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「閣下が退却を命じぬ限り」登場人物分類・Twitterまとめ  作者: 剣崎月
小話

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双頭の鷲、お手紙出した・5

「お早う」

「お早うございます、イヴお嬢さま」


――もうお嬢さまという年齢ではないし、結婚してるし……でも”イヴさま”もなんか変だし、妃殿下とか呼ばれたら全力ダッシュしたくなるから、イヴお嬢さまでいいかー


「朝食なに? マリエッタ」

「朝食は、イヴお嬢さまが好きな――」


 クローヴィス家で楽しい朝食が始まる頃、


【おはようございます! 陛下】


 神聖皇帝コンスタンティンの部屋に、新聞片手に男が一人乗り込んできた。


【ん……ああ、アウグストか】


 眠い目を擦りながら閉じていた天幕を開き、覗いた先にいたのは、フォルクヴァルツ選帝侯アウグスト。


【朝食をお持ちしましたよ。さあ、食べてください】


 アウグストの号令で従僕たちが室内に入り、コンスタンティンのベッドに朝食を並べ、アウグストは部屋に運び込ませた椅子に足を組んで座り、同じく運び込んだテーブルに朝食を並べさせた。


【まだ、早いが……】


 皇帝が起きるのには、かなり早い時間だったが、


【四十五分後には、アントンが起床します】

【そうか。ならば起床せねば】


 双頭の鷲よりも遅く起きるわけにはいかないので、コンスタンティンはすぐに体をしっかりと起こし、並べられた食事と向かい合った。


 晩餐の時と同じで、決まりがある。

 この邸でもっとも遅くに起床するのはリリエンタールであり、それ以外の者たちは、リリエンタールよりも早くに起床しなくてはならない――使用人が主人よりも遅く起きてはいけないのと、同じことである。


 この邸の法はリリエンタールであり、時間もリリエンタールが基準。


【アントンにカードゲームで惨敗したそうで】

【勝てるわけなかろう】

【まあ、無理ですな! わたしでも勝てないのですから、皆さまが勝てる筈がありません。よく頑張られたかと】

【そうだな……ところで、アウグストよ】

【なんですか? 下手なことを先に聞いたら、飛びますよ】

【聞かないでおく】


 なぜ出頭命令が下ったのかについて聞きたかったコンスタンティンだが、そう(・・)言われて諦めた。


【それが宜しいでしょう】

【グレゴールがおかしいことをしないよう、見張ってくれないか。それと、なにかしでかしたら、フォローに協力して欲しい】

【了承しました】


 こんなやり取りをし――アウグストは持ち込んだロスカネフ王国の新聞の「中古品希望」欄をアディフィン語にして読み上げた。もちろんコンスタンティンには、なんの関係もない。


 まったくの余談だが、コンスタンティンは兄姉の中ではもっとも偉いので、もっとも遅く起こされた。

 他の兄たちは下からリリエンタールの起床二時間半前、二時間前……と、随分前に起こされていた。この辺りも身分と階級と称号が深く関わってくる。


 ちなみに女性たちは一斉に、一時間半前に起こされている。彼女たちの場合は、本日の謁見で正装するので、男性たちよりも時間がかかる為だ。


 リリエンタールの兄姉たちがベッドの上で朝食を取り、式典のために正装を――女性たちはローブ・モンタントを、男性たちは軍礼服をまとう。女性たちの正装は言うまでもないが、男性たちの正装も大がかりで大変。

 なにせリリエンタールの親族なので、全員軍の要職に就いており、それらを表す階級章の他、手柄はなくとも家柄と就任年数によって与えられる名誉勲章は、もれなく所持しているので、それらも着けなくてはならない。

 国王の座に就いている者たちは、総軍の総帥としての正装をしなくてはならないので、とにかく重い。


〔重いな〕


 国王の正装は重く、それらの重みを着用して人と会うのが仕事だと分かっているルシタニア国王だが――いつもは重いだけなので耐えられるが、今日はそこに極度の緊張が加わっているので、いつもの倍は重く感じられた。


軽装しか着られない者(ベッケンバウアー)よりかはマシかと〕


 着衣を整えている、気心が知れた侍従長が言う通りでもあった。


〔それは、そうだ。それにしても、ベッケンバウアーはどのような恰好で双頭の鷲の御前に(まみ)えるつもりなのだろう?〕


 リリエンタールに謁見するのだから、正装ではなくてはならないのだが、いまのベッケンバウアーは国王でもなければ、軍の総帥でもない。

 一貴族の恰好でリリエンタールに謁見することになるのだが、


――階級章やマント、大綬がなければ、心許ないよなあ


 国王の地位を失い、それらを身につけることができない状態でリリエンタールに会うということを考えると、ルシタニア国王は震える。


〔一貴族としての正装のようです〕

〔そうか〕


 余談だがグレゴールは「聖王直轄騎士団団長」という歴史ある名誉職についているので、それは立派な恰好で謁見にのぞむことができる。


 実際に聖王領を守っているのは、言う必要もないがリリエンタール直属の優秀な部下である。


 こうして全員が正装を整え、謁見の間へ――謁見の間は元ヒルシュフェルト邸。攻略対象アルバンタインの実家で、マチュヒナと繋がりがあったため、テサジーク侯爵たちにより、緩やかに、だが速やかに排除され、その邸をリリエンタールが買い取り、邸を改造して、謁見の間にした。


 もともとは人が住んでいた邸だが、それらの機能を排除し、謁見の間に作り替えた。旧オレクサンドル邸にて宿泊し、ヒルシュフェルト邸まで馬車で移動する状態だが、皇族の彼らにとっては、正装しての移動は慣れたものなので、なんら問題はなかった。


 そして全員が謁見の間に並び、


――双頭の鷲は軍礼服がお似合いだ


 膝をついて頭を下げているベッケンバウアーを夫婦で挟むようにして立っているルシタニア国王は、玉座に腰を降ろしたリリエンタールをちらりと見た感想だった。


 そんなルシタニア国王の視線など気にすることなく、つまらなさそうに(実際つまらなくて仕方ないのだが)、玉座の側に控えている元アブスブルゴル帝国の皇太子ヨーゼフが持っているトレイに乗せられていた新聞を手に取り、ベッケンバウアーへと投げつけた。


――さすが完璧な天才、ぴったりとベッケンバウアーの前で止まった。練習しても、わたしにはできないな。する気もないが……あれが許されるのは、双頭の鷲だけだ


 ルシタニア国王の目の前で起こったのは、彼が心中で語った通り。投げつけられた新聞は、ベッケンバウアーの膝の前で止まっていた。


 そしてリリエンタールが手を上げると、ヨーゼフ元皇太子の反対側に立っていたアイヒベルク伯爵が一歩前へと進み出て、暗唱していた新聞の内容を大きな声で聞きやすい喋り方で語った。

 アイヒベルク伯爵は役目を果たすと一歩下がり、


<現状報告と、このような記事を書かれぬようにするための対策を述べよ、コンラート。>


 リリエンタールが口を開いた。


――なぜ? 双頭の鷲が?


 ルシタニア国王はリリエンタールがベッケンバウアーに直接尋ねたことに驚いた。なにせリリエンタールは、直答を許さなければ、自ら尋ねるようなことはほとんどしない。相手が王であろうとも――王の地位を失った一貴族に対して、わざわざ直接話し掛けるなどあり得なかった。


<…………>

<少々時間をやろう。朕がコンラートに直接尋ねたのは――>


 いきなりの質問に答えられないベッケンバウアーを放置し、リリエンタールは何故自分が直接話し掛けたのかについて語った。

 その理由は、ベッケンバウアーの思い込み――ヴィルヘルムがルース皇帝になるリリエンタールと手を結び、自分を王位から追い落とそうとしていると思い込み、ルース帝国の混乱に対して沈黙を貫き、リリエンタールの即位を邪魔したこと。


――そんな気はしていたが、していたが……双頭の鷲が仰る通り、辺境軍人王(ヴィルヘルム)は自力で王位は取れただろうし、双頭の鷲が協力をすることなどないだろうに


 話を聞いたルシタニア国王もルース帝国滅亡に関して「なんとなくそうではないか?」とは思っていたので、それに関して驚きはしなかった。


<コンラート、お前のような思い込みの激しい男は、間に人を挟めばまた疑心を持つであろう。だから朕が直々に話してやった。さて時間は充分に与えた、答えろコンラート>


――王位を奪われると思っての行動か……ベッケンバウアーは、相当に愚かなのだな


 だが同時に「なんの意味があったのだ?」と思いながら、ベッケンバウアーを挟んではす向かいに立っている、マルガレータの姿に視線を向けた。


――さすがアントーニアの姉、表情一つ動かさない


 元アディフィン国王コンラート二世ことベッケンバウアーは、アンディルファードの血統ではない。

 アンディルファード家の血筋のマルガレータが、アディフィン名門貴族から夫を迎え、その間に生まれた嫡男が跡を継ぐことになった。

 マルガレータの血筋が必要なのだから、他国の王子との結婚でも問題はない。

 マルガレータは王子と婚姻を結べる血筋だが、それが元で王位継承戦争が複雑になることや内政干渉を避ける意味で、アディフィン国内貴族が選ばれたのだ。


――マルガレータの弟にあたる王子たちが、即位するほうが可能性として高かっただろう……そちらに位を移していたほうが、良かったのかもな


 ベッケンバウアーの即位は、アディフィン王国を継げる健康で成人を迎えた男児がいなかったからの措置であり、その後ゲオルグと妃の間に男児が生まれ、無事に成長した際にはベッケンバウアーを降ろして、ゲオルグの息子に継がせてはどうだろう? そんな流れになったことは、何度もあった。


 ベッケンバウアーの王位は安泰とはほど遠かった。だからこそ、彼の王位を脅かしかねないヴィルヘルムに対して疑念をいだいた。

 だがそれは、ヴィルヘルムよりも玉座に近い男たちから目を背けたいという希望が、大量に含まれていた。


 そしてベッケンバウアーの感情は、ルシタニア王国コインブラ朝九代目当主(国王)という伝統を受け継いだ王には分からないことでもあった。



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