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「閣下が退却を命じぬ限り」登場人物分類・Twitterまとめ  作者: 剣崎月
小話

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斜め四十五度の男、ロスカネフ王国に召喚される

 通称、斜め四十五度の男、または小ゲオルグ。

 彼はリリエンタールの父ゲオルグと血は繋がっているが、息子ではない――

 彼の母親はゲオルグの五番目の公妾だった。

 公妾は愛人よりも立場は上。普通は気に入った愛人がその座に就く。公妾となれば公式の場にパートナーとして伴われる。

 その為、公妾は貴族であることが最低条件。

 そして公妾と愛人のもっとも違うところは、公妾は既婚者でなくてはならない。

 愛人ならば独身でもいいのだが、公妾は既婚が必須。

 公妾の結婚相手は、公妾を持つ側が決め――公妾との間に生まれた子どもは、私生児や庶子ではなく、公妾と夫との間の正嫡の身分を得ることができる。


 この時代、既婚と未婚、正嫡と庶子は比較できないほどの差があった。


 ゲオルグは生涯六人の公妾を持ったが、彼女たちのことを他の愛人よりも気に入っていた……ということはなかった。

 ゲオルグは正妃の産前産後の休息を与えるために、公妾を雇っていた。

 「雇用」なので、完璧に仕事をこなすことができる、優秀な女性ばかり。


 斜め四十五度の男の母親は六番目の公妾にその地位を奪われ――その後、その事実に耐えきれずに狂死した。

 ゲオルグのことを愛していたのではなく、公妾を奪われたことが屈辱だったのだ。


 生母とは会うことなく、父と暮らしていた斜め四十五度の男。生母が狂死した時、彼は二歳だった――なので母親のことは全く覚えていない。

 正式だが血のつながっていない父親は侯爵家の六男で、家督は継げず、実家は従属爵位も持っていなかった。

 落ちぶれ侯爵――名門とはほど遠く、また爵位を買う金も持っていない家だった。だから、ゲオルグに公妾の夫として選ばれ、公妾となる妻のために「伯爵」の地位を与えられた。


 野心もなければ才能もなく、斜め四十五度の男とは、少し年の離れた兄弟と言ったほうが適切な年の差の父親は、それでも斜め四十五度の男を息子として大切に育ててくれた。


 斜め四十五度の男の本当の父親ゲオルグは、自分の子どもを放置するような男ではないので、彼らは神聖帝国首都の高級アパートメントの一室を与えられ、公妾の夫として与えた爵位に見合った年金が支払われている為、生活で困ることはなかった。

 こうしていたって慎ましい生活を送っていた父子は、ある日カフェで昼食を取っていた際、ゲオルグのことを知っている貴族が側に座り――


【顔は全く似ていないが、斜め四十五度から見るとバイエラント大公にそっくりだ! もしかして君は、バイエラント大公の?】


 斜め四十五度の男と父親は顔を見合わせ、父親が爵位を名乗り、妻が五番目の公妾だったことを告げると、貴族は納得したと頷く。

 二人はゲオルグに会ったことがなかった。そしてこの話は、カフェだけで終わると思ったのだが、声を掛けてきた貴族が仲間内に話し、それがゲオルグの父親リヒャルト六世の耳に入った。


 もっともお気に入りの息子ゲオルグに瓜二つと聞き、リヒャルト六世は会うことを希望し父子は宮殿へと向かった。


【…………おお! 不思議だ! 顔は造作は全く違うのに、これ程までに斜め四十五度から見た顔が似ているとは】


――そんなに似てるんだ


 皇帝と皇后の喜び振りに、斜め四十五度の男は会ったことのない、血統上の父親について思いを馳せた。

 「ついで」だが、祖父のリヒャルト六世とも比較したが、一片も似ていなかった。

 父子は神聖帝国皇帝夫妻とお茶をし、


【宮殿凄かったねえ】

【うん。ちなみに父さんの実家って】

【ぼっそぼそのがったがた。さあ、サンドイッチを買って、帰ろうか】

【ぼっそぼそのがったがた……そうだねえ、父さん】 


 解放され――二人が住んでいる高級アパートメントは宮殿に程近かったので、送りは断り歩きで帰途についた。

 この一回で終わるとばかり思っていたのだが、


【なんで?】

【よほどお気に召したのだろうな、斜め四十五度が】


 再び呼ばれ父親と共に宮殿へと向かい、


【たしかに父上に似ているな】

【似ていますね】


 皇太子コンスタンティンと司教のベネディクトに、興味津々に斜め後から見つめられ、感心された。


――そんなに似ているのか


【見いだした者に褒美を与えなければいけませんね】


 皇太子が言い、


【お前に任せる。良きに計らえ】


 皇帝がそう言った。


――こんなんで、褒美貰えるの?


 斜め四十五度の男は、心底驚くが、もちろん何も言わなかった。


【そういえば、これと年の近い孫(リリエンタール)は、パーヴェルにそっくりだそうだな】

【そのようですね】


 会話を聞きながら父子は顔を見合わせた――会話の内容がよく分からなかったのだ。


 そして顔を見せただけの斜め四十五度と、その付き添いの父にも褒美が与えられることになり、父親は神聖帝国皇室(クレヴィルツ家)の別荘を一つ貰い、


【軍人かあ】


 斜め四十五度の男は、神聖帝国皇帝の従卒に任じられた。


 従卒といっても、これといって才覚が優れているわけでもない、年若い斜め四十五度の男――皇帝の視界に入る時は、斜め四十五度に見えるように立って皇帝夫妻を楽しませた。


――楽しめるんだ


 そんな日々を過ごしていると、神聖帝国へとやってきた血縁上の父親ゲオルグとも会って、


【わたしは、斜め四十五度から見ると、このように見えるのか】


 楽しんだようで、斜め四十五度の男は神聖帝国国軍少尉の地位を与えられた。


――なんで?


 公妾の息子としては破格の待遇で、血縁上の祖父や父親から地位を貰ったのは、斜め四十五度の男だけ。

 他の公妾の子たちが羨んだりしなかったか? についてだが斜め四十五度の男は公妾の息子としては末子だったこともあり「ゲオルグの血を引いた公妾の子たち」も、年の離れた少年に嫉妬するようなことはしなかった。


 なにより彼らは表向きは「血のつながっていない他人」なので――


 唯一、斜め四十五度の男に嫉妬したのは、六番目の公妾の息子。

 彼は公妾と正式な夫の間に生まれた子――普通の夫婦の子なのだが、彼だけは優遇されている同い年の斜め四十五度の男に対して、不満を懐いていた。


 六番目の公妾の息子は優秀だった。だが何処にでもいるごく普通の優秀さだったため、重用されることはなかった。


 血筋での優遇を理解しつつ勉学に勤しむが、これといった才能なく、自分の凡庸さをひしひしと感じながらも、斜め四十五度の男は、父親と良い人生を過ごしていた。


 神聖帝国帝室の覚えがよかった斜め四十五度の男は、死期が近づいたゲオルグの元へ――呼ばれたわけではないのだが、ゲオルグの実子の神聖帝国皇太子に伴われてバイエラント大公国の城へと向かった。


 流石に枕元にまで呼ばれることはない……はずだったのだが、


――ちょっとお待ちくださいぃぃぃ


【へえー。似てるな】

【似てるな。なあ、似てるよな、アントン】

【……そうだな】


 寝室にいた部外者――アウグストとヴィルヘルムがゲオルグを起こして、斜め四十五度の男と見比べるという行動に出た。

 弱っている老人になにを? と思った斜め四十五度の男だが、ゲオルグは特に気にしていないようで、


【ベネディクトよりも残忍で、アルベルトよりも狡猾だな】


 彼らをそう(・・)評した――そして、


【お前は天才だな、アントン】

【それで?】


 冷たい口調に斜め四十五度の男は背筋が凍った。


【話がある。その前に……】


 ゲオルグは斜め四十五度の男を見てから下がるよう命じ――そして亡くなった。

 その後、宗主の座をリリエンタールが継ぐことになり、多少のいざこざが起こったが、斜め四十五度の男には全く関係のないこと。

 葬儀に参列し、皇太子とともに神聖帝国へと戻った。そして神聖帝国皇帝も亡くなり――何故か新皇帝の治世でも従卒のまま置かれ続け、軍の階級も上がり、


【バイエラントからの命だ】


――何故ですか? 陛下?


 連合軍対共産連邦の戦いの際、副官として招集がかかった。この時、斜め四十五度の階級は中佐。もちろん、なにもしていない。なにもなし得ていない。特筆するところはなにもない。

 だが「威張らない」「権力を行使しない」「何も求めない」……要するに「無害」という最大の長所により、たまに会議で名が挙がった際に、階級を上げてもいいだろうとなりを繰り返し、いつの間にか中佐になっていた。


【名指し……でございますか】

【そうだ】


 斜め四十五度の男がリリエンタールに会ったのは、あの死の床についているゲオルグを(大親友Wが)起こして「似ている!」と(大親友Aが)はしゃいでいた時のみ。


――俺の名前、知ってたんだ。同じ名前だからか?


 そんな疑問はあるが、招集に応じないという選択肢はないので――父親に「行ってくる」と告げ、到着した先にあったのは、


<*******!!!!>

「うるせえ!」

『そのようなことも、おありかと』

【ひゃっはー!】

[神は仰いました]

ぼこっ!

<******! いてえ!>

「口もきけないほど、殴ってやろうか」

[神を信じぬものを屠るのは久しぶりだ]

【毒ガス攻撃しちゃう? 毒ガス攻撃する?】

<なに言ってるか分からねえが、殴り殺してやる>

「上等だ!」

「まあまあ落ち着いて、アーダルベルト君」

<テメエ、誰だ!>


 怖ろしくまとまりのない、ガチの軍人集団だった――約一名軍人ではない人間も混じっているが、斜め四十五度の男には見分けがつかなかったが、仕方のないこと。


――場違い感がすごい!


 間違っても斜め四十五度から見たら似ているのが面白いと地位を与えられ、性格的に無害そう(人格者という評価ではない)だから、階級上げてもいいかー、父親も無害(人格者という評価ではない)だしなーで、中佐になった人間が来ていい場所ではなかったが、総司令官が神聖皇帝に名指ししたのだから、来る以外の道はなかった。


【ほら、シャルル。あれが斜め四十五度だ】

<え、あれ? この角度?>

【多分ここ】

<いたっ! ぐぎってやるな!>

【この方角だって】

<いたいって! 言ってるだろ!>

【知ってる】

【聞こえてる】


 連合軍の大本営で、斜め四十五度の男が何をしたかというと、斜め四十五度のゲオルグを所望していたシャルルのために、シャルルから視線を逸らして立っていた。


――このために呼ばれ……いや、いいのですが


 もちろんコレ(・・)だけではなく、次々と仕事を振られ――休戦になってからも、


【領地の仕事を片付けたら、また戻ってくるから】

【ご無理をなさらずに】


 自身の国に戻らなければならないカール・ハイドリッヒを見送り、その間、連合軍司令本部を預かり後片付けを行う傍ら、戦死者の遺体回収から故国返還を行い続け、作業終了後に神聖帝国へと戻ったところ、


【なんか知らんけど、准将になってた】

【良かったね】


 神聖帝国帝国軍准将に昇進していた。もちろん従卒にも復帰した。


――いや、おかしいだろ


 とは思うが、皇帝たちが決めた人事に口を挟むことなどできないので、地位をありがたく拝し、続けるよう指示された戦死者の家族からの感謝の手紙を仕分けしつつ、身寄りのない戦死者たちの故国に共同墓地を作ったりと、戦後処理をし続けながら、神聖帝国皇帝に仕えていた。


 この先は何ごともなく人生終わるだろう……と思っていた矢先、またリリエンタールから呼び出され、彼は北の地を目指すことになった。



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