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11-3 いつかは超えるつもりです(後編)


「それじゃあ、次は十六夜だな」


 春、耀と続き、次に順番が回って来たのは十六夜であった。


「十六夜の課題は『もっと感覚に身を任せろ』だ」


「あん? それはどういう意味だ士さん?」


 いつも察しの良い十六夜だが、今回は士の課題の意味を理解できなかったらしい。眉を顰め、課題の意味を聞き返す。

 士もさすがに十六夜でも一回で理解できるとは思っていなかったらしく、特に気にした様子も無く詳細を話し始めた。


「さっきも言ったがお前は視野も広いし状況判断も良い。頭もキレるほうだ。だが、それが今お前の()()()()()()()()にもなっている」


「「「「っ!?」」」」


 士の言葉に十六夜だけでなく、他の三人も一緒に目を見開いて驚く。

 これまで十六夜の判断の能力に救われてきたことは多々ある。それが十六夜自身の成長を妨げているとはどういうことだと、四人共全く理解が追いついていなかった。

 そして、当の本人は驚きの表情から一転し、まるで睨むように士のことを見上げる。しかし、何も言い返さないことから押し黙っているようにも見えた。


「その様子だと、何かしら思い当たる節はあるみたいだな」


「………………」


「まあ説明すると、十六夜は何かしら動くときに頭で考えて動くところがある。それは悪いことじゃないが、十六夜の場合はそれが過ぎて感覚で動くことを疎かにしているところがある」


「そうですか? 十六夜も感覚はかなりいい方だと思いますけど。それこそ魔力感知とか」


「感覚が悪いって言ってるんじゃない。感覚を疎かにしてるって言ってるんだよ」


「ああ、なるほど。そういう………」


「「………?」」


 耀は納得するが、春と篝の二人は士の言っている意味が分からずに首を傾げる。その様子に士は頭を掻き、少々頭が痛そうな様子で説明を始めた。


「いいか。魔法っていうのは良くも悪くも感覚なところがある。春が言ったように魔力感知なんて正にそれだ。だが、十六夜の場合ものを考えすぎて魔法を扱うときの感覚や直感を疎かにするところがあるって言ってるんだよ」


「な………るほど」


「うーん………」


「これ頭では分かってないな」


 二人はなんとなく感覚的に理解したが、頭で理論的には理解しきれていなかった。眉間に皺を寄せている様からはそれが見て取れる。

 そんな二人の様子に士は小さく頭を抱えた。


「とにかく、十六夜。お前はそういう感覚を手段でこそ使うがそれに頼ることはない。それは戦う中で決定的な差になる。魔法や魔力の上達速度にも大きく響く。春や耀が近くに居る分、その重要さをお前は分かっているはずだ」


「………………」


 そう言われ、俯いた十六夜の脳裏に呼び起されるのは先程までの二人の戦い。

 何よりも魔法の扱いで強烈に焼き付いたのは耀の魔法。二か所同時の魔法使用は間違いなく感覚で実行するしかない。そして、それを実行するという判断を下すのもまた感覚や直感だろう。

 改めてそれを認識し、感覚の重要さを痛感する十六夜であった。


「だが、感覚に頼るのと思考を放棄するのは違う。十六夜がやるべきなのは今の思考を保ちつつ、感覚に身を任せることも身に着けることだ。ハッキリ言って、かなり無茶な課題だとは思うが………」


「いや、いい。ありがとう士さん」


 そう言うと十六夜は顔を上げ、士へと目を向ける。そして、顔を上げた十六夜の表情に士は目を丸くさせる。

 先程までの悔しそうな表情は何処へやら。いつものようにニヒルな笑みを浮かべ、目は闘志を宿した肉食獣のようにギラギラとしていた。


「おかげで悩みが吹っ飛んだ」


「………そうか。なら良かった」


 自信とやる気に満ちた十六夜の悪い顔に士は安心感を覚え、小さく笑みを零す。そして、今度は篝の方へと顔を向けた。


「次に篝だな。篝の課題は『魔法を掛け合わせる』ことだ」


「掛け合わせる………」


「そうだ。篝の魔法は銃を作る“造形魔法”と炎を作り操る“炎魔法”の二つ。この魔法を一つの魔法として使うこと。簡単に言えば一人でやる合体魔法みたいなもんだ」


 篝が持つ魔法は“炎の弾丸を放つ銃”ではなく、銃を作り出す魔法と炎魔法の二つである。

 そして、篝の課題はその二つを掛け合わせることだった。


「篝の射撃の腕前はBランクにだって負けていない。だが、弾自体の質はかなり劣る。今のままじゃ当たるかどうかも問題だが、威力も当たったところでダメージにはならない。そんな経験がもうあるんじゃないか?」


「………!」


 士の推測は当たっている。事実、篝はCランク喰魔やSランク喰魔の拳磨と戦い、ダメージを与えられないという苦い経験をしている。さらに拳磨に至っては態々受け止められたため、本気で避けられた場合は当てられたかは疑わしい。

 否。拳磨の動きを見ている分、自分の弾丸では無理だろうと篝は悟っていた。そのことを思い出すと篝は悔しそうに握り拳を作り、険しい表情で目を細めた。


「今篝が持っているその二つの魔法を掛け合わせることが出来れば、間違いなく今よりも強力な魔法になる。それは篝だってよく分かっているだろうし、俺はもうその段階に来たと思うぞ」


「………ええ、そうですね。やってみることにします」


「ああ。ぜひそうしてくれ」


 篝は一瞬悩む素振りを見せたが、すぐに笑顔を浮かべてその課題を受け入れる。その笑顔は十六夜とは違うものの、自信とやる気に満ちたものには変わりなかった。

 士は篝への課題の提示を終えると、今度は両隣に並んで座る春と耀に目を向けた。


「春。耀。今回は見れなかったが、二人の合体魔法はこれから先必ず役に立つ。聞いた話だとかなりの威力をしてるみたいだから、そうそう訓練は出来ないだろうが、出来るならしっかりとモノにしておけよ」


「はい! もちろん!」


「必ず使いこなせるようになって見せます!」


「困ったことがあれば遠慮なく私達に聞いてちょうだい」


「先輩としてアドバイスしてやるよ」


「こら! 十六夜君!」


「冗談だ、冗談」


「まったくもう………」


「ま、頼りにさせてもらうよ」


「うん。そのときはお願いします!」


「ええ」


「勿論だ」


 なんとも気の抜けた、楽しげな会話。

 その光景を士は優しい目で見守る。そして、士も楽しそうに小さく笑い声を漏らした。


「っはは。まあ、とにかく! みんな本当に強くなった。とても魔法防衛隊に入って一年とは思えないな」


 万年Dランクの隊員すら居る中で、春達は入隊一年でCランクに迫っている。特に春と耀の二人に至っては既に実力はCランク相当だろう。

 その成長の早さ。何よりも絶望を知り、途方もない脅威を前にしても輝くその精神に。

 士は一つの確信を得ていた。


「お前達はいつかきっと、俺と同じくらい―――いや。()()()()()()()。少なくとも俺はそう思う」


 この四人はいずれ、自分(Sランク)をも超える。そんな確信を。

 突拍子もない士の発言に四人は驚いた様子で顔を見合わせる。しかし、すぐそれぞれにあり得ないといった表情を浮かべ始める。


「士さんより強くか………」


「あんまりピンと来ないね」


「スケールがデカい」


「話が飛躍し過ぎよ」


「えぇぇ………?」


 期待していた反応とは違うものが返って来たことで士は肩透かしを受ける。そして、どこか悲しそうな様子で小さく肩を落とした。

 そんなとき、四人共小さく笑みを浮かべる。


「けど―――」


 聞こえて来た春の声に士は顔を上げる。まるで先程までの発言を否定するような話の滑り出しに、士の期待は高まっていく。

 そして、士の期待に応えるように春は不敵な笑みを浮かべて言い放った。


「いつかは超えるつもりです」


「っ! ハハッ!」


 今度は期待通りの言葉が返って来た。

 しかし、その言葉に込められたであろう覚悟は士の予想を超えていた。

 生意気だが頼もしいその言葉と四人の表情に、士は上機嫌そうに笑い声を上げた。


「ああ! 期待してる!」


 自分を超えるだろう四人の未来に想いを馳せ、士は満面の笑顔を浮かべた。







 四人との修行を終え、一人訓練室に残った士。床に腰を下ろして壁に背中を預け、目を閉じたまま天を見上げて思いに耽っていた。

 そんな中、士は唐突に目を開いて顔を下に向けると、襟から隊服の中に右手を入れる。少しして現れた右手には、首周りに細い銀色の線が伸びたペンダントがつままれていた。


 ペンダントは開花した桜の花をモデルとしており、銀色に輝く花弁の内の一枚が鮮やかな桜色に染まっているのが特徴的であった。

 士はそのペンダントを愛おしそうに。しかし、どこか悲しそうに見つめていた。


「………あいつらを見ていると思い出すよ」

 

 士は誰かに語り掛けるように独り言を呟く。そして、過去の自分達の日常を思い出していた。


『士! 恵介! 今からご飯食べに行こうよ!』


『俺は構わないぞ』


『俺はいやだ』


『ええ!? そんなこと言わずに行こうよ!』


『めんどくせぇ』


『みんなで食べたら楽しいし美味しいよ絶対! ねえねえ! つかさー!』


『だあああ! 分かった! 分かったから引っ張るなよ(さく)()!』


『やったー!』


『ったく………』


『ふっ、お前は本当に咲良の押しに弱いな』


『コイツの押しがおかしいんだよっ!』


『あはははは!』


「………………」


 もう戻ってくることは無い過去の日常。しかし、何にも代えることが出来ない大切な思い出。

 楽しさと悲しさを同時に抱きながら、士は左手でそっと瞼の上から自身の両目に触れる。まるで壊れ物に触れるかのように、優しく指先で撫でる。そして、左手を離して目を開けると再びペンダントに目を向けた。


「俺はみんなを守れてるか? 咲良」


 大切な人の名を呼び、ペンダントに問いかける。すると、その問いに答えるかのように桜のペンダントは小さく揺れ、照明の光を反射するのだった。





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