10-1 騒がしい日常
支部長室での会話や春の両親の墓参りから明後日のこと。任務やその際に負った怪我の治療を終え、春達四人はしばらく休んでいた学校へ再び通う事となった。
そして、学校へと登校した四人は職員室へと足を運んでいた。
「じゃあ四人共、電話でも聞いたけどもう大丈夫なんだね」
「はい」
「色々とご迷惑をおかけしました」
「いい! いい! 頭なんて下げなくて! 四人に比べたらそんな大変なことしてないから!!」
職員室で四人と会話をするのは担任である鈴木先生だった。四人が軽く頭を下げると鈴木先生は目をギョッと大きく開き、慌てて頭を上げるように言う。
そんな先生の態度に四人は頭を上げた。
「いやぁ本当、無事でよかったよ。入院した話を聞いたときは肝を冷やしたからね。クラスの皆もかなり心配してたよ」
「あー、まあ………」
「グループロードもそんな感じだったな」
メッセージアプリ『ロード』。メッセージアプリとして多くの人に使われているスマホアプリ。
そこでのグループ会話にて元気なことを伝えると皆からの心配のメッセージが投稿され、会話がとてつもない勢いで流れていくのを四人は思い出してた。
「ああ、そうなんだ………」
四人の何とも言えない微妙な表情に鈴木先生も言葉を失い、苦笑いをする。その直後、鈴木先生は苦笑いをやめて真剣な眼差しで四人を見つめていた。
「ありがとう。この街を守ってくれて」
優しい笑顔で感謝を伝える鈴木先生。デスクの椅子に座ったままではあるものの、その表情と声音から誠意は十分に伝わっていた。
春、耀、篝の三人は嬉しそうに笑顔を浮かべる。十六夜は三人に比べると反応は薄いが、小さく笑っていた。
「それと、教室に行ったときの覚悟もしておいた方がいいと思うよ」
「「「?」」」
「ああー………」
感謝の直後に忠告の言葉がやってくる。
春、耀、篝はその落差もあってか言葉の意味が分からずに小首を傾げる。しかし、十六夜だけはその言葉の意味を察したのか遠い目をし、面倒くさそうな声を漏らしていた。
※
「うおおおおお! お前らああああ!」
「無事だったあああああ!」
「よがっだーーーー!」
自身の教室へと入った四人。その四人を待ち受けていたのは心配と安堵でテンションがおかしくなったクラスメイトであった。
「桃山さん怪我は!?」
「え、ええ。大丈夫よ………」
「白銀さんも!? 傷跡とか残らなかった!?」
「大丈夫大丈夫! 一切無いよ!」
「立花! 痛い所とかないか!? 傷跡とかは!?」
「無ぇよ。完治してる」
「よかった! 立花君の顔に傷跡が残ったら大事だもんね!」
「チッ………少しくらい顔に傷跡残せよ美少年が………!」
「ちょっと! 誰よ今の!?」
「コイツだ!」
「やっちまえ!」
「ぎゃあああああ!?」
「黒鬼いいいい! よがっだーーー!」
「うおおおあああ!? 鼻水垂らした状態で近寄るなーーー!」
クラスメイト全員が四人の無事を確認しようと詰め寄り、質問攻めにしてしまう。広い教室で一か所に三十人近くの人が集まる様は不思議なものであった。
そして、なかなか見ることは無いであろう混沌な空間がそこには広がっていた。
「だああああ! 心配は嬉しいけど一旦離れてくれーーー!」
※
「あー、凄い目にあった………」
「他のクラスの奴が来なかっただけよかったな」
「後から来そうだけどな」
「悪い。困らせるつもりは無かったんだ」
「ああ、分かってる」
春は自分の席に座り、十六夜は近くの机に腰かけていた。そんな二人の様子はどこか疲れ気味である。
その原因は自分達のせいだろうと遠藤が申し訳なさそうに謝ると、春はひらひらと右手を振って気にするなと伝えた。
『えええええーーー!?』
『キャアアアーーー!!』
「ん? なんだ?」
「騒がしいな後ろの女子達」
教室の後ろに集まっている十人くらいの女子達。その中には耀と篝も居り、特に耀はとても幸せそうに笑っていた。そして、先程の女子達の悲鳴に近い歓喜の声に教室中の視線が集まる。
なぜあんな声が出たのかと皆が聞き耳を立てる中、その発言は室内へと響き渡った。
「黒鬼からプロポーズされたの!?」
「マジで!?」
「そうなんだー! えへへへ………!」
『………は?』
その瞬間、視線は後ろの女子達から春へと移る。十六夜は脱出するように春の側から即座に離れ、春は逃げるように皆の視線から目を逸らした。
「………………」
「プ、プププププ!」
『プロポーズぅぅぅぅぅぅぅ!!?』
遠藤の声を皮切りに、事情を知らぬ男子全員と他数名の女子が叫ぶ。その声量に春が両耳を抑えると、先ほどとは違う理由で皆が春の元へ皆が詰め寄った。
「お、お前プロポーズってマジか!?」
「いつ!? いつプロポーズしたの!?」
「プロポーズの言葉は!?」
「結婚式はいつだ!?」
「ご祝儀ってどれくらいだ!? 誰か教えてくれ!!?」
「馬鹿! まだ結婚できる年齢じゃないでしょ!?」
「だあああ! うるせえええ! ていうか何人か遊んでるだろ!!」
再び訪れる混沌。春は近くで騒ぐクラスメイトに負けない声量でツッコみを入れた。
「まあ、こうなるよな」
「私達も昨日聞いたときはビックリしたものね」
密集するクラスメイト達から離れ、教室の隅で会話をする十六夜と篝の二人。昨日その報告を受けたことを思い出し、目の前の惨状に納得する。そのときは篝はいつものことながら目を輝かせていたが、十六夜でさえ大きく目を見開いて驚いたのだ。
こうなることは既に分かっていた。十六夜は目の前の面白可笑しい光景に笑い、篝も十六夜に釣られるように小さく笑っていた。
そして、件の春はというと詰め寄るクラスメイトに弁明をしていた。
「ていうか、あれはプロポーズとは思えないんだよ」
「じゃあ、なんて言ったんだよ?」
「それは………、いつか一緒になりたい人と紹介を………」
『プロポーズじゃん』
「違―――!」
「違うの?」
否定をしようとした瞬間、耀が落ち込んだ様子で春を見る。そして、その姿に春はあっさりと屈した。
「―――くないです。はい」
「だよね! ふふっ!」
落ち込んだ様子から一転し、耀は上機嫌そうに笑う。
その一連のやり取りを見ていたクラスメイトは皆、こう思った。
((((((尻に敷かれてるなー………))))))
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