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12-1 増幅装置


 愛笑に隊員の数が足りないから当直に入って欲しいと頼まれた春達四人。

 それを引き受け、春と耀の二人は翌日の当直勤務に入ることとなった。


「「おはようございます」」


「ああ、おはよう二人共」


 隊服を着用し、隊員達が書類作成などのデスクワークをする部屋に入室する二人。広い室内に壁際にパソコンが数台と、真ん中に話し合いに使えそうな大きなテーブルがあった。

 時間は午前八時より少し前であり、室内に居た隊員達に挨拶をする。

 まず先に挨拶が返って来たのは、以前の討伐任務で同じB班であった東雲(しののめ)(おさむ)からだった。その後も他の隊員からおはようと挨拶が返って来る。二人はそれにも軽く挨拶を返し、自分達を見続ける東雲の元へ歩いて行った。


「あの時の任務以来だな。怪我はもう大丈夫か?」


「はい。おかげさまで」


「東雲さん達が戻って来て、現世に運んでくれたおかげです」


「よせよせ。大したことはしてねえし、Sランクの相手をお前らに押し付けちまったからな。感謝される覚えはねえよ」


 拳磨と戦い、気を失った春達の元へ駆けつけたB班。愛笑から逃げろという指示があったが拳磨が居なくなったことを魔力感知で知り、急いで引き返した。

 そして、引き返した先で傷付いた春達を一部の隊員で現世の病院へと運んだのだ。


 春達はその感謝を伝えるも、東雲は気まずそうに笑顔を浮かべる。

 東雲は指示に従っただけだが、結果としてランクも年齢も自分より下の春達に拳磨の相手をさせてしまった。そんな自分に感謝されても、と引け目を感じてしまい、素直に受け入れることが出来なかった。


 辛気臭い表情を浮かべてしまう東雲。

 しかし、このままでは余計な気を使わせると思い、すぐに二人向けて明るい笑顔を作った。


「しっかし、Sランク相手によく生き延びたな。大したもんだ」


「かなり手加減されましたけどね」


「うん………」


「ハハッ! まあいいじゃねえか生きてんだから! 生きてりゃ勝ちだ! アハハハッ!」


 僅かに肩を落とす二人に、東雲は明るく笑い飛ばす。五十代で魔法防衛隊員をやっている東雲が言うと、軽い言葉にも深みを感じさせた。

 東雲は思いっきり笑うと、二人の背後の壁に立て掛けてある時計に目が行く。針が八時を指そうとしており、前の当直から業務の引継ぎをする時間が迫っていた。


「っと、そろそろ引き継ぎの時間だな。席行くぞ」


「「はい」」


 そう言うと東雲は部屋の中心にあるテーブルの真ん中辺りの席に座る。春達や他の隊員はその周囲に椅子を持ってきて座る。そして、テーブルの向かい側にも同じように隊員が座っていた。

 人数はお互いに十人であり、前日の当直から行った業務や何があったかなどを春達が聞いてく。その中で、春と耀の二人が気に留める内容が一つあった。


「今回は星導市で事件はありませんでしたが、近隣の市では“増幅(ブースト)装置”による事件・被害が出ています。いつでも対応できるよう、継続して警戒をする必要があると思います」


「了解だ」


「「………?」」


 増幅(ブースト)装置、その言葉が二人の耳に強く残った。







増幅(ブースト)装置の件について知りたい………?」


「はい」


「私達、それについて詳細を知らなくて」


「あー、なるほどな。二人共入院してたし、勤務にも入って無かったもんな。知らなくても当然か」


 引き継ぎの後、春と耀の二人は東雲に先程の増幅装置の件について東雲に尋ねていた。そして、詳細を知らないという二人に対して納得したような声を上げた。


「まあ簡単に言うとここ数日、星導市とその周辺で増幅装置を使った事件が多発しててな。なんとなく聞いてないか? 該当地域とその周辺の学校には注意喚起してるんだが」


「ああ、それなら聞いてます」


 東雲に言われて思い出したのは、学校での帰りの連絡事項。確かに魔法師による事件が起きているので寄り道や外出を控えるように、と言われたことを思い出していた。


「そうか。まあ、そういう連絡をしないといけないほど数が目に見えて増えてるってことだ。それに付け加えて、今起こっている増幅装置関連の事件はかなり厄介でな」


 東雲は右手を額に当て、困ったように頭を抱える。その姿から、ただ事件が多いというわけではなさそうだと二人は表情を強張らせた。


「増幅装置はその名の通り、魔力や魔法の力を増幅させる機械や道具の総称だ。資格や行政の許可が無いと使用は勿論、所持も禁止。付け加えてこういう風に出回るのは違法で危険な代物ばかり。これは知ってるよな?」


「はい」


「勿論です」


「それじゃあ今起こってる一連の事件の何が厄介かというと、出回っている装置の“型”がどれも一緒なんだ」


「型………ですか?」


「ああ。ちょっと待ってろ」


 そう言うと東雲は近くにあったファイルが並んだ棚の前まで行く。ガラス扉を横にスライドさせ、中から一冊のファイルを取り出した。

 そして、それを開いて二ページほどめくると二人の前まで持って行った。


「これだ」


 差し出されたファイルを受け取る春。そのまま開かれたページに目を落とす。耀も横からそのファイルを覗き見た。

 ファイルには防犯カメラの映像を切り取った画像が複数とそれに関する説明が記載されていた。画像は何かの事件の様子とその犯人を映したものだった。


「これは………最近の増幅装置事件の資料ですか?」


「ああ、そうだ」


「ってことは、この画像の犯人の体のどこかに装置が………」


「どれ? それっぽいものは無さそうだけど………」


 二人が記された画像を見るが、増幅装置らしきものは見当たらない。小首を傾げる二人だが、それを見かねた東雲は答えを示すように犯人の首を指した。


「この首のチョーカーみたいなのが増幅装置だ」


「え!? これですか!?」


「嘘っ!?」


 二人は驚きに目を見開き、東雲が指す犯人の首を注視する。

 確かに記載されている犯人達の首には、共通して同じ見た目の何かが巻かれている。通常のチョーカーよりも見た目は重厚で、機械特有の金属らしさが荒い画像からも見て取れる。

 しかし、一見は装置というより変わったアクセサリーの印象の方が明らかに強かった。


「これが装置って、コンパクト過ぎませんか?」


「私が知ってる増幅装置って体のあちこちに配線が繋がった鎧みたいなのとか、フルフェイスのヘルメットみたいなのとか、最低でも500mlのペットボトルくらいのサイズですよ」


「そうそう」


 二人の知る増幅装置とはあまりにもかけ離れている。まさかこんなチョーカーのような小さい物が装置とは思いもしていなかった。


「ああ、だからこそ問題なんだ。こんな大きさじゃ持ってても分かりづらいうえに、それだけでもこれまでのと扱い安さが段違いだ。確実に手を出す馬鹿が増える」


「確かに………」


 これまでの増幅装置は見た目が大きく、隠れて扱うには間違いなく不向きであった。しかし、ここまで小さければ人目を避けることが容易になってしまう。

 事実、装置の事件数が増えた要因の一つになっているのは間違いなかった。


「だが、一連の事件での一番厄介な点はそこじゃない」


「「え?」」


 これだけでも十分問題なのに、更にそれを上回る問題がある。

 そう聞かされた二人は驚きに固まるが、同時に先程の東雲の発言を思い出していた。『出回っている装置の“型”がどれも一緒なんだ』という東雲の言葉を。


 大きさではなく、型。その違いが、二人をある仮説に辿り着かせた。


「まさか………」


「そう。その増幅装置を犯人達に流通させている存在は同一の可能性が高い。それもここまで大規模となると、組織的な何かだ」


「「―――っ!」」


 二人は思わず息を吞む。

 型が同じということは、製造している大元はまず間違いなく同じ。かなりの数が出回っているのを考えれば、個人や複数犯ではとても片づけられない。

 それだけの規模で動くことができ、且つこれまでにない型の違法な増幅装置を流している。その裏で暗躍する巨大な力を感じずにはいられなかった。


「確証がある訳じゃねえ。だが、裏でデケェ何かが動いてる。そう考えずにはいられねえ状況なのは確かだ」


 険しい表情でそう零した東雲。

 春と耀の二人もまた、見えぬ不安に表情を曇らせるのだった。





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