朗報と憤り
レインとフェンネルの会話から少し時と場所は遡る
エーティス対リオルの戦況は、八龍が三人も出ているにも関わらず、善戦しているだけであった
八龍というのは、この国最高の戦力だ
本来一人出れば小国を消すほどの力を有している
にも関わらず、いまだ戦は終わらず、双方に多大な被害を出したままなのだ
「今回は中々粘るな」
黄龍は戦況の報告を受けて重い息を吐いた
そんな黄龍に斜め後ろに控えた土竜が頷く
「以前までの戦の手法も異なりますし、術も変化している様子」
「死ぬ気、否・・・滅びる気で来てるということか」
「かも知れませぬが・・・・・俺には彼の国が今この時に攻め入る理由が掴めませんね」
「そんなもの(理由)、今まであったの??」
首をかしげ会話に入ってきた白龍と蒼竜が尋ねれば土竜はうなずいて見せた
「人という生き物は、全てではないが理由付けてでなければ同族の<人>を手に掛ける事が出来ないのだ。倫理とやらが邪魔するらしい。そも、同族殺しをするのは人だけだ。生き物の本能なのか、同族を殺すのには明確な理由がなければ人は感情に押しつぶされると、以前学者に聞いたことがある」
「「へぇ・・・」」
「余り分かっていないな」
「「うん」」
「まぁその内分かるだろう」
「・・・・・・・・そのようなことはどうだって良い。黄龍様、我に出陣の許可を」
「赤龍・・・・・」
「そう急くな赤龍。彼女を盾に取られたら動けるのか?無理だろうが」
土竜の台詞に舌打ちする
ものすごく荒れている赤龍に八龍の中ではかなり若い、むしろ未だ子供な白龍と蒼竜は少し距離を置く
普段から決して愛想が良いとは言えずどちらかと言えば感情を露にしない龍が、苛烈なまでの怒気を纏っていると非常に恐ろしい
「赤龍、落ち着きなさい。キリクも申していたが、私も彼女が簡単に死ぬとは思えない。人は確かに弱いが、こう思わせるものが彼女にはある。たまには信じて待たねば。そなたは何時も、我らにこうやって憤りを感じさせているのだよ。感じさせる側でばかりあると、いざ慣れぬ立場になった時恐ろしいだろう。これを期に懲りて欲しいものだ」
黄龍は溜息を吐き、悄然とうなだれる赤龍の肩をたたいた
そうして、その映像は突然、八龍の集まる広間に映し出された
〔黄龍様、聞こえますでしょうか〕
簡易な礼をした状態で現れたのは間違いなく
「レイン!!!???」
〔あら、赤龍様もいらっしゃる・・・お久しぶりに御座います。なにやら大変憔悴されていますが、きちんと身体を休ませていますか??〕
暢気に答えるレインに赤龍は泣きたくなった
間違いなく、レイン・シュレイアがそこにいた
〔挨拶は、省略させていただきます。少々、時間がありませぬ
黄龍様、此度の戦について、分かったこと、ならびにその御知恵をお借りしたくこうして連絡させていただきました〕
「構わぬ。申してみよ」
〔はい。まずはリオル軍に関してですが、これはリオル国王の一存にあらず。どうやら二大派閥の一つ、教会によるものでございます。どうやらつい五分前に分かったのですが、教会のトップの教皇が重篤な病に罹り、教皇が死ぬ前に、というのが今回の急な襲撃だったようです
それから、存在を認知できない魔術に関して、何故魔力に終わりが無いか幾つかリオル王と立てたのですが一番有力なのは、恐らく何人もの魔術師の魔力と血により生成された魔力増幅器なるものを扱っているのではないかと。遠隔での魔力の需給は出来ないそうなので戦場に持ち込んでいると思います。壊しても魔力供給は不可能です。又、増幅器にも終わりはあるとのこと。
最も、何時切れるのかは解りかねるので、早々に破壊するのが一番早いかと思われます。
それから、今回の戦、教会側も急だった為に人員、武器、食料共にそう遠くない内に無くなるかと。
最後に、これが実は本題なのですが、今回の戦、リオル国王にとって予想の斜め後ろを行くものだったようで本意では在りません。私を攫ったのも、どうやら【シュレイアの傑物】を介して黄龍様と停戦をしたかったようです。リオル国王に置かれてはどうか黄龍様に戦を収めてもらいたいと〕
明かされていくこの戦の目的や背後の人間に土竜は満足そうにレインを見つめる
一方で黄龍は少し考えた後、フェンネルに変われるかと問うた
すぐにレインではなく、正装したフェンネルが現れる
黄龍と赤龍にとっては二度目
他の龍にとっては初めての対面。これがリオルの王か。という感想がほとんどだ
黄龍とフェンネルの話は一時間に渡り、結果、エーティス側に被害も大きいので強制終了後、五分と五分の停戦とは流石にいかなかったが、停戦する意向で固まった
最後にもう一度レインが現れた
今度は正式な礼をとる
〔黄龍様ならびに八龍の皆様には多大なるご迷惑をお掛けした事深く陳謝いたします
暫くリオル王に協力しこちら側で停戦に向けて動きますことご容赦くださいませ〕
「気にすることは無い。それより、よく動いてくれた。おかげで膠着状態に近かったが動ける。
そなたのリオルへの協力、此方としても助かる、が、くれぐれも注意せよ。そなたに何かあっては赤龍が暴れるでな」
「黄龍様!!」
「ほら赤龍、レイン殿に何か言いなさい」
「・・・・・・・・・っ御意」
促され、レインと視線を絡める
〔?〕
「レイン、くれぐれも無茶をしてくれるなよ
それから、お前が帰国する際には、必ず、我が迎えに行く」
〔・・・・・・・では、赤龍様も怪我をされませぬよう。お待ち申し上げております赤龍様〕
礼をしたレインはもう一度黄龍に向き直って礼をした後掻き消えた
「・・・・・・・・不覚だわ」
「レイン殿??」
「いえ、少し、照れただけですわ」
赤龍と顔を合わせたことは未だ片手に数えるほどだが、まさかあんなにも強い眼差しを受けるとは思わなかったと、いつもより早く鼓動する胸に手を当てて己を落ち着かせたレインがそこにいた




