11-2 いつかは超えるつもりです(中編)
四人に対する現状の実力確認と評価を終えると、士は次の段階に話を進める。
「それじゃあ、次は今後の改善点や課題についてだ」
士の言葉に、春達四人に少し緊張が走る。
強くなっていたと高評価を貰うのは嬉しいが、四人が今一番欲しているものは強くなるための何かである。士から伝えられようとしている改善点や課題はまさにそれであり、四人から発せられる威圧感がそれを物語っていた。
「「「「―――!」」」」
「圧がスゲェな………。それじゃあ順番はさっきと同じで良いか。まずは春」
「はい」
「お前は………特にない」
「………は? え、無いんですか?」
予想外の言葉に呆気に取られ、思わず聞き返してしまった春。
士から告げられたことは強くなりたい春には不満な答えであり、捉え方によってはこれ以上強くなる見込みがないと捉えることも出来る。
士も春の表情からそれを読み取る。すると士は動揺する春に対し、落ち着いた様子でそれを諫めた。
「早まるな。正確には今の基礎鍛錬をもっと続けろ、だ。お前はそれだけで十分に強くなれる」
「………??」
「なるほどな」
「それはそうね」
「確かに………」
そう言われても尚、その意図を春は察することが出来ずに首を傾げる。ただ他の三人は理解したのか、納得の表情を浮かべていた。
そして、三人とは違って首を傾げる愛弟子に、士は説明を始めた。
「春の闇魔法は強力だ。格上相手にも通用する攻撃力を既に持ってる。そして、その闇魔法をお前の身体能力で生かすには結局基礎が大事になってくる。魔力量、魔力出力、魔力操作。そういう基礎を鍛え上げるだけで闇魔法は勿論、お前自身も劇的に強くなれる」
「なるほど。………でも、他には無いんですか? 遠距離攻撃とか」
「今のお前じゃ無理」
「即答!?」
「そりゃ欲を言えば遠距離での攻撃手段や、遠距離相手に何らかの対抗手段が欲しいところだが………。春自身の才能も、何より闇魔法自体が遠距離での活用に向いてないみたいだからな」
「うっ………!」
痛いところを突かれ、春は先程までの勢いを潜めてしまう。士が告げたのは、春がここまでの戦いで一切遠距離攻撃を使わなかった理由。
自身の才能と魔法の適正。この二つが大きな理由であった。
遠距離攻撃を仕掛ける相手に対抗する手段で真っ先に思いつくのは、こちらも遠距離攻撃を用いることである。
もちろん春も真っ先にその発想に至る。身近にいる同い年の魔法師が十六夜と篝ということもあり、尚のこと遠距離に意識が向いた。
しかし、その結果は散々であった。
十六夜や士のように魔法を伸ばすことも出来なければ、篝のように放つことも出来ない。魔法を使用せず、魔力のみで同様のことをしようとしても似たような結果に。まだ魔法使用時よりは可能性が見えたくらいが救いであった。
魔法の適正。そして、自身の遠距離魔法の才能の無さ。それを知ったときは酷く落ち込んだのを春は思い出した。
「まあ、それも基礎を鍛えていけばどうにかなるかもしれない。春、お前はとにかく基礎を鍛えて闇魔法を強くして、戦いの経験を積むんだ。それが今、お前が強くなるためにすべきことだ」
「………はい」
今度は首を縦に振り、返事をする春。しかし、目は真っ直ぐ士を見据えど表情は晴れやかではない。
士の説明に納得こそしたが、それによって強くなった自身の姿を頭に思い描けていないようだった。
その様子に士も頭を悩ませるが、まあ春なら大丈夫かと気を揉むのをやめる。そして、次に課題を伝える相手である耀に顔を向けた。
「次に耀」
「はい」
「耀がやるべきことは二つ。魔法や魔力の出力を上げることと、光魔法の速度に慣れることだ」
「出力ですか?」
「そうだ。耀の場合、魔力量は四人の中でダントツに多い。だが、その魔力量を十全には扱えていない。耀の魔力量を百だとするなら、俺が見た閃光剣って技の出力は五か六ってところだろうな」
「………え?」
「「「ハァ!?」」」
耀の出力の割合に本人を含めた全員が驚く。特に耀以外の三人は声を荒げて驚いた。
「あれで百分の五!? 嘘だろ!?」
「今までのと変わらない威力してたぞ」
「以前に閃光剣は一回。よくても二回が限界って聞いたのだけれど………」
「だそうだが、どうなんだ耀?」
「え、えっと………」
春達三人はじーっと耀を見つめ、士はその様子をニヤニヤと楽しそうに見ながら言葉を挟む。
そして、耀は三人の圧に困惑しながらも自身の違いを言葉にしながら確認していった。
「言われてみると、確かに魔力量は以前より増えたかも………」
「自覚無かったのか………」
「お前が言うな」
「あなたが言わないで」
「ごめんなさい………」
自覚が無かったのはお前もだろ。直接言葉にはされなかったが二人が言ったのはこれであった。春も言ってから気づいたのか、二人の言葉を素直に受け入れて謝罪する。
そんな中、士は四人に背を向けて必死に笑いを押し殺していた。
「………! ………っ!!」
「士さん笑い過ぎ」
「い、いや………ワルいワルい。なんかコント見てるみたいで面白くて」
「他人事だと思って………!」
声を押し殺してはいるがブフッと口から洩れる士の息に春は怒りの目を向ける。士は軽く謝罪するが、言葉と態度からは全くそんなことを思っていないことが分かり、春の怒りは更に増すのだった。
「いやー、面白いものを見た」
「やっぱり悪いなんて思ってないな!」
「はいはい、それは置いといて。耀の魔力量が増えた理由なんだが、まあ春と同じだろうな」
「「やっぱり」」
「元々、人の持つ魔力ってのは秘められていて使えないところがある。耀の魔力が爆発的に増えたのはその魔力が目覚めたのも理由の一つだな」
耀の魔力量が爆発的に増えた理由を士が説明し、それに四人は納得する。
士が言う通り、人が持つ魔力は使える部分と使えていない秘められた魔力があるとされている。このことは割と世間では知られていることであり、四人が深く聞き返すことはなかった。
「知らない奴も多いが自身が扱える魔力が増える時は容量そのものが増えるのと同時に、自身に秘められた魔力を引き出せるようになるからだ」
「逆に鍛えていく中で魔力量の伸びが極端に悪くなる時は、秘められた魔力を引き出しきったことになる………か」
「その通りだ十六夜。まあ、耀も含めてお前達には秘められた魔力はまだまだある。その心配は無いぞ」
「私まだあるんだ………」
「どんだけだよ………」
これだけ一気に魔力が増えたのにまだ秘められた魔力があると告げられた耀。それには三人だけでなく当事者である耀も驚きと呆れを露わにしていた。
唖然とする四人。しかし、このままでは話が進まないと士は強引に話を続けた。
「話を戻すぞ。今の耀の魔力量はCランクどころかBランクにも迫る勢いだ。だが、それだけの魔力量を持っていても出力が百分の五程度じゃ宝の持ち腐れだ」
「なるほど。だから出力の向上………」
「そういうこと」
士の説明を聞くうちに復活した四人。そして、耀はその説明に自身に課せられた出力の向上の意味を理解した。
「そして、二つ目の光魔法の速度に慣れるだが………。これに関して説明は要らないか」
「はい。それは前々から課題だったので」
「それって前に言ってたやつ?」
「うん、そうだよ。前にも言ったことあると思うけど、私の光魔法って魔法自体の速度はかなり速いんだよね。でもマックススピードだと制御が出来ないから、かなり抑えて使ってるんだ。白の飛刃とかがそう。光を纏って移動するのもあの速さに反応出来ないから、事前に範囲と道筋を決めてから使ってるんだ。そのせいで単純な直線とか短い距離でしか使えないんだよね」
耀は自身の光魔法の性質と、それに対して自分がどういう状況にあるかを語り始める。どちらかといえば不甲斐ない話のせいか、いつものような明るさが抑え込まれ、落ち込み気味に話していた。
そして、耀の説明に士は感心した様子を見せていた。
「それだけ自分で分かってるなら十分だ。もし光魔法の速度に慣れることが出来たら、そのアドバンテージは計り知れないものになる。一つ目の課題に比べて果てしなく時間が掛かるだろうが、めげずに頑張ってくれ」
「はい!」
春とは違い、明確な課題と強くなった自分を思い描ける耀は力強く返事をする。その姿に士も満足そうに頷くのだった。
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