9-5 世界に関わる重大な事案
新年! 明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
というわけで、新年一発目です! どうぞ!
「喰魔達は春君と白銀君を利用し、何かを企んでいる」
「「っ!!!」」
突き付けられた恐怖に春と耀の背筋が凍りつき、息を吞む音さえ鮮明に聞こえる。
二人はしばらく硬直すると、落ち込む様にゆっくりと顔を下げていった。
「「………………」」
分からなかったわけではない。目が覚めてから考える時間は十分にあり、拳磨の言動からも察するには十分過ぎる事だった。
ただそれでも、他人から改めて言われることで事の重大さを再認識させられた。
俯く二人に篝と愛笑は心配そうな表情をし、十六夜と士は事態の深刻さに表情を険しくさせる。幸夫もまた、苦しむ二人を見て苦しそうな表情を浮かべる。
Sランク喰魔が自分達を利用しようとしているなど、中学二年生の子供が背負うにはあまりにも苦しい。しかし、それでも伝えなければいけない。
「話を聞いていると明確に二人を、闇魔法と光魔法を使って何かをすると言ったわけではない。だが、二つの魔法の使用者である二人を殺すわけにはいかないと言った。何か企んでいることはほぼ間違いないだろう」
「ちょっとお爺ちゃん!」
二人が混乱しているにも関わらず、追い打ちをかけるように幸夫は話を続ける。そんな幸夫に対し愛笑は一歩前へと踏み出し激昂した。
しかし、そんな愛笑を制したのはなんと春であった。
「いいよ姉ちゃん………」
「春………だけど」
「これは、ちゃんと聞かなきゃいけないことだから。な? 耀」
「うん」
未だ元気とは言えないが、春はしっかりと愛笑の目を見て意志を伝える。耀も首を縦に振り、春に同意することで聞く意思を示す。
こんな状況でも二人が聞くと言ったことに愛笑は感心すると同時にどこか悲しさを覚え、複雑そうな優しい笑顔を浮かべた。
「………分かった」
そう言うと愛笑は僅かに前へと出た体を下げる。そして、二人の意志に沿うように清聴する姿勢を見せた。
幸夫は春と耀の二人が話を受け止める覚悟を見せたことに愛笑のように心を打たれ、幸夫を覚悟をもって二人に話し始めた。
「未だ憶測の域を出ないが、Sランク喰魔達はいずれ二人を狙って来る可能性がある。そして、このことはおいそれと他人に知られるわけにはいかない。余計な混乱を招きかねないうえに、二人が迫害を受ける可能性がある。………………考えたくはないが『二人を殺して喰魔達の企みを潰してしまおう』などと考える輩が現れるかもしれない」
目的が判明しているわけでもなければ、計画があるのかすらハッキリしていない。しかし、可能性は大いにある。Sランク喰魔が関わっているともなればただ事ではない。
どんな災厄が起こるかも分からない状況で、被害を二人だけで終わらせられるならそれが良いと考える者が居てもおかしくはなかった。
「そして二人の身に起こる様々な不思議な現象。二つの魔法によるものなのか、二人自身に何かがあるのか。どんな理由かは分からないが喰魔達の件と無関係とは思えない」
Sランク喰魔が狙う闇魔法と光魔法の使い手。その使い手である春と耀に起こる様々な現象。この二つに何も関係が無い、と断定することがどうしても出来なかった。
「ゆえに、二人の身に起こった不思議な現象について今後は誰にも話さないようにして欲しい」
そしてどんな情報からこの件が露呈するか、別のトラブルの原因になるか分からない。話を広めないのは、その可能性を排除するためのすぐに取れる予防策であった。
しかし、それについては既に問題がある。
「俺の場合、じいちゃんやばあちゃんが夢について知っているのですが」
「ああ。楽人と依里さんか」
「はい」
「私も父と母と兄。それと親友にも夢や運命の人について話しています」
「なるほど………」
春と耀の二人は既に、この場に居る者達の他に話してしまった相手が居る。その場合はどうすればいいのかと幸夫に尋ねていた。
「春君はいいとして、白銀君。君の事だから相手には他の人には言わないように伝えているのだろう」
「はい」
「ならば、もう相手にはこれ以上この話をしない。そして、もしそのことについて聞かれた場合、難しいとは思うが上手く誤魔化してくれ」
「ごまかす………ですか」
「ああ。君達に負担を押し付けることにはなるが、それでお願いしたい」
知られている以上は仕方がないとそこは割り切る。しかし、それ以上は知られないようにするというのが現状の最適解だと幸夫は考えていた。誤魔化すことに関しては二人に全て押し付けた形にはなるが、それ以外やりようがないため任せる他に無かった。
しかし、耀はその考えに少々不満があった。
「私の父と兄、それと親友も魔法防衛隊員なんですけどそれでもダメですか? 父はAランク隊員で兄はBランクなんですが」
「申し訳ないが黙っていてほしい。もし何かあった場合、知っている者に危害が及ぶ可能性がある」
「………分かりました」
「うむ。すまないね」
出来れば話したいが、大切な人達を危険な目には遭わせたくない。残念そうではあるが耀は幸夫の説明に渋々納得するのだった。
「ところで、親友というのは………?」
「私と同い年で本部所属のDランク隊員、白福琴音です」
「了解した」
知っている人物について把握しようと耀に親友の名を聞いた幸夫。父と兄についてはすぐに調べられるため、わざわざ聞くことはしなかった。
「他に何か言いたいことはあるかい?」
幸夫はそう問いかけると首を小さく左右に動かし、全員の反応を窺う。誰も何も言わず、幸夫の方を真っ直ぐ見るだけだったため、これ以上は何も無いと判断した。
「二人の不思議な現象については合体魔法などの必然的に周囲に知られてしまうこともある。この場合も最低限必要なこと以外は話さず、上手く誤魔化してほしい」
「「「「はい!」」」」
「了解」
「うむ。そして、言わなくても分かっているとは思うが、今回この場で話したことは絶対に口外してはならない。この一件は日本―――いや、世界に関わる重大な事案になるかもしれない」
「「「「「っ!」」」」」
本日何度目か分からない緊張が走る。
世界などといきなり話が大きくなったが、誰一人としてそれを否定しない。Sランク喰魔達が手を組み、何かを企むということはそれだけの意味を持つことだと理解していた。
「これは決して誇張などではない。それだけのことに関わったのだと自覚を持ち、気を付けて行動してくれ」
ただ淡々と言葉を紡ぎ、皆にその責任の重さを伝えていく。声を荒げたわけでも張り上げたわけでも無い。それなのに幸夫の言葉は室内に響き、それを謹聴する皆の体と心にもまた強く響き渡る。
返事こそしないが表情が強張った五人の顔を見て、幸夫は言いたいことが伝わったと理解した。
「今日はここまでだ。士はまだ私と話すことがあるため、この場に残ってもらうがな」
「了解です」
「うむ、今日は病み上がりのところを集まってもらい感謝する。ご苦労だった」
幸夫が締めの挨拶をし、Sランク喰魔拳磨の襲来に関する報告は終わりとなった。
※
春達が退室した後の支部長室。支部長である幸夫が自身のデスクの椅子に、Sランク隊員である士がその前で向かい合うソファの片側に腰かけていた。
幸夫はデスクに両肘を着き、組んだ手に額を乗せて俯く。その姿はどこか思いつめているように見え、時折聞こえる息を吐く音は溜め息に近かった。
「………なんとも、情けなくなってくる」
「………そうですね」
幸夫には先程までの覇気が無く、細い声で弱音を吐く。呆然と天井を見上げる士もまた、力ない声で呟くように返事をする。
「我々大人がどうにかしなければいけないというのに、子供にその責任を押し付けてしまうとは。それも、どうして春君に………」
幼少期に両親を亡くした少年が絶望を乗り越えて前を向き、恋人を作って幸せな人生を歩み始めた。そんな子に、まだ苦難を押し付けなければならない。
組み合わせた手に力を込め、今にも泣き出してしまいそうな勢いで幸夫は嘆く。
幸夫の嘆きを聞いた士はゆっくりと息を吐くとソファにもたれ掛かるのをやめ、未だに俯く幸夫を見た。
「あの二人が闇魔法と光魔法の使い手である以上、避けては通れません。世界の為、何よりあの二人自身の為にも。しかし、あの二人に全てを背負わせるなんてことはしません。俺達にだって出来ることはあります」
「………………」
その言葉に幸夫は顔を上げて士の方を見る。
自身とは違い、迷いなど一切感じさせないほど透き通った力強い目に対し幸夫は目を閉じる。その目から逃れるために、それを受け止めて自身の揺らいだ決意を再び固めるために。
「………そうだな。あの二人だけに全てを背負わせるなど、絶対にしない………!」
「ええ。俺達は俺達の出来ることを精一杯やりましょう」
強い決意を再び胸に抱く二人。
士は右手を自身の隊服の胸元よりやや上に持っていくと、何かを包み込む様に隊服を強く握る。そんな彼の脳裏に過るのは、自身を変えてくれた大切な女性の笑顔と約束だった。
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いつか、桜木士が主人公の過去編を書きたい。




