111
「それで、彼は動作停止したんですか?」
え、なに? わたしは『今日のおすすめはニシンのケッパー!』と書いてある黒板に、もう一度言ってほしいと書きました。ボビー・ハケットの『リラクシン・アット・ザ・トゥーロ』を聴くのに忙しかったからです。マグシー・スパニアの十八番ですが、それをボビー・ハケットが演奏していたとは知りませんでした。
イルミニウスがにこりと笑います。
「ですから、フィリップ・ペンドラゴンのお孫さんは銃を失って、死んでしまったのですか?」
ああ、そのことですか。死んでいません。本人としては死ぬだろうと思っていたのですが、死にませんでした。彼は自分のことをビロードで内張した空っぽの箱と呼んでいました。
「偽のペンドラゴンM1000はどうなったんですか?」
動作が停止しました。アイアトン氏がペーパーロールをハサミで切ったのです。
「それは惜しいことをしました」
タチアナ女史は壊してまた作る無駄な行為を反革命サボタージュと呼んでいましたよ。あの後、わたしの違法な同居人たちはフィリップ・ペンドラゴン氏が作った研究所の半分を吹き飛ばしました。狂ったマン・ガンたちは偽のペンドラゴンM1000が動作を停止すると、同じく停止して、いま、あの海底研究所は大人しい、初期実験体たちがひっそり暮らしています。
「しかし、本当に素晴らしいですね。うっとりします」
そう言いながら、ペンドラゴンM1000をホルスターから抜き出しました。
銃身の長いリヴォルヴァーですが、回転弾倉が脈打つ鋼色の心臓でできています。
「このM60時代の滑らかで堅牢なフレーム、ぴたりと手に吸いつくような研磨加工のクルミのグリップ。点火様式は雷管式で、シングル・アクション機構。でも、このコは弾をばら撒くタイプの銃ではありません。分かりますよね?」
分かりませんが、とりあえずうなずいておきます。
「そして、この弾倉。いったい誰の心臓なんでしょうね」
アイアトン氏だと思いますが、まあ、コメントしないでおきましょう。
「ペンドラゴン・ファイヤーアームズ、最後の一丁。この銃が何を撃つためにつくられたか、ご存じですか?」
知りません。
「これはですね」そこで、ふふっ、と微笑んで、「これは天使を撃つための銃なんですよ」
ヘンリー・ギフトレスとペンドラゴンの財宝 end




