13-10 望むほど渇いていく(後編)
窓は無く、日が差し込まない室内。天井の照明が室内を照らすがどこか薄暗さを感じさせる。そんな室内には一体何に使うのか分からない機器がズラリと並び、そのせいでより陰湿な印象を受ける。
そんな室内で汚れた白衣を着た男が、黒いローブと仮面をつけた人物に掴みかかっていた。
「子供に装置を渡したとはどういうことだ!」
「『まぁまぁ、落ち着け』」
目の隈は濃く、頬骨が少し浮き出るほどにやつれている。髪はぼさぼさで、髭もしばらくは手入れしていないであろう無精髭。そんな男は目を血走らせ、仮面の人物の胸倉を掴み上げると無機質な真っ白な仮面を見下ろしていた。
仮面の人物の声は明らかに肉声ではなく、ボイスチェンジャーか何かで機械的な声に変換している。そんな声でも仮面の下は笑顔で飄々としていることが分かるほど、声には抑揚があった。
「最初に決めたはずだ! 増幅装置は欲に塗れたクズにのみ渡すと!」
「『子供と言っても、魔法でヤンチャする犯罪者予備軍だ。約束を破ってはいないはずだが?』」
「このっ………!」
「『そんなことより、装置の渡し役三人が死んだ。その方が重要だと思うんだが………違うか?』」
「っ………くそ!」
「『っと、やれやれ………』」
白衣の男は押し出すように仮面の人物の胸倉を放す。仮面の人物は背伸びの状態から解放され、皺になって乱れたローブを引っ張って正していた。
「『こうなるとこの場所が割れるのも時間の問題だな』」
「そんなことは分かっている!」
「『ならどうする?』」
「決まっている! データはもう十分揃っている! 計算や理論も問題は無い! あとは実行するのみだ!」
「『ほう? いいのか? 逃げるのも手だと思うが?』」
「白々しいことを………! データや機材はともかく、長い時間をかけて蓄積・増幅させた魔力がある! それを移動させる術は無い! 貴様も分かっているだろう!」
「『ああ、それもそうだったな………』」
「こんの………!!!」
いちいち神経を逆撫でする仮面の人物の言葉に白衣の男は苛立ちを募らせる。もう一度胸倉を掴み上げたくなるが、先程のやりとりもあってか、なんとかその衝動を抑え込む。しかし、この場に居ては同じことを繰り返す。そう思った白衣の男は大きな足音を鳴らしながら部屋を出ていった。
仮面の人物はそれを追いかけることはせず、白衣の男が自動ドアの先へ消えていくのを見送る。そして、扉が完全に閉じると不気味な笑い声を漏らし始めた。
「『フフフ………。余裕の無いやつは見ていて面白い。だからこそ、残念だ………』」
声のトーンが下がる。仮面で表情は見えないが俯いた顔からは言葉通り、残念そうな雰囲気が漂っていた。
一方、白衣の男は足早に通路を進んでいく。通路は硬い地面と土壁で出来ており、天井に照明のランプが等間隔に吊るされている光景は開通工事中の洞窟のようであった。
そんな薄暗い通路を足音を鳴らしながら進み続ける。その足音は怒りではなく、焦りと欲。そして僅かな希望から来るものであった。
(あと少し………! あと少しなんだ………!)
鋭くも淀んだ目。そんな目をした男の脳裏に過るのは亡くなった妻と娘の笑顔。自身にとって一番幸福だった時を思い浮かべるも、それは同時に強い悲しみと渇望を与える。
「俺は“エデン”への扉を開き、二人を生き返らせてみせる………!」
そう呟く男の表情に、墓地で春と耀に見せた笑顔は無かった。
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