12-4 技術課
春と耀の二人が強盗犯二人を倒してからほどなくしてやって来た他の隊員達と警察。戦闘や逃走の現場となった場所には規制が敷かれ、後からやって来た防衛隊と警察の検証班が協力して現場検証等に当たる。
そして、今回出動した防衛隊員を指揮していた東雲は二人から何があったかを聞き、状況を把握していた。
「なるほど、状況は理解した。二人とも、よく強盗犯を取り押さえてくれた」
「「ありがとうございます」」
東雲の労いの言葉に二人は礼を述べる。事件が起きた現場ということもあってか、畏まった声や強張った肉体から全員が緊張感を持っているのが分かった。
「元々の作戦は二人が先行して犯人を足止め、他の隊員で周囲を取り囲む算段だったんだがな。まさか二人だけでのしちまうとは驚いたよ。アイツらが使った魔法の威力や規模から見て、Cランク相当の魔法師だったと思うんだが」
「そうかもしれないですけど、その魔法を使うまでが隙だらけでDランクの喰魔より楽でしたよ」
「増幅装置を使って魔法や魔力を引き上げただけで、それ以外は全然って感じだったよね。背後から近づく私にも気づいて無かったし」
「………なるほどな」
強盗犯と対峙した二人の所感に東雲は一言で終わらせる。とても淡白に思える反応だったが、それは二人の成長に驚いていたからであった。
(確かに強盗犯共は戦闘に関しては素人だろうが、それでも魔法が厄介だったのは事実だ。実際、先に駆け付けた隊員や警官達は足止めしか出来なかった。それをDランク喰魔より弱かったと言ってのけれるのは、それを言えるだけの実力が身についてるってことだ。こりゃ、Cランクに成るのも時間の問題だな)
確かな若者の成長。五十歳を過ぎた東雲には、思わず笑みを浮かべてしまうほどの感慨深い嬉しさがあった。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
「………? そうですか………」
笑みを浮かべながら自分達を見つめる東雲を不思議に思った春が声をかける。しかし、東雲はそれを何でもないとはぐらかすのだった。
※
その後、星導市支部へと帰還した春達。そして、春と耀の姿は支部の廊下にあり、隊服のまま横に並んで歩いていた。
春の片手にはチャック付きポリ袋が握られており、その中には強盗犯の使用していた増幅装置の残骸が入っていた。
「技術課に持って行って解析か………」
「他の残骸も既に解析に回してるんだよね?」
「そう言ってたな。ただ、損傷が酷くて解析が進んでないらしい」
「壊れる前の増幅装置が手に入ればいいんだけどね」
「だな………」
増幅装置について話しながら廊下を歩いていると、二人はとある扉の前に立つと足を止める。その扉は訓練室のように金属製で出来ており、電子ロックが付いている扉であった。
春は扉のすぐ横にあるインターホンのスイッチを押す。すると、数秒してインターホンのスピーカーから声が発せられた。
『はーい』
どこか間の抜けた、気怠そうな若い男性の声。その声が聞こえると春はスピーカーに向かって話し始めた。
「Dランク隊員の黒鬼春です。増幅装置の残骸を持ってきました」
『あー、了解です。扉開けますんで、少しお待ちくださーい』
春がインターホンのカメラに袋に入った増幅装置の残骸を見せると、声の主はすぐに会話を切り上げる。そして、十秒くらいして目の前の金属製の扉が横にスライドして開く。そこにはその扉を開けたであろう白衣を纏った男性が立っていた。
「お疲れ様でーす」
「「お疲れ様です」」
「ソレ、例の件のやつですよね」
「はい。そうです」
「分かりました。ちょうど技術課長もいますし、入ってください」
「分かりました」
「失礼します」
技術課の白衣の男性に促されるまま、二人は技術課の中へと入っていく。
技術課は広く、支部に通路を通して繋がっている別の建物が技術課の作業・実験棟となっていた。それほどの広さになるのも仕方なく、星導市支部の技術課は他の支部からも仕事が持ち込まれるため、自然とそれだけの規模になってしまったのである。
二人が入った扉の先にも廊下が続いており、各部屋に入るための扉や中を覗ける窓ガラスが点在していた。廊下や壁などは全て扉と同じ金属製で出来ており、強固な造りになっていることが一目で分かった。
白衣の男性に続いて廊下を歩く春と耀人。二人は歩きながら、横目で大きな窓ガラスの向こうに見える作業部屋の中を一瞥する。機械や道具がキッチリと整理され、頑丈そうな作業台で何かを弄っている作業服を着た技術課の人の姿が見えた。
春達は少し廊下を歩き、いくつかの部屋を過ぎると奥の方にある扉の前に止まる。その扉は訓練室や技術課の入り口と同様に厳重に作られており、室内が覗ける窓などは一切無かった。
「この中に技術課長と副課長が居ます」
「ああ………ここですか………」
その瞬間、春は僅かに笑顔を曇らせ、テンションが目に見えて下がる。明らかな様子の変化に耀は小首を傾げ、案内をしていた白衣の男性は事情を察しってか気まずそうに笑っていた。
「どうしたの?」
「いやー、まあ。………この部屋は他の部屋に比べて頑丈に作ってあってさ。危険な作業やら実験をするときに使うんだよ」
「つまり?」
「ここで道具の動作確認で右手を捻じ切られそうになったことを思い出して、つい………」
「なんでそんなことに!?」
一体何をしたらそんな事態になるのだと困惑する耀。次の瞬間には三人が立つ扉の奥から爆発音が聞こえる。頑丈な作業室から壁を挟んでいるため、音はかなりくぐもっており、その衝撃も僅かな振動で終わった。
しかし、室内で爆発が起こったのは間違いなく、耀は慌てた様子で扉に目を向けた。
「今の爆発音なに!?」
「あー、またですか」
「みたいですね」
「二人は落ち着き過ぎじゃない!?」
取り乱す耀とは対照的に、春と白衣の男性は落ち着いた様子を見せる。動じない二人に耀が驚く中、白衣の男性は扉の横にあるインターホンのボタンを押し、室内の人物へ話しかけた。
「課長ぉー。例の件で隊員が二人いらしてますー」
『――――――………ああ分かった! 今開けるから待ってろ!』
「はーい」
少しの間を置いて、スピーカーを通して聞こえてきたのは若い女性の声。通りのよさそうなキーが高い声だったが、それには似合わないほど荒々しい口調と声音だった。
声とギャップのある喋り方に耀が面食らっていると、作業部屋の扉が開く。それにより室内から僅かに黒煙が廊下へと漏れ出すも少量であった。室内に煙が充満している様子も無く、ハッキリと部屋の中を見ることが出来た。
「なんで勝手に出力弄りやがった!」
「元々出力上げる改良なんだから当たり前だろ!」
「一気に上げ過ぎなんだよアホ!!」
「アホとは何だバカ!!」
扉が開いたことによって室内の会話が廊下へ漏れ出し、若い男性と女性の声が交互に聞こえてくる。しかし、その会話は怒号と罵倒が飛び交う酷いものであった。
あまりの会話の勢いに耀はその主である二人を見たまま固まってしまう。しかし、またしても春と白衣の男性は耀とは違う反応を見せる。
「これもいつも通りですね」
「失敗するとここまでがワンセットですからねー」
「え、ええぇ………」
もう驚き疲れてしまったのか、声に覇気がない。そんな耀をよそに、白衣の男性は室内へ歩みを進めながら二人へと声をかけた。
「お二人共、夫婦喧嘩はそこまでに」
「「夫婦じゃない!」」
「はいはい。分かりましたから」
白衣の男性の呼びかけにより、罵倒合戦が収まった二人。
男性の背丈は百八十三センチと高めであり、技術課の作業服をキッチリと着込んでいた。髪はスポーツ刈りで短く、アゴ髭も僅かに伸びている。目つきも僅かに鋭いため、威圧的な見た目をしていた。作業や先程の爆発もあったせいか、作業服や顔には煤やオイル汚れが目立っていた。
女性の背丈は耀とほとんど変わらず、百五十七センチくらいの身長であった。髪は鮮やかな緑色をしており、長い髪を頭の後ろで纏めてポニーテールにしていた。服装は技術課の作業服ではあるものの、上着の方は前方のチャックが開いており、そこから中に着ている白いTシャツが覗ける。しかし、作業や先程の爆発のせいか男性と同様、全体的に汚れが目立つ。更に汗のせいか見えるシャツはべったりと女性の腹に吸い付いており、その見事なプロポーションを引き立たせていた。
どちらとも一見は二十代後半か三十代前半くらいの年齢に見え、課長や副課長と呼ばれるような印象は見受け辛かった。
「ほら、課長。例の件で………」
「ん? ああ、そうだったな」
白衣の男性から声を掛けられ、冷静さを取り戻す作業服の女性。何かの部品が転がっている作業台の前から二人の前まで移動すると、快活な笑顔を見せて声を掛けた。
「それじゃあ、まずは別の部屋に行くか」
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