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「閣下が退却を命じぬ限り」登場人物分類・Twitterまとめ  作者: 剣崎月
小話

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貧乏君主、国家終いのために動き出す【02】

【凍死者の見積もりが甘い】


 神聖帝国の高級ホテルの、高級ランクの部屋に泊まり、社交を開始した君主は、金貸しに会った。


 この金貸しは親の代からの知り合い――君主、金貸し両方とも。

 うだつの上がらない邦領君主に金を貸し、その見返りに上流のパーティーに伴ってもらい、そこで人脈を広げ――両者の父親は既に亡く、彼らは金の貸し借りを続けていたが、最近になって金貸しが他の邦領君主の娘と婚約できそうになったので、君主に金を貸さなくなった。

 婚約者になりそうな娘の実家も、君主と似たようなものなので、資金をそちらへ回すため。


 金は貸さなくなったが、金貸しは取り立てるつもりはなかった。いままでどおり、利子を支払ってくれていたら、その支払いが多少滞っても良し――長いつきあいだからというわけではなく、そもそも貴族や君主に金を貸す際、金貸したちは金が返ってくるなど思ってはいない。

 彼らは借金という形で、貴種と繋がりを作り、上流階級への足がかりとする。だから、貸した金を全額返金などされては困るし、そもそもそんな能力がある君主の懐に、中堅クラスの金貸しが飛び込めるはずもない。


 中堅の金貸しと、土地に魅力のない血筋だけの邦領君主……だからこその組み合わせだった。


【甘いか? 通常の三倍を見積もったんだぞ】


 二人とも仲違いしたわけではないので――金貸しは、自分のホテルに君主と執事を招き、滞在費用を持ってくれた。


【甘い、甘い。共産連邦の出方によっては、燃料費が十倍になるぞ】

【…………】


 そして国を終う相談を持ちかけ――金貸しは「それは分からん」と、相談に乗ることを拒否したが、国を終わらせるまで国を維持する相談には乗った。


 国を終わらせるためには、国を維持している必要がある


 ちなみに金貸しとしては、国がなくなっても、君主が名門の当主であることは変わりないので、借金という繋がりを持ったまま、上流階級の集まりに参加できる――実際、いまも君主の供として、上流階級の会合に参加したりしている。


 その二人がいまホテルで話し合っているのは、冬期の燃料について。

 邦領君主の国では、毎年冬場には百から百五十人程度の凍死者が出る――凍死者の数は多くないほうだった。


【いまから石炭の確保に奔走するか?】

【いやいや、買えんだろう。戦争が起こると燃料代が跳ね上がることは、わたしでも知っている】

【薪もな】


 君主はコーヒーを淹れ、二人の前に出してくれた執事を見る。


【伐採許可を出すなら、お早めに。木材は乾燥させなければ、薪になりません】


 君主の国は、かろうじて森が残っている。

 とある貧しい国では燃料が不足し、本来ならば伐採してはいけない森に人々が入り、勝手に伐採して木がほとんどなくなった……ということもある。


【あの森の木を今から急いで薪にか。それでも、例年の三倍は凍死するぞ】

【高額でも石炭を買うべきだろうか】

【協力はできないぞ、君主。俺は軍需に手を出せるような人脈は持ってないからな】


 資金は工面してやることができても、そもそも軍需品として集められたものを、融通してもらう……というのは、金貸しには無理だった。


【分かっている。我が家が軍事方面の人脈がないから……伐採許可を出すのはいいが、間に合うものなのか?】


 森の伐採は君主の許可が必要――君主はいい君主ということもあり、領民は君主の御料の森に勝手に立ち入って、伐採するようなことはしていない。


【どうでしょう】


 執事が首を傾げる――執事は子爵家の四男なので、薪について詳しいわけではない。ただ君主が使う薪を、木樵たちが薪小屋で作っているのを見たことがある程度。実家にいた時も同じ。


【いまから急いで御料の木を切り倒して領民へ行き渡る量の薪を作るとなれば、相当数の領民を動かすことになる。農民を領地から引き離すことになるから、燃料問題が解決したとしても、領民が飢える可能性も出てくるぞ。もちろん食糧は軍需だ。こっちは、少しは融通できるアテはあるが】


 君主と金貸しは、リリエンタールが共産連邦と戦った頃まだ幼かったが、最低限の石炭と食糧の配布があったことは覚えている。


【…………そうだな。聞けば聞く程、十七年前のバイエラント大公の完璧さに戦く。あの年、わが領では一人の凍死者も餓死者も出なかったと父上が仰っていた】


 支配者としての格の違いというものを見せつけられた……と思った人はほとんどいなかった。格が違い過ぎて邦領君主から見ても「あの御方は皇帝という存在」と――


【あの方は別格ですから】


 君主より十歳年上の執事は、よりはっきりと覚えていた。


【今回も新大陸の石炭を放出して下さる……わけないか】

【連合軍の司令官になりたがっている若造がいますからね】


 総司令官になりたがっている若造とは、ノーセロート帝国のエジテージュ二世。彼が司令官になった場合、リリエンタールは一切協力しないと、誰もが思っている――ド・パレの因縁があるので。


【戦争は上手いかもしれないが、統治能力という点では、足元にも及ばないだろうな】

【君主よりはありますけどね】

【そうだなぁ】


 執事と君主がそんなやり取りをし――伐採許可は出さず、今年分の燃料を工面することにした。


 寒さは身を寄せ合えば耐えられる可能性はあるが、飢餓は集まっても耐えられないので、君主は食糧を取った。


【三倍になった防衛費と、輸送費を含めて八倍になる燃料費ですね。もっとも燃料にいたっては、買えるかどうかも分からないんですが】


 金のない国にとって、かつてない負担がのし掛かる。


【異教徒に売るか】


 方針は決まったが、金がない――


【燃料費不足で凍死する領民と、売られて殺される領民の数を考えたら、後者のほうが断然少ないですね】


 そんな話をしていた二人の元に、


【君主、知り合いが大出世したぞ】


 金貸しがマンハイムの男の情報を仕入れて帰ってきた――もちろん、当たり障りのない情報だけである。


【あいつなら、バイエラント大公に仕えることもできるだろうな】


 マンハイムの男の身分ならば、リリエンタールに仕えていても、不思議ではないので、嘘だとは思わなかった。


【そこに話を通せば、資金繰りを考える必要もなく、国を譲渡できるんじゃないか?】

【アーリンゲ将軍に話が通れば、いけるかもな】

【では、会いに行きましょう】


 執事の言葉に同意した君主だったが、すでにマンハイムの男はロスカネフ王国へ――それを知らなくても、リリエンタールがロスカネフ王国入りしたので、マンハイムの男に会うため、居なくても連絡を取るためには、ロスカネフ王国へ行くのが確実だろうと考えたのだが、


【チケットが取れん】


 ロスカネフ王国の隣国は、新国家として樹立したばかりの新生ルース帝国――国内がいまだ安定していないので陸路は嫌われ、みなロスカネフ王国への入国・出国は船便がメインに。

 だがロスカネフ王国行きの船は、そう多くはないので、金貸しもチケットがなかなか取れなかった。


【ちなみにあいつは、どうやってロスカネフ王国へ】

【聞いたところによると、アイヒベルク伯爵閣下が指揮する、武装蒸気機関車でルースって名乗ってる国を通り過ぎたとか】

【それなら、通り抜けられるだろうなあ】


 金のない邦領君主と、金はまあまあ持っているが、様々なところにねじ込めるほどの力のない金貸しと、血筋はほどほど、金は自身が持つ僅かな遺産の執事は、交通手段がなくて困り――情報集めに奔走した。

 そしてここでもクルヴェルラント侯王カール・ハイドリッヒが、ロスカネフ王国の総司令官と親交があると知り、司令官に船便のチケットを融通してもらえないだろうか? 頼むために、彼らは南下することにした。

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