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13-6 VSローブの三人組(前編)


 サブタイトルって難しい………。


「いけぇ!」


『ギャアアアッ!!!』


『グルアアアッ!!!』


『キイィィィッ!!!』


 魔獣使いのローブの男が、自身の作り出した魔獣を十六夜と篝にけしかける。押し寄せる魔獣は犬、虎、熊、鳥など多種に渡る。しかし、形が崩れていたり目が三つだったり、腕や脚の数もおかしい異形の怪物と化していた。


「オラァ!」


「ハァッ!」


 拳から放たれた雷撃は魔獣達の身体を焦がし、炎の弾丸は容易に魔獣の肉体を貫く。倒された魔獣達は溶けるように体崩れ、消滅していった。


「数はっ! 十五体前後かっ!」


「みたいねっ!」


 迫り来る魔獣達を倒しながら会話を続ける二人。魔獣は倒されたそばから作られているため、状況が変わることはない。しかし、二人はしっかりと魔獣使いを観察していた。


「ひひひっ」


(作り出すのは自分の傍………というより、両手の先からか)


(速度はかなり早いわね。さらに、自分の傍には常に二体の魔獣を配置してる)


 不気味な笑い声を漏らしながら手の先から魔獣を作り出すローブの男。一体倒せば、即座に新しい魔獣が作り出される。その側で、犬の魔獣が二体が不測の事態に備えて控えている。その光景に二人は目を細めた。


((厄介………))


「ひひっ。このまま削り殺してやるよ」


「「………っ!」」


 魔獣使いのセリフに二人の目の鋭さが増す。向けられた殺気さえ、弱者の負け惜しみだと思い魔獣使いは不気味に笑う。

 しかしその瞬間、状況は一転した。


「ッオラァ!」


 両手に雷を纏わせた十六夜が、手を組むと地面に向かって鉄槌の如く振り下ろす。それにより、土煙が吹き荒れた。


「なっ」


(焦るな! 魔力感知で探れば―――)


 土煙が巻き上がり、二人の姿が見えなくなったことに動揺する魔獣使い。傍に控えている二体の犬型魔獣が警戒する姿勢を見せ、魔獣使いは魔力感知で二人の位置を探ろうとする。しかし、その直後に土煙の中から十六夜が魔獣使いに向かって飛び出して来た。


「くっ!」


 飛び出して来た十六夜に対し、ようやく近くに居た二体の魔獣が動き出す。その行く手を阻む様に立ち塞がり、十六夜の雷鳴拳をその身を盾にして防ぐ。

 その直後、十六夜の背後の土煙から続々と魔獣達が飛び出した。


「残念だったな!」


 がら空きとなった十六夜の背後を取れたことで、魔獣使いが笑う。しかし、そんな魔獣使いが見た十六夜の表情は悔しさに歪んで―――は、おらず。


「お前がな」


「はぁ?」


 相手を小馬鹿にするように、大胆不敵に笑っていた。

 予想外の表情に戸惑う魔獣使い。その直後、右肩と右腕を炎の弾丸によって撃ち貫かれた。


「がっ、ああああああああ!!!」


 激痛に悲鳴を上げ、血が流れ出る右肩を押さえる魔獣使い。その場で膝を着きそうになるも、雷を纏った左拳を振り下ろそうとする十六夜を見て慌てて後ろへと跳んだ。

 それにより十六夜の拳は空振りに終わるが、それでも十六夜は余裕の笑みが消えていなかった。


「ぐ、ううううう!!!」


 距離を空けても、魔獣使いは傷を負った肩を押さえる。そして、ちらりと自分へと銃口を向けている篝の姿を視界に捉えた。


(しまった………! 目の前のクソガキに気を取られたせいで、土煙を横から出たガキに気づけなかった………!)


 真正面から飛び出した十六夜に隠れ蓑にし、側面から篝は飛び出す。そして、目の前の十六夜に気を取られている魔獣使いに二発の弾丸をお見舞いしたのだった。


「クソッ!」


「ハッ。大当たり、だな」


 十六夜はちらりと背後を見る。そこには糸が切れた人形のように地面へと倒れ伏す魔獣達が居た。それにより自分達の推察が間違って無いと分かると、十六夜はそれを意気揚々と相手にぶつけた。


「お前が作り出した魔獣達は自立して行動できない。お前がリアルタイムで操作してたんだろ」


「くっ………なぜ分かった!」


「まず、囲ってる魔獣の数に対して襲い掛かって来る数が少ない。せっかく十五体で包囲してるのに、一気に襲い掛かるのが一人に対して三体までとか可笑しいだろ。それはつまり、お前が高度に操作できる魔獣の容量を指してる。そして、確信を得たのは土煙で目眩ましをした時だ。一気に魔獣の動きが止まったからな。しかも、それでお前は魔獣を通して俺達の姿を視認できないことも分かった。………まあ、操作能力に関して言えばお前はこの間のSランク喰魔(イーター)の圧倒的下位互換ってわけだ」


「こんの………!」


 下位互換という十六夜の物言いに腹を立てる。しかし、負傷している上に離れた所から銃口を向けられている状況では下手に動けず、踏み止まっていた。


「で、魔法も割れてその怪我だ。大人しくしろ」


「くっ、ぐぅぅぅ………!」


 悔しそうに唸り声を上げ、葛藤する魔獣使い。どれだけ考えようが状況的に諦めるだろうと、十六夜は冷たい目でその様子を見る。しかし、魔獣使いの出した答えは十六夜の予想とは異なっていた。


「ぬぅっ………!」


「―――!」


 勢いよく顔を上げた魔獣使いに対し、十六夜の目が冷たいものから鋭いものへと変わる。その瞬間、十六夜の背後で沈黙していた魔獣達が起き上がった。


「諦めるわけには! 行かんのだああああああ!」


 魔獣使いの咆哮と共に再び十六夜へと駆け出す魔獣達。しかし、十六夜は魔獣使いを見据えたまま動こうとはしない。

 背後から迫った魔獣達の爪や牙が十六夜へと突き立てられそうになったその瞬間、発砲音が鳴り響いた。


「がっ!?」


 発砲音と共に、魔獣使いの頭部で火炎が爆ぜる。ローブのフード部分が焼け落ち、今まで見えなかった素顔が露わになる。魔獣使いの男は頭部から血を流し、白目を剥いて地面へと倒れた。

 魔獣使いが倒れると魔獣達もその形を保てず、泥のように溶けて消滅していった。


「ナイスヘッドショット」


「どういたしまして。まったくもう」


 左側へ振り返り、飄々とした態度で褒める十六夜。その先に居る篝はやれやれといった表情を浮かべながら歩み寄っていた。

 そして、篝は十六夜の隣に並び立つと魔獣使いを見下ろした。


「最後、変な感じがしたわね。覚悟というより、何かを恐れていたような………」


「だな。まあ、それは後で聞き出そう」


 十六夜はそう言うと、ポケットから頑丈そうなワイヤーの束を取り出す。そして、魔獣使いの両手や両脚を縛り、両腕は動かせないようにワイヤーで体に固定する。

 その後、装置を持ってないか服の中などを探すも見当たらず、十六夜は不機嫌そうに舌打ちをした。


「チッ。装置は持ってないか」


「それじゃあ、私は他の三人の援護に………は、必要無さそうね」


「ああ。もう決着がつく」


 周囲を見渡した二人はどこか嬉しそうにそう呟くのだった。





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