表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘンリー・ギフトレスと沈みゆく市街  作者: 実茂 譲
ヘンリー・ギフトレスとペンドラゴンの財宝
111/111

111

「それで、彼は動作停止したんですか?」

 え、なに? わたしは『今日のおすすめはニシンのケッパー!』と書いてある黒板に、もう一度言ってほしいと書きました。ボビー・ハケットの『リラクシン・アット・ザ・トゥーロ』を聴くのに忙しかったからです。マグシー・スパニアの十八番ですが、それをボビー・ハケットが演奏していたとは知りませんでした。

 イルミニウスがにこりと笑います。

「ですから、フィリップ・ペンドラゴンのお孫さんは銃を失って、死んでしまったのですか?」

 ああ、そのことですか。死んでいません。本人としては死ぬだろうと思っていたのですが、死にませんでした。彼は自分のことをビロードで内張した空っぽの箱と呼んでいました。

「偽のペンドラゴンM1000はどうなったんですか?」

 動作が停止しました。アイアトン氏がペーパーロールをハサミで切ったのです。

「それは惜しいことをしました」

 タチアナ女史は壊してまた作る無駄な行為を反革命サボタージュと呼んでいましたよ。あの後、わたしの違法な同居人たちはフィリップ・ペンドラゴン氏が作った研究所の半分を吹き飛ばしました。狂ったマン・ガンたちは偽のペンドラゴンM1000が動作を停止すると、同じく停止して、いま、あの海底研究所は大人しい、初期実験体たちがひっそり暮らしています。

「しかし、本当に素晴らしいですね。うっとりします」

 そう言いながら、ペンドラゴンM1000をホルスターから抜き出しました。

 銃身の長いリヴォルヴァーですが、回転弾倉が脈打つ鋼色の心臓でできています。

「このM60時代の滑らかで堅牢なフレーム、ぴたりと手に吸いつくような研磨加工のクルミのグリップ。点火様式は雷管式で、シングル・アクション機構。でも、このコは弾をばら撒くタイプの銃ではありません。分かりますよね?」

 分かりませんが、とりあえずうなずいておきます。

「そして、この弾倉。いったい誰の心臓なんでしょうね」

 アイアトン氏だと思いますが、まあ、コメントしないでおきましょう。

「ペンドラゴン・ファイヤーアームズ、最後の一丁。この銃が何を撃つためにつくられたか、ご存じですか?」

 知りません。

「これはですね」そこで、ふふっ、と微笑んで、「これは天使を撃つための銃なんですよ」


         ヘンリー・ギフトレスとペンドラゴンの財宝 end

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うぐうー綺麗に決まりましたねまたも。手品のトリックか白鳥の足芸か、どっちにしても鮮やかです。能書きを裏切らない規模、と、濃厚な世界観が胃にもたれないストーリー、と主人公面白い。欲望にまっしぐらだったり…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ