10-4 このままで良いワケ無いよな?
星導市支部に着いた四人。建物内に入るための自動ドアを過ぎると、その先に立っていた人物に四人は足を止めた。
「士さん?」
「よっ。待ってたぞ四人共」
そこで待っていたのはSランク隊員の士であり、右手を軽く上げて挨拶をする。笑っている士とは対照的に、四人は驚いた様子で士を見ていた。
「士さん、確か拳磨の一件で異界を探索するんじゃ………」
「してたよ、一時間くらい前までな。探索が終わって戻って来たんだよ」
士はSランク喰魔の拳磨が出現したことで、その調査と討伐のためにここまでやって来ていた。昨日も支部に士の姿は無く、しばらくは姿を見ることは無いだろうと思っていたために士が居ることに少々面食らってしまったのだった。
しかし、帰って来たならそれはそれで聞きたいことはある。
「それで拳磨は見つかったんですか? 士さんなら魔力の痕跡とか辿れますよね?」
「ああ、それについては後でな。とりあえず全員、この後予定はあるか?」
「特には………」
「やることが無いから訓練しようってことで来たからな」
「なら、ちょうど良かった」
士は上機嫌そうに笑いながらそう言うが、話の流れが読めない四人は眉を顰める。そんな四人に士は笑みを挑発的なものへと変えて告げる。
「久々に修行をつけてやるよ」
※
「それで、まず拳磨について聞きたいんですけど」
「ああ、まずはそれからだよな」
場所を変え、以前に春が自分の過去を耀に打ち明けた訓練室。
服装も春達は動きやすそうな運動着に着替え、士は隊服のままであった。そして、先程聞けなかった拳磨についての話を士へと振る。士もそのつもりであり、拳磨について語り始めた。
「拳磨についてなんだが、奴自体を見つけることは出来なかった」
「そうですか………」
「まあ、あれからかなり経ってるしな。仕方ないだろ」
この間の支部長室の会話でも拳磨が一か所に留まる性格でないことは分かっている。春は残念そうにし、十六夜は仕方ないと割り切る。他の二人を含め、そのことに驚いた様子は見せなかった。
「でも『奴自体を』ってことは、別の何かは見つかったってことですよね?」
「ああ。奴の魔力の痕跡を見つけた」
「やっぱり!」
推察が当たったことで耀は嬉しそうに笑顔を見せる。
士は自身が見つけた痕跡について語り始めた。
「かなり微弱で点々としてはいたが、魔力の痕跡は足跡のように続いていた。恐らくは歩きながら負傷箇所に魔力を流して傷の回復を図ってたんだろう。効果は微々たるものだが、何もしないよりその方が傷の治りが早くなる。特に異界の魔力から生まれる喰魔にとっては俺達人間より効果はある」
魔力の痕跡がどのような形で残っていたか、その経緯も推測を交えつつ説明していく。的確と言えるであろうその説明の中で疑問に思うことがあるならば、どうやって魔力の痕跡を発見したかである。
しかし、誰一人としてそのことに疑問を持つことは無い。その理由は士の“眼”にあった。
「さすが“魔眼”ですね」
「私達じゃ一週間も前の魔力なんて見ることはもちろん、感知することさえできないものね」
魔眼―――士の持つ魔法の一つ。目で使う魔法であり、正式名称で言うならば瞳魔法や眼魔法が正しいだろう。しかし、こちらより魔眼の方が通称として使われることが多い。
士の魔眼は見ることに特化し、透視や遠望などその能力は多岐に渡る。今回で言えば、常人では捉えることが出来ない微弱な魔力をその目で捉えたことが該当する。
この魔眼の力もまた、士がSランク足り得る要因の一つである。
「足跡のように続いてたってことは、拳磨の行方が分かったのか?」
十六夜が話の流れから拳磨の行き先を掴んだと思い、それを士に尋ねる。それが当たっていれば朗報なのだが、士は十六夜の予想に反して表情を曇らせた。
「それなんだが………、その痕跡が途中で分からなくなった」
「分からなくなった?」
「ああ。正確には途中からそこら中に魔力の痕跡を残して行方が分からないようにされていた。さらに付け加えて、ダミー以外の痕跡は一切なかった。途中から痕跡が残らないように意識してたってことだ」
「あの拳磨がそんな細工を………?」
耀が信じられないといった様子で首を捻る。それは他の三人も同様であり、眉を顰めて心に疑問を抱いていた。
拳磨は強者との戦いを望み、それを己が命よりも勝る本懐としている。そんな奴がまるで追っ手を恐れるように細工をして行方をくらました。不可解に思うのも無理は無かった。
「恐らくだが、拳磨に入れ知恵をした奴が居る」
「それって………!」
「ああ。これも推測にはなるが、シカクって奴だろうな」
拳磨がしないであろう行動の裏に誰かが居ると推理する士。これまでのことを考えれば、それは糸霞空の可能性が高いと考えていた。
「例えシカクじゃないとしても、それ関連の何者かなのは間違いないだろう」
「………Sランクの仲間を集めてるってやつですか?」
「そういうこと」
少なくとも拳磨と何者かが手を組んでいる可能性は上がった。事態はどんなところまで進んでいるのか予測できず、その謎と不安に四人が顔を顰める。
そんな中、士は挑発的な笑顔を作って四人へと語り掛けた。
「まあ、これで拳磨が何者かと繋がってる可能性は上がったわけだ。そして、春と白銀さんはそんな奴らにほぼ間違いなく狙われている。二人は勿論だが十六夜や篝も、お前達の性格上間違いなくこの件には首を突っ込むだろう。―――だが、お前達はこの間Sランク喰魔の拳磨に負けた」
「「「「!」」」」
事実ではあるがその言い方は許容できない。しかし、言い返せない。そんなもどかしさと怒りをぶつけるようにムッと四人は目を鋭くさせて士を睨んだ。
しかし、士は四人の目を気にしない。それどころかより一層挑発的な笑みを浮かべた。
「Sランク喰魔に狙われてるっていうのに。いや、それ以前に。魔法防衛隊として凶悪な喰魔や魔法師から人々を守る立場のお前達がこのままで良いワケ無いよな?」
「「当たり前だ」」
「勿論」
「言われるまでも無いわ」
「なら、どうする?」
挑発に次ぐ挑発。言葉だけでなく、目でも四人を煽っていく。四人の闘志が燃え上がるには十分過ぎる燃料が投下された。
「「「「強くなるに決まってるだろ」」」」
「ハハッ! 良い返事だ」
生意気な力強い返事に士は嬉しそうに笑う。
Sランク喰魔に負け、かなりの重傷を負わされた。それに付け加え、その相手がまだ自分達を付け狙っている。心が折れて魔法防衛隊を辞めるどころか、精神が崩壊してもおかしくはない。
それでも、この四人は折れない。自身を襲う絶望に立ち向かう勇気と力強さを持っていた。
(一切の迷い無し。もしかしたら多少はビビってるかもと思ったけど、要らない心配だったか)
耀のことはまだ深く知らない。だが他の三人のことは知っている。特に春と篝に至っては深い絶望を知ってなお、ここまで進んできたのだ。
元より凄まじい精神力をしているのは分かっていたが、改めてその強さを目の当たりにした。
(まったく、凄い子供達だよ)
そして、何の憂も無くなったことで心置きなく次へと進むことができる。
「それじゃあ、修行を始めようか」
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