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13-8 VSローブの三人組(後編)


「ハアッ!」


 剣士のローブの男が両手で持った剣を横薙ぎに振るう。その剣を春と耀の二人は一歩後ろに下がるだけでそれを回避する。そして、次の瞬間には春が剣士の目の前にまで迫っていた。

 迫る春を前に、春の右拳と纏わせた闇を視界に入れる。先程のことを思い出し、受け止めることは出来ないと振り抜かれた春の右ストレートを慌てて右に跳ぶことで回避する。しかし、その先に居たのは白く輝く剣を構えた耀であった。


「せやあ!」


「ぐっ!」


 振り下ろされた剣を受け止めるしかない剣士。それにより、動きが一瞬止まる。その背後から、春が闇を纏わせた後ろ回し蹴りを叩き込んだ。


「がっ………!」


 耐えきれず、そのまま剣士は蹴り飛ばされる。しかし、体勢は崩さず地面に足が付くと剣を二人へと構えるが、片膝を着いて痛む脇腹を左手で抑えた。

 その隙を見逃さず、二人は剣士に向かって駆け出す。向かって来る二人を見た剣士は剣を二回振るうが、間合いからは程遠く空振りに終わってしまう。しかし、振るわれた剣からは魔力で作られた斬撃が放たれ、二人に向かって飛んで行った。


 飛来する二本の斬撃がそれぞれ春と耀を捉える。しかし、二人は飛来する斬撃を前にしても毅然としていた。春は斬撃を拳で砕き、耀もまた己が剣で空へと弾き飛ばした。


 耀は僅かに足を止めたが、春は勢いを落とすことなく剣士へ迫る。顔の見えない剣士のローブの奥から歯を噛みしめた不快な音が鳴った。

 春は剣士に近づくと右拳を振り下ろす。しかし、剣士は屈んだまま後ろへと跳ぶことでそれを回避する。そのまま前方に居る春の追撃を警戒するが、何かに気づいたように慌てて上を向く。すると、上空から白く光る六本の短剣が落ちてきているのが見えた。


「くっ!」


 剣士は屈んだ状態から起き上がり、迫り来る刃に剣を振るう。三本の短剣を斬り捨て、四本目を斬ろうとしたそのとき、落ちる短剣がその軌道を変えた。不意を突くような突然の軌道変化だが、それでも二本は斬り捨てる剣士。しかし、最後の一本は防ぎ切れず、左肩を掠めた。


「ちぃっ!」


 苛立ちと焦りから舌打ちをする剣士。斬られた肩から血が流れ、腕を伝って肘から地面へと滴り落ちていた。見た目は派手だが深くは斬られていない。しかし、動かせこそすれど、全力で剣を握るのは不可能になってしまった。


(なんという連携! 個々の技量も高い! Cランクの私がここまで押されるとは………!)


 春と耀は無傷。対して、剣士は左肩を負傷。付け加えて胸と脇腹にも動けば鈍痛が走る。強さに自信があっただけに、子供二人に押されているという事実は心に重くのしかかっていた。

 一方、春と耀の心境はかなり落ち着いたものだった。


(ダメージが効いて来た。かなり動きが悪くなってるな)


(さっきの飛ぶ斬撃以外、特殊なのは無さそう。あとは私の閃光剣みたいな攻撃強化くらいかな)


 冷静に相手を観察し、予測を立てられるだけの余裕がある。少し前の二人であれば苦戦を強いられただろうが、今の二人にとってこの剣士は強敵足り得なかった。


(このまま攻め立てて!)


(削り倒す!)


 言葉は交わさない。目線も合わせない。それでも二人の意志は通じ合う。それを示すかのように、二人はまた同時に駆け出した。


「くっ………!」


 同時に駆け出した二人に剣士は鬱陶しそうに顔を顰める。またあの連携が襲ってくると考え、体が強張るように身構える。それが二人に対して恐れを抱いているからだと悟り、剣士のプライドを刺激した。


「おっ………のれぇぇぇぇぇ! 舐めるなあああああ!!!」


 湧き上がる怒りに任せ、咆哮を響かせる。しかし、二人はその咆哮に臆することなく突き進んだ。

 突如として加速し、一足先に春が剣士の前に躍り出る。剣士は目の前に飛び出して来た春に対し、剣を真上から振り下ろした。

 春は頭上に落とされる剣を、右の裏拳で側面から叩き折る。そして、空いている左拳で闇を纏った正拳突きを繰り出した。


 繰り出された正拳突きを、左に逸れてから跳ぶことで剣士は回避する。しかし、そこへ追い打ちをかけるように耀が左側面から迫る。そして、そのまま突進の勢いを利用したまま剣で突きを放った。


「せやぁっ!」


「ぐ、うっ………!」


 折れた剣を捨て、新しく作り出した剣で耀の突きを受け止める剣士。左向きで突きを受けたために衝撃が左半身にかかる。しかし、負傷した左肩ではそれを受け止めきれず、剣を弾き飛ばされてしまう。加えて、弾き飛ばされた剣に腕を引っ張られてしまったために体勢が大きく崩れた。

 そして、その隙を春が見逃すはずも無かった。


「らぁっ!」


「ぶふぉっ!?」


 がら空きになった剣士の顔面に、闇を纏った春の右拳が突き刺さる。その威力に鮮血が舞い、体が大きく後ろへ仰け反った。

 そのまま後ろへ倒れるかのように見えたが、ギリギリの所で踏み留まる。そして、体を起こすと荒い息遣いと共に再び剣を作り出し、強く握りしめていた。


「う、らああああああっっっ!!!」


「うおっ!」


「危ない!」


 剣士は自棄を起こしたように乱雑に剣を振り乱す。その剣からは魔力の斬撃が放たれ、周囲の地面や岩を斬りつける。乱雑に放たれる斬撃に、春と耀は慌てて距離を取った。

 二人が離れると剣士は剣を振るうのを止め、二人に向かって剣を構えたまま動かなくなる。しかし、依然として息は荒く、時折体の芯がブレているように感じた。


(良いのが入ったからな。立ってるのも辛いはず)


(後一撃で決まる!)


 休む暇など与えない。そう言わんばかりに距離を取ったはずの二人が駆け出す。その動きに、再度剣士が体を強張らせた。

 そして、さっきとは違い、今度は狙いを定めて剣を振るい始めた。


「がああああああっ!!!」


 まともに言葉を発する余力が無いのか、剣士は奇声を発しながら斬撃を放ち続ける。

 二人の前に立ちはだかる怒涛の斬撃。しかし、二人は難なく対処していく。


「はっ!」


「せい!」


 春は斬撃を拳で破壊しながら進んでいく。耀は斬撃を躱し、時にはいなして進んでいく。弾いた時とは違い、減速するだけで止まることは無かった。


(やはり止まらないか。だが、そんなことはもう分かる!)


 止まらない二人に危機感を覚えるも、焦らない剣士。進み来る二人に対し、これまでの攻撃パターンを振り返っていた。


(先に仕掛けるのは足が速い男の方! あの女はその後の追撃と崩しが役割だ! 私が勝つには男を一撃で仕留め、その後の追撃を防ぐ! それしかない!)


 二人の攻撃パターンから剣士は自身の勝ち筋を分析する。それが出来るのなら初めからやっているのだが、この状況では四の五の言ってはいられない。勝つ為に、限界を超える覚悟を決めていた。


 春の行動を注視する剣士。やがて、耀と同じ速度で進んでいたはずの春が速度を上げ、耀よりも前に出た。


(来た!)


 それを見た剣士は斬撃を飛ばすのを止め、春に向かって剣を構える。春も右拳に闇を纏い、攻撃の姿勢を見せた。


(魔力感知であの短剣が飛んできていないのも確認済みだ! 予想外の奇襲は無い! さあ来い! 来いぃっ!!)


 間違いなく先手で攻撃を仕掛けるのは春。その思い込みが、剣士の敗北を決定づけた。


((掛かった!))


 剣士の意識が完全に春へと向いた瞬間、耀の体は白い光に包まれる。そのことに剣士が気づいた時には、耀は一本の光の筋を残して剣士の前まで迫っていた。


「なっ!?」


 突如として眼前にまで迫った耀に剣士は驚きを露わにする。極限の状況下での予想外の事態に体は僅かに硬直し、思考も一時的に停止する。そのわずかな時間に、耀は必殺の一撃を構えた。

 両手で握る剣に強い光を宿し、その刃を拡張させる。輝く光の剣を、耀は思いっきり振り上げた。


「閃光剣ッ!!!」


「がっ!?」


「ハアアアアアアアア!!!」


「ああああああああっ!!!」


 巨大な剣が剣士の腹と胸に深々と食い込む。そして、一際強い発光と共にその体を上空へと打ち上げる。斬られた様子はなく、刃が当たった箇所からは血が流れていない。しかし、フードが外れて見えた素顔はそのあまりの威力に白目を剥いていた。


 五メートルほど上空へ打ち上げられた剣士は意識を覚ます様子はなく、そのまま地面へと落下する。それでも目を覚ますことは無く、白目を剥いたまま大の字に倒れている。

 それを見た耀は剣を鞘へとしまい、快活な笑顔を見せた。


「たまには春じゃなくて私が決めてもいいよね!」


「あ、あはは………」


 反応に困る決め台詞。先程の閃光剣の威力を見たのも相まってか、苦笑いを浮かべることしか出来ない春であった。




 閲覧ありがとうございました!

 実はこの作品で耀が単独でフィニッシュを飾ったのは、今回が初めてだったりする。




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