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9-4 現実は容赦なくその恐怖を突きつけて来た


「ひとまず話を整理しよう」


 次々と出て来た情報に頭を抑える幸夫。自分の思考を整えるのと情報を確認するために一度話を整理し始めた。


「Sランク喰魔(イーター)である拳磨はシカクという謎の存在から言われ、Aランク喰魔である傀頼の様子を見るために洞窟に現れた。拳磨は闇魔法と光魔法の存在を知っており、且つその使い手の所在を探しているような口振りだった。そして、その使い手である春君と白銀君に死なれると困る何かがある。これらが拳磨から得た情報」


 これまでの情報から重要な部分だけを抜粋し、簡潔にそれらを纏めていく。その手腕はさすが魔法防衛隊の支部長と言えるものであった。


「そして、拳磨が探していた魔法の使い手である春君と白銀君は同じ夢を幼少期から見続けており、その夢に現れる人物は互いに相手と酷似している。白銀君は幼少期から運命の相手が居ると思っており、その相手は春君だった。二人は魔力感知とは別に互いの気配をある程度の距離で察知できる。そして、二人は闇魔法と光魔法という対照的な魔法の使用者。光魔法は春君の体質、ひいては闇魔法の魔法・魔力の弱体化や破壊の影響を受けない。さらには不可能と思われていた闇魔法での合体魔法を使用し、使用した理由も説明ができない直感に近い何か………か」


「謎ばっかりね………」


「どれから片付けよう………」


「まずはSランク喰魔の(ほう)だろ。手始めに、シカクって奴が何者なのか」


 篝と愛笑が謎の多さにどれから手を付ければいいのかと頭を悩ませていると、十六夜が喰魔の話題を出す。そして、順を追って処理するために糸霞空(しかく)の名前を出した。


「そもそも人か? 喰魔か?」


「さあな。だが、人と喰魔が手を組むなんてまずあり得ない。それこそ喰魔同士が手を組むことよりもな。Aランク喰魔と繋がりがあったことも踏まえると喰魔だと思うが………」


 春の呟きに十六夜が答えるが、歯切れが悪い。しかし、それも仕方のないことであり、糸霞空が喰魔であると断定できる根拠や証拠が無いからであった。


「お爺ちゃん。シカクって名前に心当たりは?」


「残念だが無い。話を聞いて魔法防衛隊のデータを調べてみたが、それらしき名前はどこにも無かった」


「そっか………」


 支部長である幸夫ならと期待したが駄目だったために、愛笑は目に見えてがっかりする。幸夫が分からないとなると、次に聞く相手はもう決まっている。

 全員の視線が一斉にSランク隊員である士へと向けられ、士はその視線に対して気まずそうにぎこちない笑顔を浮かべた。


「俺もシカクって名前には心当たり無いな………」


「ってことは、シカクについては情報無しか」


 結局、糸霞空についてはこれといった情報は何も出ず。少々がっかりではあるものの、士と幸夫の二人が分からないのであれば仕方がないと割り切るのは皆早かった。


「分からないならば仕方がない。次は拳磨についてだ。Sランク喰魔“拳磨”の存在が確認されたのは今から約三年前。大規模な事件こそ起こしていないが奴は度々、我々魔法防衛隊の前に姿を現している。そして、多くの魔法防衛隊員が奴の手によって亡くなった」


「「「「「―――」」」」」


 その瞬間、春達の脳裏に過るのは討伐作戦のときのこと。突如として現れた拳磨の拳によって一瞬の内に二人の隊員が壁に叩きつけられ、帰らぬ人となってしまった。

 そのイメージに皆は表情を険しくさせ、春と十六夜は強く握り拳を作っていた。


「だが、奴と対峙したにも関わらず生還した者も少なからずいる。その理由は『もっと強くなったお前と再戦したい』と言われて見逃されたのがほとんどのようだ」


「ほとんど………ですか?」


 ほとんど、ということは他にも理由があると捉えられる。その言い方に違和感を覚えた春が幸夫に聞き返す。

 

「ああ。他の理由として例を挙げるなら、対峙した際に『お前は弱いし今は気分じゃない』と言われ、軽くあしらわれるか無視されたらしい」


「なにそれ?」


「完全に舐めてるわね。ムカつくわ」


 あまりにも適当な理由に耀は理解できないといった表情をし、篝は目を細めて苛立ちを露わにしていた。しかし、それ以上何も言わないのは、その適当な理由によって生きて帰って来れた者達の中に自分達が含まれていることを分かっているからであった。


「このように拳磨の一連の言動から分かる通り奴の目的は戦うことであり、殺して魔力を奪うことは二の次のようだ。そして、そのせいもあってか被害に遭うのは一般人ではなく魔法防衛隊員のことの方が多い」


「………厄介な話だな」


「ああ。言い方は悪いが、一般人が襲われるよりもタチが悪い」


 一般人から被害者が出ないことは喜ばしいことだが、かといって魔法防衛隊員から犠牲者が出ていいわけではない。さらに、魔法防衛隊員が減るのは喰魔や犯罪者の魔法師に対する抑止力が減ることでもある。魔法防衛隊員は魔力も一般人より多く、殺されて魔力を喰われれば喰魔が強くなる要因にもなる。

 一般人が殺されるよりもその被害は大きいと言えるだろう。


「うむ、魔法防衛隊としても野放しに出来る相手ではないことは確かだ。だが相手はSランクの喰魔。対応できる隊員も少なければ見つけることも難しい」


「それって逃げ回ってるってことですか? そんなことするタイプには思えないけど」


「いや、逃げるというより次から次へ相手を探して動き回っている、というのが我々の推測だ」


「あ、なるほど」


 見つからないことを疑問に思った春だったが、幸夫の答えに納得する。最高の戦いの中で死ぬなら本望と言った奴が逃げ回るとは思えなかったが、戦う相手を探して動き回っているのなら納得であった。


 ただ、それとは別に浮かび上がる疑問が一つ。


「そんな奴が誰かの指示でAランク喰魔のところに行った………か」


 士が呟いた言葉が、すべてを物語っていた。

 戦いを求めて動き回る奴が、Sランク喰魔が誰かの言うことを聞いて動いた。それがあまりにも信じられないものだった。


「シカク………少なくとも、Sランク喰魔が言うことを聞いてもいいと思える相手。想像がつかないわ」


「………たぶん、光魔法と闇魔法について拳磨に教えたのもソイツだと思う」


「その可能性は高いだろうな。拳磨のヤツがお前らの魔法について話すとき、なんか小学生が先生から習った知識を披露してる感じがしたしな」


 耀の呟きに十六夜は拳磨の言動を改めて思い出す。闇魔法と光魔法について話すときは自身の経験や学んだ知識のような確信めいたものは無く、誰かに教わったことを話す浮ついた印象があった。


「となると闇魔法と光魔法の使い手を探してたのも、その使い手に死なれると困る何かもそのシカクって奴が間違いなく絡んでるな」


「そういうことになるだろう」


 今回の拳磨の出現と闇魔法と光魔法については糸霞空が元凶であると幸夫は結論付ける。そして、ここまでの話し合いで分かったことを纏め始めた。


「ここまでで分かったことは拳磨はシカクという人物と繋がりがある。そして、先程立花君が言っていたが喰魔が人間と手を組むとは考えづらい。Sランクの拳磨が協力している点も踏まえると、シカクは同じS()()()()である可能性もまた極めて高いと言えるだろう」


 シカクはSランク喰魔、その推測に士を除いた全員が息を吞む。

 しかし、驚きこそすれど誰一人としてその推測に意を唱えることはしない。それは皆が薄々ではあるが察していたことを示していた。


「そして、シカクは仲間を集めている。―――それも、Sランク喰魔の仲間を」


 Sランク喰魔の拳磨と協力関係にあり、Sランクへの進化が目前であったAランク喰魔の傀頼とも関わりがあった。

 少なくとも、糸霞空がSランク喰魔に狙いを定めて関わりを持っているのは間違いなかった。


「「「「「―――!」」」」」


 かつてないほどの緊張が室内に走る。

 空調を操作したわけでもないのに室内の空気は一気に重くなり、肌に纏わりつくような不快感を覚える。体は強張り、有り余った力が体を僅かに震えさせた。


 Sランク喰魔が同じSランク喰魔を仲間として集めている。そんな最悪とも言える事態が起こっているなどと考えれば、この異様な空気も理解できる。

 しかし、室内の刺すような緊張感の正体はこれではない。


「その目的は定かではない。だが、言えることは一つ」


 なんとなく察していた。だが、言葉にはしなかった。

 目をそらし、出来ることなら違ってくれと思っていた。















「喰魔達は春君と白銀君を利用し、何かを企んでいる」


 だが、現実は容赦なくその恐怖を突きつけて来た。





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