン卿が男泣きしています。
「見よ、カムイ。美しくも切なき兄妹の愛。我輩は大いに感動した!」
「よく分かんないけど、仲がいいのはいいことだ!」
どっかーん!
「ひゃっはー!」
「ジーノ!」
賑やかなのは苦手です。誰か助けてください。
ヘンリー・ギフトレスと遍歴の騎士 end




