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12-5 まるでじゃなく、間違いなく人体実験だ


 春達は技術課の課長達に連れられ、場所を先程の実験室から別の実験室へと移す。そこは先程までの実験室と造りは同じなのだが工具や部品などは散らかっておらず、実験の汚れや跡はあるものの比較的清潔な部屋であった。

 その実験室で作業台の横に背もたれの無い椅子を持ってくると課長と副課長、その体面に春と耀の二人が向かい合って座る。二人を案内していた白衣の男性は既に退席していた。


「さて、そっちの()は初めましてだな。アタシは釘宮(くぎみや)(ほたる)。星導市支部の技術課長だ」


「オレは副課長の槌塚(つちづか)(そう)()だ。よろしく」


「Dランク隊員の白銀耀です。よろしくお願いします」


 初対面だった技術課長達と耀が挨拶を交わす。そして、課長である釘宮は耀を見てニカッと快活そうに笑った。


「よろしく! 噂は色々と聞いてるぞ! 一目惚れの件とか、合体魔法でSランク喰魔(イーター)を退けたとか! できればその合体魔法について調べたいんだが―――」


「話を脱線させるなよ蛍。まずは増幅(ブースト)装置についてだろ」


「ああ、そうだったな」


「………………」


 釘宮と槌塚やり取りを、耀は不思議そうな目で見る。とても親し気で、遠慮が無いやり取り。上司と部下の関係にはとてもではないが見えなかった。

 そんな耀の視線に釘宮は気が付き、声を掛けた。


「どうした?」


「その、お二人のご関係は………?」


「んん? ………ああ、別に恋人とかじゃないぞ。ただの幼馴染だ」


「あ、そうなんですか?」


「て言っても、いつも一緒に居るから支部内ではほぼ夫婦あつか―――」


「「夫婦じゃない!」」


「げふっ!?」


 夫婦と言われ、キレた釘宮と槌塚にド突かれる春。情けない声を上げると椅子ごと後ろへと倒れ、背中を地面へ強打した。


「今のは春が悪い」


「別にからかったつもりは………いや、すみませんでした」


 補足説明のつもりだったのだが、結果としては二人をからかうことになってしまった。春もそれを理解し、ほんの少し言い訳をすると即座に謝罪へと移った。

 背中を擦りながら春は起き上がり、立て直した椅子に座り直す。それを皮切りに、釘宮が増幅装置について話し始めた。


「まず、増幅(ブースト)装置の残骸を届けてくれてありがとな」


「いえいえ」


「それで、なぜこんな別室で話を? 俺達は残骸を持って行くよう言われただけで伝達事項などは特に………」


「ああ、分かってる」


「オレ達技術課から、その増幅装置についてお前達隊員に伝える事があるんだ」


 増幅装置について、そう言われた瞬間に春と耀の眉間に僅かに皺が寄る。ほのぼのとした空気から一転し、張り詰めるような緊張感がその場に漂い始めた。


「実はほんの少し前に分かったことでまだ書類とかには出来てないが、お前達が来たなら口頭でも早急に伝えておいた方がいいと思った」


「支部長からもちゃんと許可は貰ってるから、安心しろよ」


「それで、その伝えたい事というのは………」


 耀がそう尋ねると釘宮と槌塚は顔を見合わせる。そして、槌塚が頷くと釘宮は重々しくその口を開いた。


「一連の事件に使われている増幅装置の型は同一。今までに見たことのない型に加えて、出回ってる量からも裏で大きな力が働いている。少なくとも、アタシ達や上層部(うえ)はそう考えてる」


「それはなんとなく」


「私達もそう考えてました」


「へえ………、スゴイな。入隊して一年ちょっとで、もうそこまで感が働くとはねー………」


 入隊して一年と少し、付け加えて中学二年生という若さで物事の裏を探ることを身に着けている。それに感心した釘宮は笑みを見せる。

 しかし、すぐにその笑みは消え失せる。そして、再び真剣な眼差しで言葉を続けた。


「で、だ………。その一連の増幅(ブースト)装置には使用時のデータを記録し、そのデータをどこかに送る機能が備わってることが分かった」


「「………なっ!?」」


 驚きのあまり、目を大きく開いて言葉を失う二人。

 データを記録し、それをどこかに送信している。それがどんなことを意味しているのか、分からない二人ではない。

 春は驚きに付け加え、沸々と湧き上がる怒りに膝に置いた両手で握り拳を作った。


「なんですかそれ! それじゃあ、まるで人体実験じゃないですか!?」


「まるでじゃなく、間違いなく人体実験だ」


「―――っ!」


 槌塚が春の曖昧な言い方を否定し、確定事項だと訂正する。再び突きつけられた現実に息を吞み、春は再び言葉を失った。

 一方で耀は目を細め、明らかな嫌悪感を示すように顔色を悪くさせていた。


「それじゃあ………、一連の増幅装置事件は何者かによるデータを取るための実験に過ぎないってことですか?」


「そういうことだ」


「今の増幅装置を進化させるためなのか、もっとやばい企みがあるのか。その狙いはまったく分からないけどな」


 釘宮がそこまで言うと、僅かな静寂がその場に訪れる。混乱した頭と荒れる心を落ち着かせるため、春と耀は静かに俯く。釘宮と槌塚の二人もそれを察し、静かにそれを見守っていた。

 そこから数秒して、俯いたまま大きくゆっくりと息を吐いた二人。そして、春はゆっくり顔を上げると釘宮と槌塚に質問を投げ掛けた。


「………その、記録されたデータや送信先は?」


「それが分からない。増幅装置が使用後に壊れるのは構造を分からなくするってより、データの破壊と送信先を分からなくさせるのが狙いみたいだ」


「復元は出来ないんですか?」


「試してはいるんだけど、中々な………。ハッキリ言って、具体的な目途は立ってない」


「そうですか………」


「壊れてない装置でもあれば話は早いんだろうがな………」


 そこまで槌塚が言うと会話が途切れる。

 きな臭いことばかり判明するも、それに対しての吉報は一切ない。それはまるで、状況が最悪な方へと向かっている足音が聞こえてくるようだった。





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