双頭の鷲、お手紙出した・2
リヒャルト・フォン・リリエンタールが親族をロスカネフ王国に呼んだ――
「ロスカネフ王国に、これ程の王族が集ったこと過去にあったか?」
「ないよ」
リリエンタールの兄姉なので、当然全員王族――約一名、とある「しでかし」により、各所の王位継承権を剥奪されている兄とその妻もいる。それらに関してリリエンタールはちょっと思う所……というか、不快に思うことはあるが、一瞬で黙らせあとは恐怖を敷いて大人しくさせている。
ケッセルリング公爵ですら、王位継承権剥奪を免れているというのに、何をしたのか? ……についてだが、それはまた別の機会に。
「警備はあの人が”する必要などない”と仰ったのだが」
「要らないって言ってるから、要らないんだと思うよ。以前なら”死んでも構わぬ”だけど、今は皇妃がいるから、ロスカネフ王国内で危険な目に遭わないように、してくれるはず」
リリエンタールの姉は全員王(元を含む)に嫁いでいるので、姉と共に配偶者を呼ぶと王がついてくる。
兄に国王は一人しかいないが、枢機卿が二人に、滅亡したアブスブルゴル帝国を再度興すために、玉座に座ってもらおうか……など、座れる玉座は数多くある。
単にリリエンタールが座る許可を出していないだけで――
「あの人が言いたいことは分かる。わたしたちロスカネフ軍が警備を担当して、何かあったら、わたしたちが責任を取らなくてはならなくなるから、触らずとも良い……ということなのは分かる」
各国の王が集うとなると、警備をする必要がある。
だがリリエンタールはキースに「要らぬ」と通達した。
「そういう事だよね」
「王族がお越しになっているのにも関わらず、軍が完全無視するのは、国として許容できん」
「そうだよね」
「これが身分を隠して、秘密理にというのであれば、こちらも見なかったことにできるが、誰一人として、砂一粒ほども隠れてないだろうが!」
リリエンタールの兄姉は、正体を一切隠さずに訪れる。
「そこはもう、皇統宗主の一族だもん。宗主直々に、それも正式に出頭命令出されたら、身分を隠して訪れるなんてこと、するはずないし。そんなことしたら、殺されちゃうかもしれないし」
「せめて、どこか警備させろ」
キースもリリエンタールが敷いた警備のほうが完璧なのは分かっているが、だからといって完全に責任を手放せる性格でもない。
「律儀なことだ。そして我が一族は、本当に面倒だ」
「キースの気持ちはくんでやりなさいよ」
「分かった」
結局ロスカネフ王国軍は、実家に帰っているイヴを警備することになった。
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リリエンタールは兄姉たちの移動に、自分の船や蒸気機関車を使用した。
豪奢なそれらは、兄姉たちを感動させる……前に緊張させたが、
「あんなのと乗り合わせたら、無辜の民どころか、凶悪犯罪者であろうとも可哀想であろう」
かといって一般の一等客室などを手配して乗せたら、他の乗客もだが、一般的な車掌他乗組員たちが大変だろうということで、自身の配下の者だけで連れて来ることにした。
「同意する」
「それはそうと、一緒に晩餐の席につかぬか? シャルル」
「嫌だよ。兄弟姉妹、水入らずで仲良く過ごせよ」
「わたしとしては、最大限優しくしてやっているつもりだが。どうも、あいつ等には伝わらぬようだ。セリョージニカと同じようなものだな」
「…………(なんだろう。ヤンヴァリョフのほうが可哀想に思えてくる。アントワーヌの兄姉と一緒にされると)」
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リリエンタールはイヴを喜ばせる為だけに兄姉たちを呼びつけたので、当然配慮など微塵もない。
船で借り上げた旧フォルズベーグ王国の港に着いた彼らは、リリエンタールが用意した特別編成の列車に乗り、一度の下車すら許さずに、ロスカネフ王国の首都へ――補足説明をしておくと、旧フォルズベーグ王国は、今だに治安が悪く、現国王が接触を計る可能性もあるので、安全を最優先に考えて、下車させなかった……ということになっている。
彼らの旅程の全てを担当しているのは、アイヒベルク伯爵なので、何ごとも起こりはしないし、どのような状況でも対処できるのだが。
そんなアイヒベルク伯爵だが、彼は他の庶子たちの為に決死の覚悟でリリエンタールに「ご寛恕」を願った。
それというのも「イヴが」、愛人の子たちのことも、少しばかり気にしており、また公妾の子の仕組み(妾の夫の子として育つ)を知り「閣下のご兄姉、大勢なんですね」と――「イヴが」それをリリエンタールの兄姉と見なしているのであれば、兄姉として扱うことに一切の躊躇いなどない……ということで、当初リリエンタールは前妻の子の兄姉の他に、公妾の子と庶子の全員を呼び、一堂に介して晩餐をさせるつもりだった。
リリエンタールにとって、イヴ以外は等しく無価値で平等なので、彼らがどんな感情をいだくかや、どんな目に遭うかなどは、どうでもよかった。
【……というわけだ。全員呼べ】
リリエンタールがそういう人間だということは、よく理解しているアイヒベルク伯爵は、
【何卒ご寛恕の程を】
それでも「辞めて欲しいです」と訴え、事情を説明して、
【あれたちに、それほどの権力などないが】
皆での正餐を回避することに成功した。
アイヒベルク伯爵はこの功績を誰かに誇ることはない。なぜなら、彼自身が「いや、確かに父親は同じですが……同じなのですが……あの……」心の底から拒否し、それを行動に移しただけだけだからだ。
ちなみに兄姉の権力に関してだが、リリエンタールから見れば兄姉の権力など無だが、世間一般からすると相当な権力者であることは、言うまでもない。
そして公妾の子たちはというと、
【何卒ご寛恕の程を。我々のような貴族如きが、皇統宗主一族の正餐に並ぶなどもってのほか。そのお気持ちだけで、身も心も潰れんばかりの栄誉。それ以上の栄誉を求むなど、人臣にあるまじきことにございます!】
まだロスカネフ王国にいた、斜め四十五度の男が頑張った。
そして斜め四十五度の男は、アイヒベルク伯爵ほどの才能がないことを自覚しているため「次があったら、止められないかもしれない。全員に事情を周知し、良い案がないかを集めよう」ということで、血はつながっているが赤の他人へ手紙を送った。
彼らから、今回の一件に関して感謝の言葉は届いたが「あ、策とかないよ。双頭の鷲相手に策とか、あるわけないだろう。次にそうなったら、その時は全員集まって、ご寛恕願おうぜ!」と――公妾の子たちの結束が、微妙に強まった。
【一度で全員を集めたほうが、わたしとしては簡単に済んで良かったのだがな】
【わたしもそう思うが、リーンハルトがそう言うのだから、従ったほうがいいだろう】
ちなみにフォルクヴァルツ選帝侯は、リリエンタールの意見に同意だった――彼が同意している時点で、酷いことだというのは言うまでもない。
こうして誰に襲撃されることもなく、無事にロスカネフ王国に到着したリリエンタールの兄姉たちは、到着した当日に晩餐にのぞむことになる。
「一日も間を置かないのか……さすがに……」
タイムスケジュールを貰ったキースは、年長者は自分の親くらいの年代の者に対しての、あまりの強行軍ぶりにそう漏らした。




