バレンタインデーの話
ホワイトデーにバレンタインデーをアップしていくスタイル
・本編終了後のお話になっております
・ネタバレ? 特に問題はないかと
二月十四日はバレンタインデーです。
この乙女ゲームの世界でも、バレンタインデーなのです。
ただ由来はヴァレンシュタインという有名な傭兵隊長(死因・暗殺)が、出世の足がかりを掴む切っ掛けとなった未亡人を落としたのが起源 ―― ゲームでは起源に触れていなかったので、まさかそんな起源だったとは……。
「傭兵隊長が未亡人を落とした」から分かるように、この世界では二月十四日は男性が好意を持っている女性へと、花束を贈る日となっている。
女性は何人から花束を受け取ってもいい。
花束をたくさんもらえる女性ほど、魅力的なのだから。
男性から女性へ花を贈る ―― ゲームの好感度を可視化するには、丁度良いイベント。逆ハーレムルートを狙っている時は、ここでしっかりと五つ花束をもらわなくてはならない……まあもう終わったことだからどうでもいいけど。
ただ最近はお世話になった女性へ感謝の気持ち……という恋愛感情抜きで花を贈ったりもする。
「クローヴィス」
「ヴェルナー閣下」
「色々と世話になったからくれてやる」
鬼教官が差し出してきたのは、ピンク色のチューリップ。もちろん一本だけ。
好意を持ってはいない、お世話になった女性へ贈るのは一本と決まっている。
もらったのは初めてですけれどね!
「あの」
「これからも、よろしく頼むぞ」
スタンダードな白のラッピングペーパーに、花の色と同色のリボンが巻かれたやつ。ヴェルナー少将に認められたって感じで嬉しい!
「はい。三月のお返しは期待していてください」
「ほどほどに期待しておこう」
その後、元の部下たちから、結構な数の花をもらった。
ありがとう。お前たちの給与じゃ、真冬に花を買うの大変だろうに。
「イヴ伯妃。はーい、お花だよ」
「室長」
「ミニブーケはぎりぎりセーフってヤツだよ」
暇に見せかけることに命をかけているに違いない室長が、大きな八重咲きのピンクの薔薇と、ミニバラで作った小さいブーケを持って現れた。
そして伯妃は止めてください、室長。
「ありがとうございます」
「うんうん。花束を持って微笑む伯妃の美しいこと。自分のセンスに戦慄を覚えるよ」
「何を仰っているのですか、室長。フォン・クローヴィス大佐ですよ。どんな花束を持ったとしても、似合うに決まっているじゃないですか。室長のセンスじゃありません。受け取った側の美貌が成せる技です。本当に申し訳ありませんね、フォン・クローヴィス大佐」
相変わらずベックマンさんは手厳しい。
「いえ、あの、その、室長からいただいた花束は、とても可愛らしくてセンスいいと思います」
「ほら、伯妃もそう言っているよ、カミラ君」
「大統領夫人に花束を渡すとか、自殺願望でもあるんですか」
「え、楽しいじゃないか。あ、伯妃。お返し楽しみにしてるから」
室長は、言いたいことだけ言って去っていった ―― 室長だもんね。
でももらったミニブーケは、ラッピング込みで可愛らしい。……可愛いもの好きなの、バレてしまったのだろうか……室長だからいいや! わたし、可愛いもの大好きですー!
「フォン・クローヴィス大佐」
休憩時間に花をもらいつつ仕事をし、昼休み近くなったところで、再び副官に声をかけられた。
「どうした?」
「大統領閣下がお越しです」
閣下、職場に花束持ってくるって仰ってたー。
「玄関ホールか?」
「はい」
副官と共に速歩で玄関ホールを目指す。
二月十四日のバレンタインだが、この真冬に花束を用意できる財力を持っていることを誇示し、他の男への牽制とする……という意味合いもあるのだそうだ。
そういえばゲームでも、攻略対象が装飾品付きの花束贈ってましたわ。
攻略対象六名中三名は学生でしたが、そこは貴族の坊ちゃんなのでね。
そんなことより、閣下にお会いできるー。
朝会っているけれど、会えるのは嬉しいじゃないですか!
いま昼だけど。ちょうどお昼休みだから……その時間を狙って来て下さったに違いない。
閣下はお気遣いの人! ……と言うと、リースフェルトさんは「あ、うん……そうだな」みたいな表情になるけれど。
副官と共に玄関ホールに到着すると、
「クローヴィス大佐」
シルクハットにフロックコート姿の閣下がいらっしゃった……ひまわりの花束を持って。ひまわりはでっかいヤツではなく、花束用のサイズだが、五十本とかなり多め。
「閣下」
「この花束を渡したくてな」
「あ、ありがとうございます」
この極寒の我が国で、二月に大きなひまわりの花束は目立つわー。
いや閣下が来た時点で、目立つのですがね。
そして花束の中にジュエリーケース。できれば自宅で渡して欲しかったような……。
「それは、他の男に見せつけ、イヴはわたしのものだと知らしめるためだ。ここで渡さねば意味がない」
耳元でそう囁かれた。
たしかにそういう意味合いのものなのですが!
とか思ってたら、手を取られ指にキスされた。
「それでは晩餐でまた会おう」
そこから流れるように頬にキスし、閣下は何ごともなかったかのように玄関ホールから去られた。
「大統領だけど絶対君主」という声がどこかから聞こえた。
いや閣下は選挙権を有する国民による、直接選挙で選ばれた大統領ですよ。投票率が98%で得票率が100%ではありましたが……前世だったら、完全に票の操作を疑う率ですが、してないから! 完全に独裁者の得票率だけど、独裁してないから!
「……昼食にするか」
「そうですね」
そのまま食堂へと向かい、花束を受け取っていたのを見ていた知り合いたちに「ジュエリーケースの中身が気になる」と言われた。
人前で開けるのは、閣下の意図するところなので、ぱかっと開けてみたところ ――
「なんだか分からないけれど、高そうだね」
「宝石もきっと高価なものなんだろうけれど、なんだか分からない」
庶民や下級貴族如きでは理解不能な、なにかが出てきた。
黄色っぽい宝石がメインなのは分かるし、なんとなくネックレスのような気もするのですが、なんかメイン部分から下がるフリンジがダイヤモンドを連ねたものなのは分かるのだが、ネックレスのフリンジにしては長すぎるというか……うん、分からん!
「どこに付けるのか、今晩聞いておくよ。あと宝石の種類も」
なんか凄そう! 高そう! 高いにちがいない! というのだけは伝わった。申し訳ありません、閣下。あなたの妻は、どうも宝石を覚えられそうにありません。
午後も元部下や、世話をした覚えなどないピンク七三分けなどから花を一本もらい、持ってきてくれた人たちは、折角なのでと飾っていた、用途不明の宝飾品に釘付けになっていた。
「サークレットだろう」
本日の晩餐会に出席するキース大将が「行き先は同じだから、一緒に行くぞ」と迎えに来てくださった。その際にわたしの机に飾られていた宝飾品を見て一言 ――
「サークレットですか?」
額を飾る、極めてファンタジー感の強い宝飾品のことですよね。
「ああ」
「分かりませんでした」
「だろうな」
ですよねー。
ちなみにサークレットのメインの黄色い宝石に関しては、
「分からんな」
宝石類に全く興味のないキース大将は、わたしと同じく「黄色い石」としか認識できなかったらしい。
「クローヴィス。お前には世話になっているからな」
キース大将が黒く細長の箱を、笑顔で差し出してきた。中身は見えないが、きっと花が一本入っているのだろう。
「お前なら、おかしなことを言い出したりしないからな」
そうですねー。わたしは勘違いしませんものねー。
「開けてもよろしいですか?」
「もちろんだ」
箱を開けると蕾の白バラが一本入っていた。蕾の白バラとキース大将って合うわー。四十過ぎた大将が白バラが似合ってどうするんだ? とも思うが。
「ありがとうございます」
微笑んだキース大将は、相変わらず儚い。なんだろうな、もらった白バラの花弁がはらり、はらりと散るかの如く……見た目だけなんですけどね。ほんっと、見た目だけなんですよねえ。イワンをボコっている姿とか、本当に雄々しいといいますか、切れっぷり最強といいますか……でも儚い。さすが詐欺師 ――。
もらった花は自宅へと運び込んでもらい、わたしは閣下からいただいたひまわりの花束を持ち晩餐会へと向かいました。
その日の夜、
「光り輝く黄金色だと聞いたのだが、イヴの髪のほうが余程美しく光り輝いている。これ以上美しい存在がないことは、もちろん分かっていたことだがな」
ベッドで髪にキスをされながら、宝石はイエローダイヤモンドと教えてもらいました。髪にキスされるの、慣れないなあ。嫌じゃないんですよ、慣れないんですよ。嬉しいんですけど……照れるんですよ。髪にキスされる以上のこと、してるけどね! でも、そういうのじゃないんですよ。
「閣下、お返し頑張りますので! ちょっとだけでいいので楽しみにしていてくださいね」
「すごく楽しみにしている」
「……」
「なにをもらっても嬉しいよ、イヴ」
そして頬にキスされた。
なにをもらっても嬉しいけれど、楽しみにして下さるのか。
これは気合いを入れて焼き菓子を作らないといけませんね!
ホワイトデーは一年後の今日にアップされるんじゃないかな




