邦領君主の回想と返答・9
中産階級が住む区画の一角にある手入れの行き届いた下宿。
【ここか】
カール・ハイドリッヒは夜会服に着替え、リリエンタールが借りている下宿にヘラクレスの案内でやってきた。
「下宿に住んでいます」とヘラクレスに聞かされた時、なにを言われているのか理解できず ―― 説明を聞いたあとも、あまり理解できなかったが「クローヴィス家の近くにいる」ことだけは分かった。
二人はぎしぎしと音を立てる階段を昇り ―― 外出しようと部屋から出て彼らと鉢合わせした下宿人は、仕立てが庶民のものとは一目で違うと分かる燕尾服姿の二人を見かけると部屋へ即引き返した。
なにをされるわけでもないのだが、とりあえず部屋に引き返したくなるのは、仕方のないこと。
ヘラクレスは衛兵に軽く手を上げて挨拶をしてからドアを開け、
【閣下。侯主をお連れいたしました】
リリエンタールに告げる。
出入り口の扉から室内がほぼ見渡せる室内の中心に置かれた椅子に足を組んで腰を降ろしていたリリエンタールは、頷くだけ。
出迎えるような素振りは一切取らず ―― リリエンタールの身分であればそれも当然のことであり、
【久しぶりだね、オデッサ】
【そうだな。お前も元気そう……太ったか?】
【うん。中年太りだよ。オデッサは全く変わらないな。変わらないといえば、キース卿も全く変わらないね】
【わたしはどうかは知らないが、キースは変わらぬな】
【なんで自分のことが分からないのかな】
【昔の自分に興味がないからだ】
【そうだったね】
カール・ハイドリッヒも気にせず ―― ヘラクレスが部屋の隅から背もたれのない椅子を運び、リリエンタールの向かい側に置く。
リリエンタールが「座れ」と指で指示したので、カール・ハイドリッヒは腰を降ろす。
【オデッサと同じ高さの椅子に座るなんて、校外では初めてだ】
幼年学校時代は机を並べ共に席についていたが、それ以外ではリリエンタールは人々が立つ場所よりも高い位置に用意された椅子に腰を降ろしているのが常。
【ここに入れる者は、弁えているから高座を作る必要もなかろう】
背もたれも肘掛けもない簡素な椅子だが、同じ高さに置かれた椅子に腰を降ろすのは、階級社会においてあり得ないことだった。
【ヴィルヘルムやアウグストが弁えているとは思わないけど】
【あれたちは招いた覚えはない。勝手にやってくるだけだ。ついでにイヴァーノも】
【枢機卿閣下についてわたしは触れられないよ】
【末は教皇だからな】
【ますます触れられない。さて、まずは夜会の招待状ありがとう】
本日行われるブリタニアス女王と教皇を招いた、ロスカネフ国王主催の夜会にカール・ハイドリッヒ夫妻も出席することになっている。
夫妻だけではなく、跡取り息子フランツも ―― 女性はデビュタントで一律に社交界に出るが、男性にはそういった催しはなく、機会を見計らって徐々に社交界に顔を出し慣れていくのが普通だった。
【北の果ての社交界だ。初めてでも気楽だろう】
【猊下にブリタニアス女王、そしてオデッサが出席する夜会を気楽といえるほど、肝が据わった息子じゃないさ】
【お前の息子なのにか?】
リリエンタールは頬杖をつき、昔と変わらずつまらなさそうに言う。
【それはそうさ。だってわたしの息子だ】
【そうか】
ヘラクレスが小さい机を二つ、互いの利き腕側に設置してから、淹れたてのコーヒーを運び机に乗せる。
【そして……今更聞くようなコトじゃないかもしれないけれど、オデッサはイヴ・クローヴィスという女性と結婚するんだよね?】
カール・ハイドリッヒは猜疑心が強い性質ではない。
ヘラクレスやキースが嘘を言うような性格ではないことも分かっている。それでも尚、リリエンタールの結婚相手が庶民だとは、易々信じることができなかった。
【ああ】
”本当に庶民と結婚するんだ”と、当人の口から聞かされているのに、カール・ハイドリッヒはいまだ不安定な幻覚の中にいるかのような、得体の知れない奇怪さが胸を覆う。
これはカール・ハイドリッヒが特別階級に固執しているのではなく、普通の上流階級に属するものならば、誰も覚える感覚 ―― それは階級社会の終焉の始まりを思わせる。
【直接聞いてからじゃなければ言えないなと思っていたので……結婚、おめでとう】
だが同時にリリエンタールにとって階級社会の終焉などどうでも良いことなのも、カール・ハイドリッヒには分かる。
【ああ】
だが世界は確実に変わることを肌で感じ、それがどの方向へ進むのかは、自らの決断に掛かっていることも。
【このオデッサの心を射止めて、アウグストやヴィルヘルムが大天使と呼び、キース卿ですら麗しいと評する女性とは、いかな御方か? 今宵お会いできるが、今から心臓が高鳴って仕方ない】
【それは美しい娘だ】
リリエンタールの簡潔な一言の中に、様々な感情が込められているのが伝わってくる。
【ますます楽しみだ】
【お前の息子に惚れるなと注意しておけ】
【それは無意味だろう。皇帝然としたオデッサが恋に落ちるような女性だ。わたしの息子は美しい景色に歓声を上げ、可愛らしい生き物をいとおしむような俗な性格だから。美しい女性に心を奪われるのは確実さ】
【……そうか。ところでその感動しがちな息子はどうした? 男の準備はすぐに終わるから、連れてきても良かったのでは?】
【本当は連れてきて、ご挨拶させようと思ったのだけれど、妻が”社交は妻の準備が終わるのを待つことから始まるのよ”……ということで、妻の準備が終わるまで大人しく待つという、社交でもっとも重要な経験を積まされているよ】
【それはまあ……重要な経験だな】
【オデッサは身支度を待つ夫の経験をしてみてどう?】
【ん……会うのが待ち遠しい】
【じゃあ待つのは苦ではないのだね】
【いいや。離れがたい。だが着飾ったわたしのイヴは誰よりも美しい。ただ着飾らなくとも誰よりも美しいから、無駄なことをしていると……思うが、やはり着飾った姿を見たい。待つのは苦ではないが、離れているのはこの上なく苦痛だ】
【愛が伝わってくるよ】
それからしばらく「イヴ」の美しさを語られ ―― 各々パートナーと共に会場入りするために下宿を出て馬車に乗り迎えに行き会場入りした。
カール・ハイドリッヒはロスカネフを三回ほど訪れたことはあるが、社交界に顔を出したことはなかったので、ロスカネフ貴族の顔見知りといえば、リリエンタールの部下ヒースコート子爵くらい。
【久しぶりだな、侯主夫人。前に会ったのは三年ほど前か。全く変わっていなくて驚いた】
【相変わらずお上手で。辺境伯爵閣下もお変わりありませんわ】
だが本日の夜会会場には、リトミシュル辺境伯爵とフォルクヴァルツ選帝侯など、他国の名の知れた貴族がちらほらと姿を見せていた。
リトミシュル辺境伯爵は軽く手を上げて挨拶をし、フォルクヴァルツ選帝侯が夫人と息子とカール・ハイドリッヒを分ける。
夫人はすぐに意図を察し、息子を連れフォルクヴァルツ選帝侯と共に歩き出し ―― リトミシュル辺境伯爵とカール・ハイドリッヒは会場から外へと出る。
周囲に人気がないのを確認すると、
【わたしは新国家を作る】
リトミシュル辺境伯爵は前置きせず、カール・ハイドリッヒに告げる。
【そうなの】
衝撃的な内容だが、聞かされたカール・ハイドリッヒは特に驚きはしなかった。
【王政ではない。もちろん共産主義でもない】
【民主主義のようなものか?】
【そこで民主主義と言い切らない、侯主のいつもながらの判断力の良さと言葉選びの才能を買って、いの一番に口説いている】
【アディフィンから独立しろと?】
【そういうことだな】
なし崩し的ではなく自発的に、それも早い段階で新国家に属することを表明し、地位を築く ―― 新国家が上手くいけば先見の明があると評される。
カール・ハイドリッヒはそのような評価を欲してはいないが、アディフィン王国からの離脱に関しては前向き……というよりは、離脱する機会をうかがっていた。
【意外と遅かったね。もっと早くに仕掛けるかと思っていたのだけれど】
小国家群の邦領君主でしかないカール・ハイドリッヒは自ら動くことはできないが、この日が来ることはルース帝国が滅んだ時から分かっていた。
アディフィン国王はあの時、判断を間違ったのだ。ルース帝国が滅んだ時、なにもしなかったことが、アディフィン王国も滅亡の始まり ―― そのことに国王は気づいていないが。
【言われると思った。言い訳すると、独立自体はできたが、面白いパーツがなくてな。このままでも良いか? と思っていたのだが、アントンがあの通りだからやりたくなった】
語るリトミシュル辺境伯爵の笑顔はとても楽しげであり、カール・ハイドリッヒが断るなど思ってもいない自信に満ちていた。
【いいよ。乗ろうじゃないか】
【お前なら即答してくれると思ったよ】
リトミシュル辺境伯爵が差し出す手をカール・ハイドリッヒは握り返し ―― ロスカネフ王国の片隅でバルツァー共和国の二州目が誕生した。
国家樹立や独立といった話をしていたとは思えぬほど、二人は軽い話をしながら室内に戻ると、カール・ハイドリッヒの妻テレーゼが口元に手をあて頬を赤らめて、
【キースだな】
【キース卿だね】
燕尾服姿のキースを見つめていた。
これに関して四の五の言うのは野暮というもの。
【アントンの大天使はキースの副官と親衛隊隊長を務めていながら、キースに全く靡かずアントン一筋という、男の好みが非常に変わっている娘だ】
キースが女にもてるのはカール・ハイドリッヒもよく知っている。女性を惹きつける天性の「なにか」を持っているらしい ―― そんなキースにリリエンタールが勝てるのは金と権力。
【……金と権力が好きなのかな?】
もちろん血筋も勝っているが、庶民の出の「イヴ」が欲しがるかどうか? カール・ハイドリッヒにはあまりよく分からないので触れなかった。
【あまり好まない。本人が働いているから、欲しいものはその給与で買ってしまう】
【そう言えば、大公妃のご実家も中流の住宅街のままだったね】
下宿に住んでいる理由を聞いてもあまり理解できず、思わず流してしまっていたが、貴族の家長となれば、一族まとめて面倒をみる ―― それは妻の実家も含まれ、邸を与えることも多い。
【大天使の家族も一切欲しがらないそうだ。望めば一国くらい与えてくれるってのになあ】
【アントン自身を好きになったのか……】
リリエンタールは背も高ければ武術に長け、頭脳明晰で語学に優れ、政治軍事を意のままに操れるような男だが、何というか「女性に好まれる」タイプではないように男性には見える。
実際はそれなりに女性に好かれるのだが ――
【あの陰気で無感動な血色悪い、なんか知らんが寒そうな男のどこに惚れたのは分からないが、女たちが見るキースのように、わたしたちには分からないなにかがあるのだろう】
【そうだね】
”男の趣味が悪い”と散々言われている「イヴ」がどんな女性なのか?
カール・ハイドリッヒは妻の元へと向かい、手を引いてキースに挨拶をした。キースはいつも通りつれなく、やや粗雑な態度だが、それすらも格好いいと。
【キース卿のそれ……落ち着くといいね】
【本当に。まあ諦めておりますが】
キースは侯主に軽く頭を下げて遠ざかる。
そんなロスカネフ社交界の定番とも言えるやり取りが終わってから ――
【おお……】
リリエンタールと共にやってきた「イヴ」は、語られた通りの美しさだった。ただ下宿で散々「輝く黄金の髪の美しいこと。今宵存分に眺めるといい」と自慢されたのだが「イヴ」はココシニクというルース帝国伝統の頭髪を完全に覆い隠す頭飾りを身につけており、リリエンタールが自慢していた「イヴの美しき金髪」は一筋たりとも見ることができなかった。
ルース帝国の伝統衣装で更に庶民はおろか、モルゲンロート財閥クラスでなければ用意できないであろう大量で高品質な宝石が縫い付けられたココシニク ―― 中流階級住宅街に住んでいる「イヴ」の両親が用意したとは考えられず、今日の衣装は間違いなくリリエンタール直々に用意させたもの。
そうでありながら忘れた ―― 「イヴ」を自慢したかったのだろうことだけは、痛いほど伝わってきた。
開幕直後、ブリタニアスの大貴族が「イヴ」が好きなんだと大騒ぎし、国防担当のキースが「ここはわたくしにお任せください」と連れ去るという、アクシデントがあったものの、その後は持ち直し夜会は華やかに続く。
途中でリリエンタールと「イヴ」が、カール・ハイドリッヒも見覚えのある青年と共に会場を出ていった。
しばらくしてリリエンタールと「イヴ」は戻って来た ―― 下宿で話をしていた時よりも、会場入りしたときよりも、リリエンタールが「イヴ」を見る目は愛おしさに満ち、若干狂気かなにかに落ちかかっているかのように一瞬見えたが、宝石を見事に着こなしている「イヴ」から笑顔を向けられると、狂気はどこかへとなりを潜める。
狂気は決してなくなってはいないが「イヴ」の笑顔にまるで浄化されるように ―― リリエンタールは幸せに包まれていた。
夜会が終わり ―― 高貴な身分の者から立ち去るのが通例で、教皇とブリタニアス女王を見送ったあと、リリエンタールと「イヴ」が立ち去るのだが、国王の婚約者ユスティーナと部屋の隅で話をしていた。
リリエンタールは二人から少し離れたところにおり、その隙にカール・ハイドリッヒは正式に息子に挨拶をさせた。
リリエンタールは当然ながら頷くだけで一切声をかけず。
カール・ハイドリッヒとしても息子を特別扱いして欲しいわけではないので、それで充分だった。
そして息子に下がるよう命じ、
【侯主。おそらくだが、君主としては暇になるのではないか?】
近々国体を変えるのではないかと、確信に満ちた口調で話し掛けられた。
【ヴィルヘルムと話し合った……わけではないよね】
【まだ聞いてはおらぬし、聞く気もないが、ヴィルヘルムがしそうなことくらいは分かっている】
【そうか。でも暇になるかどうかは分からない。議員に立候補してみるのもいいかなと思っている】
カール・ハイドリッヒの国は一州として共和国に組み込まれ、行政官が置かれることになる。ショルファル家はクルヴェルラント領の支配者の地位を降り「名門一貴族」となる。
【ショルファル】
時は流れ今までとは違う統治時代がやってくる ―― 既に来ている。
それに気付けるか、目を背けるかは本人次第。
【……なんでございましょう、オデッサ大公】
【なぜわたしが、オデッサ大公の名でお前に招待状を送ったのか……分かるな】
共産連邦から取り返した白海を含むオデッサ領を、現在代理で統治しているのは神聖帝国。もちろんそれなりの見返りがあってのこと ――
【領主代行ということで?】
【そんなところだ】
カール・ハイドリッヒに代行せよと言うことは、神聖帝国側からオデッサの統治権を取り上げるということ。
リリエンタールの表情からは取り上げるだけで済ませるのか、国そのものを消し去るつもりなのかは不明だが、
【畏まりました。ただ国の整理などがありますので、些かお時間をいただきたいのですが】
それは代行でしかないカール・ハイドリッヒには関係のないこと。
【心配するな。早くても二年後だ】
【二年後ですか】
【お前に現状のオデッサはどうすることもできまい】
【たしかに。二年後には安定するのですか?】
【あそこは火薬庫だ。火薬は爆発させてしまえばなくなる。ただし爆発するさいに、近くにいては怪我をする。だから、その間は侯国にいるがいい】
【爆発させるの得意だよね、オデッサ。それも大爆発】
【言うな】
【……畏まりました。オデッサ大公の御心のままに】
リリエンタールたちが会場を去ったのち、カール・ハイドリッヒは家族とともに馬車に乗り込む。
【娘のロスカネフ旅行は禁止ね。あの司令官は毒よ。劇薬よ。娘たちに言い聞かせ、躾けてどうにかなるものじゃないわ】
【君が立派な妻で嬉しいよ】
キースに胸を高鳴らせながらも、娘たちを近づけてはいけないと語る妻に全面的に同意した。
**********
リリエンタールの挙式に参列したカール・ハイドリッヒは花嫁の豪華さに言葉を失う。
夜会のドレスも常軌を逸していたが、挙式の衣装は更にその上をゆく凄まじさだった。それはもはや服というよりは芸術品と表現したほうが正しい。
だが花嫁はそれを見事に着こなしていた。
式終了後に出席者に声を掛けて見送る際、
【クルヴェルラント陛下でいらっしゃいますか?】
花嫁がカール・ハイドリッヒに話し掛けてきた。
【そうでございます、大公妃殿下】
アディフィン語が苦手な花嫁だったが、古帝国語なら通じると隣に立ち花嫁の腰に手を回しているリリエンタールが教えた。
[あの……キース総司令官から聞いたのですが、この度の共産連邦との戦いにおいて、閣下の元へ人を送ってくださり、ありがとうございました。とっても感謝しております]
シルクと宝石と真珠、そして百合の香りに包まれているそれは美しい娘が、心からの感謝とともに頭を下げた。
その瞬間、カール・ハイドリッヒは思わず泣きそうになった。
むろん貴族の当主として、喜びであれ悲しみであれ人前で泣くようなことはしないが ――
[いいえ、こちらこそ。大公妃殿下のお優しさに……感慨無量にございます]
あまり長々と話をしていてはいけないので、会話はそこで終わり、カール・ハイドリッヒは妻とともにパーティー会場である公園へ、リリエンタールが手配しているタクシー馬車に乗り込んで向かう。
【どうなさいました? あなた】
【ん……オデッサの結婚式に出席できて良かったなって。本当はわたしとさほど変わらない年で結婚する筈だったけれど……ん? 雨?】
青空から雨が ―― 服が僅かに湿るかどうか? 程度の、一瞬の通り雨のあと空に大きな虹が架かり、
【神も祝福していらっしゃるようですね】
【完璧の極致は結婚式すら完璧だな】
それは神すらリリエンタールと花嫁の門出を祝福しているようだった。
《終》
パーティー会場となっている公園に到着し、少ししてからリリエンタールがアイヒベルク伯爵とともにやってきた。
花嫁は衣装替えにもう少し時間がかかる ―― 会場で自分の国ではあまり見かけない木を見上げていると、
【カール・ハイドリッヒ】
歌うような喋り方とは正反対に、肩を強めに叩いてきたのは、
【シャルル】
今はベルナルドと名乗っているシャルル・ド・パレ。初めて会った時の紅顔の美少年の雰囲気が残ったまま年を経た。ただ顔は整ったままなので年齢よりも今だに十歳以上若く見える。
【ちょっと聞け、カール・ハイドリッヒ】
【なに?】
【あの日、お前とわたしが初めて会ったあの日、教会にいたのスパーダじゃなくてフランシスだったんだって! ロスカネフの諜報部だよ】
【フラン……シス……ええ?! スパーダ神父だったよ? ……ね?】
【違うんだってさ! 本人が言ったし、あの人からも確認を取った。あの人は”気づいてなかったのか、お前”って眼差しを!】
【それはいつものことじゃないか……スパーダ神父には確認したの?】
【した! スパーダに神に誓えるか? って聞いたら、誓ったから間違いない!】
【…………聞いてはいたが……】
以前リトミシュル辺境伯爵にその凄さを聞かされていたが、まさか自分がそれ以前に出会っていて、そのこと三十年近く経ってから知るとはカール・ハイドリッヒは考えてもいなかった。
【スパーダに”なんで教えなかった!”って聞いたら”聞かれなかったから”って】
【返事がオデッサに似ている……】
【本当にな。言いたかったのそれだけだ。パーティー楽しんでいけよ……ああ、お前たちの結婚式も良かったよ。あの時言えれば良かったんだけどさ】
【ありがとう】
言いたいことだけ言い、ド・パレは手を振って去っていき、可愛らしい少女の元へと駈けていった。




