13-1 通報
春と耀が技術課に装置の残骸を持って行ってから二日が経過した。春と耀、そして十六夜と篝の四人の姿は学校の体育館裏にあった。
扉の前の石床に座り、弁当を広げて昼食を摂る四人。しかし、その表情はどこか沈鬱であった。
「あれから事件について進展なしか」
「使用者は後を絶たないっていうのに………」
「使った人達の中から意識が戻らない人も出始めたもんね」
「ま、当然だな。なんのリスクも無い、っていう方がおかしいだろ」
悲しそうに目を伏せる耀に対し、十六夜は自業自得だとバッサリ切り捨てる。冷たく感じるも、他の三人も多少は思う所があるため何も言わなかった。
「現状、手掛かりになりそうなのは使用者達が一貫して証言する『異界から現れたローブを着た集団に貰った』ってことだけね」
「防衛隊は異界探索に力を入れてるが、これといった成果は無し」
「手詰まりだよな………」
溜め息とまでは行かないが息を吐き出す春、耀、篝の三人。十六夜は小さく鼻から息を吐き、不満げな表情を見せていた。
そんなとき、四人のポケットや側に置いていたスマホが一斉に通知音を鳴らした。
「「ん?」」
「なんだ?」
「なにかしら?」
通知音を聞いた四人は一斉にスマホを手に取り、画面を覗き込む。そして、その通知音の正体が星導市支部情報課の友里静から来たメールによるものだと知った。
「友里さんからメールだ」
「私も」
「私もよ」
「ってことは………」
「ああ。俺も友里さんからだ」
四人のスマホに情報課の人間から一斉にメールが送られてくる。これだけで魔法防衛隊関係だと察するには十分であり、四人は少しだけ目を鋭くさせ、送られて来たメールの内容を確認した。
「えーと『学校が終わったら、支部長室に来てください』か………」
「間違いなく任務ね」
「増幅装置関連かな?」
「さあな? まあ、行けば分かるだろう」
※
放課後、春達は友里からもらったメール通りに支部長室までやって来た。
前回と同じく支部長である幸夫は書類が積み上がったデスクに腕を置いて座り、その隣に友里が立つ。そして、二人に向かい合うように四人は立っていた。
「四人共、よく来てくれた」
「こんにちは」
「「「お疲れ様です」」」
「どうも」
支部長と友里に挨拶を返す四人。ただし、十六夜だけはどこかぶっきらぼうに挨拶を返す。それを隣で聞いていた篝が目線を向けるが、十六夜はしらを切るように目線を明後日の方向へ逸らした。
幸夫は四人を一瞥すると一度目を閉じ、再び目を開けると同時に笑みを消して真剣な眼差しを向ける。その変化に他の五人もつられるように気を引きしめ、表情を険しいものへと変えた。
「それでは早速だが本題に入ろう。今回君達を呼んだのは、ある任務に就いてもらうためだ。友里君」
「はい。支部長」
幸夫に呼ばれると友里は手元にある資料に目線を落とし、話し始めた。
「昨日、折紙町にある交番に一件の通報がありました。通報をした人は町内のハンバーガーショップで勤務してる人なのだけど、勤務中に店内で食事していた高校生達の会話を聞いて不安になって通報したそうよ」
高校生、その単語に四人が眉を顰める。自分達よりは年上だが間違いなく未成年。自分達を呼び出す件と一体どのように関わっているのかと、四人は友里の言葉を待った。
「それで、その内容が『高校生達が明後日、どこかの路地裏で増幅装置を貰うと話していた』というものよ」
「「「「―――っ」」」」
途端、四人の表情が一気に険しくなる。増幅装置が関わっているとなれば、自然と緊張感が走った。
「最初は高校生達の冗談か何かだと思っていたけど、最近の事件のせいで怖くなって近くの交番に通報したらしいわ。本来ならその程度で警察が動くことは無いんだけど、今は他に手がかりも無いからね。警察の方でその高校生のここ最近の動きを追ったらしいの。そうしたら、その高校生が立ち寄った場所の一つが、一度装置の取引に使われた場所と一致した」
「なるほどな。確実とは言えないが、可能性は高まったわけか」
「そう。そこで、警察と防衛隊で協力して取引現場を抑えようって話になったの」
「それで俺達が呼ばれたと………」
「防衛隊からの人員は私達だけですか?」
「いいえ、後二人。尾牧市支部から長嶋君と九野君が来てくれるわ。警察の方からも二人、高校生を見張ってくれている方達がそのまま参加するそうよ」
篝からの質問に友里が答えると、春と耀の二人は眉を顰めて小首を傾げた。
「なんか少ない気が………」
「ね?」
「まあ、まだ確証は無いからな。どちらかと言うと万が一のための要員なんだろ、俺らは」
「「ああー………」」
二人の呟きに十六夜が答えると、二人は納得したような声を上げた。そこで質問が止まると、友里が幸夫に目線を送る。
それが一通りの説明を終えた合図だと分かった幸夫は、目の前の四人に話しかけた。
「さて、大体察しているだろうが君達の任務は明日。尾牧市支部と警察の四名と協力し増幅装置の取引現場を押さえ、装置本体とそれを流している犯人達を捕らえることだ。立花君の言った通り万が一ではあるが、もし取引が事実でそこを押さえられれば事態は大きく進む。気を引き締め、全力で任務にあたってくれ」
「「「はい!」」」
「はい」
幸夫の呼びかけに四人はしっかりと答える。
その後、四人は任務の詳細を聞き、明日のことを話して解散した。
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