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9-7 墓地での出会い


 物凄い今更なのだが、もしかしてこの作品のジャンルって文芸のほうがいいのだろうか?


「ごめん。急に連れてきちゃって」


「ううん、いいよ。むしろ、連れてきてくれてありがとう」


 墓参りを終え、出口に向かって歩く二人。その手は来たときのように繋がっているが、違いが一つ。

 指を交互に相手の指の間に入れて繋ぐ、世間では恋人繋ぎと呼ばれる手の繋ぎ方をしていた。


「別に感謝されるようなことは………」


「私を元気づけようとしてくれたんでしょ?」


 私は分かっています、とでも言いたげに自信満々な耀。それに対し、春は若干申し訳なさそうな表情をする。


「………半分はそう。でも、もう半分は自分のため。俺自身、不安だったからここに来たかったんだ」


「………そっか。それで、元気は出た?」


「ああ、耀のおかげもあってな。ありがとう」


「フフッ、どういたしまして!」


 先程までの重苦しい空気はどこへやら、墓地には似つかわしくないほどに元気な二人がそこにはあった。

 そんなとき、二人の前から一人の男性が歩いて来る。目の隈は濃く、頬骨が少し浮き出るほどにやつれ、髪はぼさぼさで、髭もしばらくは手入れしていないであろう無精髭。しかし、それとは真反対とも言えるキッチリとした黒の喪服を身に纏い、鮮やかな花束を抱えていた。


 自分達の他に墓地に現れた人物であり、目を引くには十分な見た目をしていた。

 二人の視線は吸い寄せられるように男性へと向かい、男性の視線も二人へと向かった。


 交わる視線。二組の距離が縮まり、目の前まで来ると相手側の男性が突如として足を止める。それに()られてか、二人もまた足を止めてしまった。


「こんにちは」


「「こんにちは」」


 軽く頭を下げて挨拶をしてくる男性。二人は手を繋ぐのを止め、同じように挨拶をした。


「若い二人だけで墓参りとは………感心だね」


「ど、どうも」


「ありがとうございます」


 男性が二人のことを褒める。耀は自然に御礼を述べるも、春はぎこちない返し方をしてしまう。

 コミュ障というわけではないが、墓地で喪服を着た見知らぬ男性に話しかけられればこうもなるだろう。

 男性も春の返し方を不快に思うことは無く、会話を広げていく。


「二人は姉弟(きょうだい)………いや、恋人かな?」


 見たときは恋人繋ぎで歩いていたのだ。姉弟よりはそっちの方がしっくりくるだろう。


「ええ、そう―――」


「違います」


「「………え?」」


 春がそうですと言おうとした瞬間、それを否定したのは耀であった。

 春と男性の二人が同時に困惑する。なぜ否定したのかと思う二人だが、その答えはすぐに出た。


「恋人じゃなくて、婚約者です♪」


 なんの躊躇いも無く、耀は満面の笑顔でそう答えた。その途端、春は赤面し、男性は愉快そうに笑い声を上げた。


「あははははっ! そうかそうか! 婚約者か! あははははっ!」


「………!」


 楽しそうに笑う男性の声に比例するかの如く、春は顔を赤らめて俯いていく。しかし、否定もしなければ怒るような態度も取らない。案外、春も満更ではないということを示していた。


「あははははは、………はあ。いやいや、こんなに笑ったのは久しぶりだよ」


 そう言うと男性の笑顔は楽しいものから一転、悲しそうなものへと変わる。そして、何かを思い出すように二人のことを遠い目で見ていた。


「私の娘も生きていたら、ちょうど君達ぐらいだったな」


 男性はポツリと、小さく一言を(こぼ)す。心から滲み出たようなその一言はとても悲しそうであり、とても寂しそうであった。

 そんな男性の表情に春は自然と話しかけてしまった。


「………娘さんの墓参り、ですか?」


「………娘と、妻の墓参りだ。七年前、喰魔(イーター)のせいで………」


 返ってきた答えはより残酷なものであった。二人は表情を暗くさせ、掛ける言葉を失っていた。


「現実とは、なんとも非情で残酷なものだな。何か悪事を働いたわけでもない。日々を穏やかに過ごしていた者が、何の理由も無くその日常を奪われるのだからな」


 一度蓋を開けてしまうと、感情の波を抑えることが出来ない。苦しい現実を嘆き、弱音を吐き捨てる。

 男性の言葉に二人は更に表情を暗くさせる。だが、春はすぐに意を決したように顔を上げ、男性のことを真っ直ぐ見つめた。


「俺も五年前、喰魔に目の前で両親を殺されました」


「………なっ!?」


 春の告白に男性は面食らったように動揺し、耀もまた春の意図が分からず困惑する。二人に代わり、今度は男性が掛ける言葉が見つからず口を開いたまま固まる。

 そんな男性に春は語るのをやめなかった。


「母さんと父さんに助けられて、俺は生き残りました。でも自分は何も出来なくて。それがたまらなく悔しくて、強くなりたくて、誰かを守れるようになりたくて俺は魔法防衛隊に入りました」


「ま、魔法防衛隊………! ということは、もしかして君も………?」


「はい。魔法防衛隊員です」


「………君達のような子供が、か」


 男性は二人が魔法防衛隊員ということに驚愕し、唖然とする。そして、中学生という子供である二人がそんな危険な仕事をしているということに、感心や悲しさが混ざり合った複雑そうな表情をしていた。


「俺は今よりももっと強くなります。そして、もっとたくさんの人達を守れるようになって見せます。必ず………!!!」


「―――!!!」


 男性は息を吞む。およそ中学生とは思えないその気迫と真っ直ぐに自身を見つめてくる曇りの無いその目に。

 そこでようやく春は我に返り、目の前で固まる男性の姿を見て羞恥心を抱き始めた。


「すみません急にこんなこと!」


「………いや、謝らないでくれ」


 顔を赤くして謝る春に対し、男性は優しい笑みを浮かべていた。そして、先程よりも快活な笑顔を二人に見せる。


「大変だろうが、頑張ってくれ………!」


「「………はい!」」


 男性からのエールに二人は元気よく返事をする。その快活な笑顔に応えるかのように。







 会話を終え、男性は墓地の奥の方へと歩いて行く。その背中を春と耀の二人は見続けていた。


「………もっと強くなろう」


「………うん!」


 去り行く男性の背を見て、二人は決意を更に強くする。

 彼のような人を、少しでも無くすために。





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