表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘンリー・ギフトレスと沈みゆく市街  作者: 実茂 譲
ヘンリー・ギフトレスと色彩の女神
41/111

41

 あれだけの出来事があったのに、まだやることがあります。

 ミカ嬢の救出です。エレンハイム嬢は薬が効きすぎていて、まだ目を覚まさなかったので、潜水ができるロレンゾが一緒についてきてくれました。ロレンゾにとって、ミカ嬢はカプタロウの親に当たる人物なので、彼女の救出には乗り気であり、義務とも思っているようです。電気ランプを頼りにカール・グスタフ劇場へ潜り、彼女の棲み処となっているホールに行きましたが、ホールにはカプタロウたちの兄弟たちが幕の陰で不安げにしていて、ミカ嬢は見つかりません。潜水士はひとりが見つかりました。背中から三発も撃たれています。派遣された潜水士のひとりが裏切ったのでしょう。ミカ嬢の換金価値を考えるとあり得ることです。潜水士のなかに、そういう道徳とか尊敬とかいうものを忘れたものがいることは悲劇ですが、さらなる悲劇が起こる前にミカ嬢を救出しなければいけません。

 もう日は落ちています。水から上がり、三角巾をつけたジーノの操縦でボートを旧市街の桟橋へと戻し、作戦を練るべく、どこかの料理屋へ行こうということになったのですが、そこへ四人の警官を乗せた自動車がやってきました。ジーノとロレンゾは手をあげました。警官たちに自分たちを撃ち殺す口実を易々と与えないためです。しかし、警官たちは別件逮捕とか逃亡禁止法のために来たわけではないようです。後部座席に乗っている若い刑事がわたしを手招きします。警官になるにしては顔立ちが整っていて、ひどく冷たい印象を受けます。

「ルシオ警部は死にました。新しい警部はわたしです」新しい警部――ベネディクト警部が言いました。「わたしの方針は簡単です。金にならない捜査はしません。売春婦とその従弟が死んだ事件はわたしにとってはどうでもいいのです。そこがルシオ警部とわたしの違いです。この事件はフランク・アンシュターが起こしたものであり、ルシオ警部は英雄として葬られる。それ以外のことはわたしにとっては些末なことです」

 警部は封筒を渡してきました。

「真実に近づきたいのなら、どうぞ」

 警察自動車が去っていき、ジーノは新しい警部について、いけ好かねえキザ野郎だがドルを拒まないくらいには話が分かるらしい、といかにも犯罪者らしい観点から評価しています。わたしは木工品店の軒先にぶら下がっている灯油ランプのそばで封筒を切り、中身を読みました。

 それはサム・ウェストブルックの前科の記録、その謄写版です。いかがわしい写真を販売目的で持っていたことで逮捕されていて、不起訴。口頭での厳重注意。賄賂を払ったのでしょう。逮捕時の写真はあの不埒なフィルムで見た顔と同じです。ベネディクト警部のものでしょうか、ウェストブルックの住所に赤いインクでアンダーラインがひかれています。

 工場地区、ペンバートン通り三十三番地。

 これは美人局被害者で何もかも奥さんにむしり取られた歌手のスマッツ・カーター氏の住所……の隣の住所、あの映画館です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ