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12-2 出動!


 東雲から今起こっている増幅(ブースト)装置事件のあらましを聞いた春と耀。事の大きさに険しい表情で固まっていた二人だが、ずっとそうしているわけにもいかない。

 パトロールは勿論、書類の作成、設備や道具の点検等々。やるべき仕事はちゃんとある。支部に置いてある道具を他の隊員達と共に点検し、先日の討伐任務の報告書を作成。そして、一通りの作業を終えた二人は他の作業が無く、訓練に時間を費やすことに決めた。


「ふぅー………」


 いつもの訓練室ではなく、支部の敷地内にある開けた中庭に二人の姿はあった。中庭は窓から覗いたときの景観を良くするために程よく木々が生え、芝も生い茂っていた。

 その中庭で春は目を閉じ、程よく脱力して自然体で立つ。全身から魔力を放出させ、その流れに神経を集中させる。そして、次に右手に意識を向ける。

 ピクッ、と指先が小さく動く。その次の瞬間には全身を覆う魔力が弱まり、その代わりに右手の魔力が大きく膨れ上がった。

 その動作を左手、右脚、左脚、背中等々。次々に場所を変えて同じように行っていく。一通りやり終えると目を開き、身に纏う魔力を霧散させると疲労を押し出すように息を吐いた。


「はあー、きっつい!」


「結構神経擦り減らすよね。それ」


 春の言葉に近くで剣を構える耀が同意する。二人共隊服の上着を脱ぎ、下に着ていたTシャツ姿になることで動きやすい格好にしていた。


「基礎の魔力操作、肉体での魔力移動。連続で一回や二回ならともかく、五回を超えてくると意識した所の血管が熱くなる感じがする。しかも、まだまだ意識しないと素早く動かせない」


「私のお父さんも『意識せずに自然体で魔力を流せられるようになるのが魔力操作の最初の課題』って言ってた」


「だよな。士さんも言ってた」


 士に出された課題、基礎鍛錬の魔力操作をこなす春。その指標として士の姿を思い浮かべるが、自身と比べると淀みがない魔力移動に己の未熟さを痛感する。


「士さんは強く意識せず、手や足を動かすくらい自然に魔力を移動させる。俺は移動させるのにそれを強く意識するから、相手にも読まれやすいし動きにも差が出る。確かに闇魔法を生かすなら鍛えないとな」


 言われた当初はなんとなくでしか理解できなかったが、改めてその修行に取り組むことでその重要性を深く理解する。士のような魔力操作をできるようになれば、一体自分はどのくらい強くなるのだろう。そんな期待感を胸に抱いてしまうほどに。

 沸々と湧き上がる闘志に春は不敵な笑みを零した。そして、自身と同じように士から出された課題に取り組む耀へと目を向ける。


「耀は出力向上の特訓か」


「うん。出力向上には結局、ひたすら魔法を使うしかないからね」


 そう言うと耀は自身が握る剣へ目を向ける。そして、グッと柄を握る両手に力を込めると、それに呼応するように剣に白い光が宿る。

 やがてその光が拡張し、大きな剣身を形成した。


 剣が放つ白い光が優しく周囲を照らす。春はその光を目を細めることなく、真っ直ぐに見つめた。やがて光の剣は収縮していき、霧となって空気に溶けるように消えていく。

 完全に剣に宿った光が消えると、耀は小さく息を吐いた。


「こうやって魔力消費が一番激しい閃光剣を繰り返しやるのが一番効果的なんだよね。出力向上に加えて、魔力の変換効率も上がるし」


「なんだったら、その特訓で更に魔力量増えそうだな。それで、魔力にはまだ余裕あるのか?」


「うーん。魔法を出すときは思いっきり力を込めてるんだけど、魔力はまだまだ余裕かな。なんかこの感覚の差が凄く気持ち悪い」


「羨ましいけど、そんな感覚は経験したくないな」


 魔力量が一気に増えたからこその贅沢な悩み。しかし、耀の不快そうな表情を見た春は自身の中から羨ましさが薄れていくのを感じた。

 相反する二つの感情に春もまた微妙な表情を浮かべる。


 そんな時、支部内にけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。


「っ!? これって………!」


「急ぐぞ耀!」


「うん!」


 サイレンに春は表情を険しくさせる。そして、急いで地面に置いてあった隊服の上着を拾い、走り出した。

 耀も剣を鞘へと収め、竹刀袋に入れると春と同じように上着を拾って後を追いかけるのだった。







 サイレンが鳴り響き、緊急事態を知らせる赤いランプが点滅して輝く廊下。そこを駆け抜け、魔法防衛隊の特殊装甲車が並ぶ倉庫に二人は駆け込んだ。


「東雲さん!」


「二人共! 緊急出動だ! 準備しろ!」


「「はい!」」


 東雲の指示に間髪入れず答える二人。他の隊員が武器や隊服の準備をする中、二人は手に持っていた隊服を着直すと東雲の前に整列する。そして、数秒してすぐに春達を含めた計九名が東雲の前に整列した。

 ピリピリとした緊張感の中、東雲は全員が並んだのを確認すると号令を飛ばした。


「日務町二丁目にて銀行強盗発生! 犯人は魔法師二名! 付近の警察官と防衛隊員が駆け付けたが、犯人が魔法を使用し抵抗! 星導市警察と協力し、これを鎮圧する!」


『了解!』


 東雲に負けない声量で返事をする春達。そして、そこから東雲を含めた全員が東雲の背後にあった二台の装甲車に乗り込んだ。

 装甲車はワゴン車ほどの大きさであり、見た目も重厚で装甲が厚い。前後左右には魔法防衛隊のマークがプリントされ、一目で魔法防衛隊の車両だと分かる。前方の運転席と助手席に二人が座り、残りの隊員は前方から覗き窓がある仕切りを隔てて後方の座席に座った。


 そして、二台の装甲車が出撃する出入り口付近にもサイレンが鳴り響き、赤色のランプが点滅する。同時に、出入り口にある拡声器からアナウンスが流れ始めた。


『ただいまから緊急車両が通ります。ご通行中の皆さまは出入口から離れ一旦停止し、道を広くお開けください』


 機械的な女性の声が拡声器から流れる。そのアナウンスに従い、出入り口付近の車は道の端に寄り、ハザードランプを付けて停止した。

 そして、東雲は車両を収納している倉庫の扉が開き切ったのを確認すると運転席の隊員に号令をかける。


「出動!」


「はい!」


 東雲の指示を聞くと運転席の隊員は装甲車のランプを点け、サイレンを鳴らし始める。そして指示に従い、車両を発進させる。

 その後に続き、もう一台の車両も発進するのだった。





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